4.イチジク    無花果

 

   アラビア南部からトルコ,地中海沿岸が原産で、クワ科の落葉小高木。エジプトでは4000年前にすでに栽培されていたことが王墓の壁画からわかっている。2006年6月に米科学誌「サイエンス」 にハーバード大学による研究チームが発表した論文によると、約1万1400年前のヨルダン渓谷にある遺跡から野生種ではない人の手が加えられたイチジクの実を発掘した。小麦よりも古く人類最古の栽培植物ではないかといわれる。いちじくの名は、中世ペルシャ語の anjir(インジル)を中国語に音訳した映(エ)日果(イジッカ)の転といわれる。また、1カ月で熟するので一熟であるともいい、花が咲いていないように見えるので無花果(いちじく)とも書かれる。しかし、花は実の中で咲き、無数の小果を付けこれが発育して甘味のある果肉となる。実といっても植物学上は花托(かたく)と呼ばれる部分である。

 

   アダムとイブが木の実を食べたあと裸が恥ずかしくなり、いちじくの葉を腰に付けたという旧約聖書の話は有名である。主産地はイタリア,ポルトガル,トルコ,ギリシャ,スペイン,アメリカのカリフォルニアなどで成熟期に雨が少ないので乾果とされて、料理や菓子の材料となる。わが国ヘは中国から寛永年間(1624~44年)に長崎ヘ伝えられ、古くから家庭果樹として親しまれているが日持ちが悪く傷みやすいことから、生食を主とするわが国では他の果物ほど市場生産は伸びなかった。本格的な栽培は昭和46年以後、米の生産調整の中で転作作物として愛知県で進められた。果実には蛋白質分解酵素・フイシンを含み消化・便秘に効果があり、ほかにカルシウム,クエン酸,リンゴ酸など栄養価の高い健康食品として見直されている、また嗜好の多様化もあって需要が伸びたが、近年は停滞気味である。品種には、夏に収穫するものと秋に収穫するもの、両者の兼用種があるが、ほとんどは秋果である。

   2021年の栽培面積は830.6ha,収穫量は10,143t、収穫量構成比は、①和歌山18.2%,②愛知16.7%,③大阪12.6%,④兵庫11.5%,⑤福岡8.4%、そして広島,奈良,京都,香川,新潟…と続く。品種は桝井ドーフィンが90%,あとが蓬莱柿ととよみつひめである。

選び方と保存   果実の先端が少し開いてしなびていないもの、日持ちが非常に悪いので保存は冷蔵庫へ。

旬   8~10月。

 

オイリング 油処理による成熟促進

 

 果実の直径が3.5㎝くらいで、果皮が黄緑色をして果頂部の目が赤く鮮明になったときに、マッチの軸に植物油(ナタネ油,オリーブ油)を一滴つけて目に落す。そうすると、熟期が10日くらい促進され、その後一週間で収穫可能となる。ギリシャでは紀元前3世紀に行なわれていたようである。

 

(1) 桝井(ますい)ドーフィン

 

 広島県佐伯郡の種苗業者,桝井光次郎氏が、明治42年にアメリカより導入したドーフィン。果実は出荷の中心の秋果で100g前後,果皮は赤褐色ないし紫褐色,果肉は桃色で肉質は多少あらく、甘味,芳香とも少ないので、品質としては今一歩だが、大果で豊産,輸送性にもすぐれ全国の栽培面積の90%を占めている。夏秋兼用種で、熟期は夏果で7月上~中旬,秋果は8月中~10月下旬。

 

(2) 蓬莱柿(ほうらいし) 在来種

 

 ポルトガル人によって寛永年間(1624~1643年・江戸時代前期)に伝えられ、日本に定着して長いため「在来種」や「日本いちじく」とも呼ばれる。果実は60~70g,糖度は16度前後,完熟すると甘酸適和して風味もありおいしい。秋果専用種で、耐寒性があり東北地方から九州まで広く分布,熟期は9月上~11月まで。

 

(3) その他

 

①ビオレ・ドーフィン Violette Dauphine…フランス原産で1910年ごろ東京大学農学部に導入された。果実は100~150gと大果,果肉は緻密で柔らかく甘味があり、香気もある。夏果専用種で、熟期が6月下~7月上旬と幅が狭い。

 

②ブラウンターキー Brown Turkey…1903年に農林省園試にアメリカから導入され、果実は50g,糖度は16度前後で酸味は少ない,果肉はやや密で柔らかく、品質はよいが日持ちは悪く家庭果樹向きである。夏秋兼用種で、熟期は夏果で6月下~7月中旬,秋果は8月下~11月。

 

③ホワイトゼノア White Genoa…1929年に農林省園試にアメリカから導入され、果実は70 ~100g,糖度は16度前後,味は淡泊で品質は中、欠点として、果肉が柔らかく日持ちが悪い。夏秋兼用種で、熟期は夏果で7月上~中旬,秋果は8月中~10月下旬。

 

④カドタ Kabota…1929年に農林省園試にアメリカから導入され、果実は30~60g,糖度は16度前後で酸味は少なく、品質はよい。欠点は大小の幅があることで、缶詰め,砂糖漬けなどの加工に適する。夏秋兼用種で、熟期は夏果で7月中旬,秋果は8月下~11月。

 

⑤ネグロ・ラルゴ Negro Largo…大正時代に導入され、果実は45g前後,果肉は緻密で柔らかく、糖度は22度前後と甘く酸味が少なく品質はきわめてよい。収量が少ないので家庭向き,秋果専用種で、熟期は8月中旬。

 

⑥とよみつひめ…福岡県農業総合試験場豊前分場で(蓬莱柿(ほうらいし)×VC-180)×(桝井(ますい)ドーフィン×VC-103)として育成され、2006年に登録された。名前は豊前分場の豊(とよ)と、蜜(みつ)のように甘いイチジク(ひめ)から命名。福岡県限定のオリジナルブランドとして栽培面積が増加中である。果皮は赤紫色で果肉は白い部分が多く柔らかで、果汁が多く、糖度が16~17度と甘く食味が優れている。生食はもちろん、ジャムやワインで煮込んだり冷凍してシャーベットもおいしい。産地は福岡、熟期は夏秋果兼用の中生種で8月中~11月上旬。

 

⑦セレスト Celeste…明治末から大正時代に導入された。果実は15~25gと小さいのが欠点,果肉は緻密で柔らかく甘味があり、品質は一番よく加えて豊産である。秋果専用種で、熟期は8月下~11月。

 

⑧ビオレソリエス…糖度が高く食味がよく、果皮は濃紫色で深みがあって美しい。また、果頂部が割れないので日持ちがよいといった特長がある。