9. サクランボ   桜桃(おうとう) Cherry

 

   アジア西部のカスピ海や黒海沿岸が原産地でバラ科、正式には桜桃(おうとう)という。大別すると次の通り。

1,ヨーロッパ系…①セイヨウミザクラ(甘果桜桃,生食用) ②セイヨウスミミザクラ(酸果桜桃,加工用)

2,東アジア系(中国原産)… ①シナミザクラ(中国桜桃)  ②シロバナカラミザクラ(白花中国桜桃)

 

   東アジア系の品種は江戸時代に清(中国)から導入、ヨーロッパ系は明治2年に北海道にプロイセン(ドイツ)のリヒャルト・ガルトネルが導入したとされるが、本格的な栽培は明治7年に勧業寮が欧米からリンゴ、ブドウなどとともにオウトウ,さくらんぼが導入されてからである。日本での栽培はセイヨウミザクラが主体をなしている。真っ赤に色づいた果実と、口にほおばると甘酸っぱい果汁は初夏の訪れを感じさせてくれる。爽やかな酸味と糖度との絶妙なバランスは初恋の味とも表現される。

 

   昭和48年までは、収穫量の70~80%までが缶詰めなどの加工用であったが、石油ショック等の需要減により、翌49年から生食向けを拡大するとともに、品質向上を図っている。昭和53年からアメリカ産サクランボの輸入も自由化された。これはサクランボやリンゴの害虫であるコドリンガ、及び、オウトウミバエが持ち込まれるおそれがあって輸入禁止となっていたが、当初は臭化メチルのくん蒸(果実温度が22℃以上で4時間)によって防除ができるとされ、2006年からは発生密度の低い園地に限定するなどにより、「燻蒸なし」での輸入が解禁された。

 

   栽培は収穫期に雨量が少なく夏の冷涼な地方に適するが、それは雨によって裂果(実割れ…収穫期近くに雨に当たると果皮から水分が吸収されて、果実の内圧が高まり果皮が裂ける)を起こすためで、最近はこの防止のためにパイプハウスやテント型の実割れ防止装置(雨が降ると樹上にテントのようにビニールを張るもの)が普及している。これで実割れが防がれ、雨の日でも収穫・出荷ができる。また、結実をよくするため数品種の混植とするのがふつうである。施設栽培(ハウス)は昭和40年代後半から始まり、当初の結実不安定を克服して今では12月下旬の加温で3月下旬の収穫となる。

  2023年の栽培面積は4,200ha,収穫量は17,300t、収穫量構成比は、①山形75.1%,②北海道8.5%,③山梨52%、そして秋田,青森,福島,長野…と続く。2021年の品種別栽培面積構成比は、①佐藤錦64.1%,②紅秀峰15.0%,③高砂4.0%,④紅さやか3.7%,⑤やまがた紅王(山形C12号)3.3%,⑥ナポレオン2.3%、そして水門(北光),南陽,紅てまり,正光錦,大将錦,香夏錦と続く。5年前の201年と比べたときに栽培面積は81.7%と減少、そのなかで、紅さやか,やまがた紅王,紅てまりだけが増加している。

選び方と保存   色が鮮やかで果皮に弾力がありみずみずしいもの、軸は緑色。雨の後のものは柔らかく、透明状のうるみ果になりやすいので注意。保存は冷蔵庫へ、冷しすぎると甘味がおちる。

旬   6月上~7月上旬。

(1) 紅さやか

 

 山形園芸試験場が昭和54年に佐藤錦にセネカを交配して1991年に登録された。果実は5~6g,果皮は帯朱紅色、過熟すると紫黒色となり、果肉は赤色で果肉内の着色はやや濃い。早生種としては酸味が少なく食味はよく、糖度14~17度となる。産地は山形、熟期は6月上旬。

 

(2) 高砂(たかさご)

 

 アメリカ・オハイオ州で1842年に、カートランド氏がイエロースパニッシュの実生を育成したもので、ロックポートビガローと名付けられた。わが国には明治初年に米国から導入され、明治43年に高砂と命名される。果実は4~6g、果皮は黄色と淡い赤とのまだらで、完全に熟すると紅色になり、果肉は柔らかいので輸送にはあまり向かない。糖度は11~12度,産地は山梨,山形,長野、熟期は山形で6月中旬。

 

(3) 佐藤錦(さとうにしき)

 

 山形県東根市の佐藤栄助氏が大正元年、ナポレオンと米国産黄玉を交配して育成したもの。命名は中島天香園の岡田東作氏で、昭和3年より販売された。果実は5~6g,果皮は黄色地に鮮紅色だが日当たりが悪いと色付きも悪い。果肉は果汁が多く甘酸適和して品質がよく、日本人好みの品種である。豊産で早くから結実をし、完熟時の糖度は約13度,高いものは16度くらいになる。

   2021年の栽培面積は2,239haとさくらんぼ全体の64.1%を占めてトップとなっている。産地別では、①山形86.0%、そして青森,北海道,山梨,秋田,福島,長野…と続く。熟期は山形で6月10~15日。


  (4) やまがた紅王 べにおう (山形C12号)

 

 山形県が1997年に紅秀峰×C-47-70(レーニア×紅さやか)を育成、名称を公募の結果2019年にやまがた紅王(べにおう)と決まり2020年3月に品種登録された。果実は3L~4L中心の大玉で大きいものは直径3センチ前後となる。着色良好で外観に優れる、糖度は20度以上と佐藤錦並みで食味もよい。果肉が硬く日持ち性に優れることから、輸出も期待されている。本格的な販売は2023年から始まった,産地は山形、熟期は6月下旬。

(5) 紅秀峰

 

   山形県園芸試験場が昭和54年に肉質,食味の優れた佐藤錦に大玉で果肉の硬い天香錦を交配して育成、1991年に登録された。果実は佐藤錦より一回り大きい約8~10gありハート型、果皮は鮮紅色から濃紅色、甘味が多く糖度は18~20度くらいで酸味が少ない、やや硬めで豊産性,日持ちがよい。さくらんぼの主力産地である山形県では佐藤錦が中心であり、収穫作業の労力が集中したり生産不安定の要因となっている。これを解決するために開発された品種である。産地は山形,山梨,北海道,青森、熟期は6月中~7月上旬。

 

(6) ナポレオン Napoleon

 

   明治初年に勧業寮が輸入したもので、ドイツ,フランス,ベルギーなどでは18世紀の初めから栽培されている古い品種である。名前はナポレオン皇帝の名から1820年に付けたもので、ベルギー国王のパーメンタリアが名付け親といわれている。アメリカではナポレオンの名を嫌い、ロイヤルアーン,オックスハートなどと呼ばれている。 果実は6~8g,果皮は黄色に鮮やかな紅色を帯び光沢のある大粒種で、適当な酸味と芳香があり、完熟時の糖度は13度くらいまでになる。収量が多く大樹となり、加工用にも向き、産地は山形,青森、熟期は6月下~7月上旬。

 

(7) 水門(すいもん)  (北光)

 

   小樽市の藤野氏の園で明治44年に発見された偶発実生で、正式名称は北光である。北海道では水門の近くで発見されたことから水門と呼ばれ、主要品種となっている。果皮は淡赤色で陽光面は濃赤色,果肉は柔らかく多汁で、裂果抵抗性がある。欠点として果肉が柔らかく日持ちが悪い。産地は北海道,青森、熟期は7月上~中旬。

 

(8) 南陽

 

   山形県農業試験場置賜(おきたま)分場が昭和32年に、ナポレオンの交雑実生から選抜,育成したもので、昭和53年に登録された。果実は7~9gと大きく,果皮は陽光面が帯赤黄色となりきれいだが、色ムラのでやすい欠点がある。果肉は甘酸あり濃厚で品質がよく、糖度は14~15度,産地は北海道,青森,山形、とくに気象条件のあった北海道では着色がよく品質のよい果実が7月下旬に収穫され、栽培されている。

 

(9) その他

 

①ジャボレー Jaboulay…フランスから山形県立農業試験場が明治41年に輸入した早生種。果実は5~6g,果皮は鮮やかな紅色から熟度が進むにつれて赤みが増し、完熟すると濃い赤色となる。果肉も淡い赤色で、肉質は硬めで他品種に比べ風味も味ももうひとつであるが、日持ちは群を抜いている。産地は山形、熟期は6月上旬。

 

②正光錦(せいこうにしき)…福島県伊達市の佐藤正光氏が昭和52年に香夏錦(佐藤錦×高砂)の実生を発見、その後育成し、昭和62年に品種登録された。果実は5~8の短心臓形で、果皮は黄色赤斑に着色する。果肉の色は乳白、肉質はやや硬くウルミ果は少ない。甘味は多く(糖度約16度)酸味少ない。産地は山形,熟期は6月上旬。

 

③香夏錦(こうかにしき)…佐藤錦に高砂を交配して育成した。果実は7g位、短心臓形で黄色赤斑に着色し甘味は多く、酸味は少ない。果肉は柔らかく日持ちがよくない。産地は山形,青森,新潟、熟期は6月中~7月上旬。

 

④紅てまり…山形県立園芸試験場が晩生種の育成を目的として1980年に交雑を行った。当初、交雑親は不明であったが、その後のDNA鑑定により、ビック×佐藤錦と推定された。果実は短心臓形から偏円形で10g位の大玉,果皮は帯朱紅色で果汁が多く、糖度18~20度位で酸味は中位、食味濃厚である。産地は山形、熟期は7月上~中旬。

 

⑤大将錦(たいしょうにしき)…山形県上山市の加藤勇氏園で、ナポレオン,佐藤錦,高砂の混植園で発見された偶発実生で、1990年に登録された優良品種である。果重10g近い大玉で外観がよく、着色が鮮やかで、果肉は非常に硬く、うるみ,色ムラが出ないのが最大の特徴である。糖度が20度以上と高く、多汁で、食味良好である。産地は山形、熟期は7月上~中旬の晩生種である。