15.ナシ  梨 Pear

 

   バラ科の落葉高木。古くは「なす」といった、それはなしの内部は周囲部より酸味があるので、中酸(なかす)といったのが中略されたもの。また、別名の「ありのみ」は、梨が無しに通じるのを嫌い「有りの実」といった。

 

   なしは大変果汁が多く、しかも糖分を多く含んでいるので疲れを回復するのに効果がある。栽培には他品種の花粉を受粉してやらないとほとんど果実が止まらないので、2~3品種の混植か人工受粉を行なう。原産地によって次の3系統に分かれる。

1,日本なし…わが国の中部以南,朝鮮半島,中国南部に自生する日本ヤマナシを改良して作り出されたもの。これも、果皮のコルクが発達してさび褐色になった赤なしと、コルクが発達してない緑色の青なしに分かれる。栽培の記録は「日本書記」(720年),平安時代の「延喜式」(927年)などにあるが、盛んになったのは明治以後、とくに長十郎,二十世紀の出現からである。

2,中国なし…中国の華北地方に自生した原種を改良して作り出されたもの。

3,西洋なし…ヨーロッパ中部,アジア西部,小アジア,イラン北部一帯に自生した原種が、とくに降雨の少ないヨーロッパで改良された。

  2023年の栽培面積は9,820ha,収穫量は183,400t、収穫量構成比は、①千葉12.2%,②茨城10.6%,③栃木8.6%,④福島7.5%,⑤鳥取6.4%,⑥長野5.4%、そして大分,熊本,福岡,埼玉,徳島,愛知,新潟,神奈川…と続く。2021年の品種別栽培面積構成比は、①幸水39.6%,②豊水25.8%,③新高7.8%,④あきづき6.2%,⑤二十世紀5.3%,⑥新興2.7%,⑦南水2.5%,⑧にっこり1.4%、そしてゴールド二十世紀,新甘泉,王秋,彩玉,恵水,おさゴールド,平塚16号(かおり),稲城,新水…と続く。5年前の2016年と比べたときに栽培面積は74.5%と減少、そのなかで増加しているのは、あきづき,にっこり,新甘泉,王秋,彩玉,恵水,秋麗,甘太で、その他は減少している。

 

選び方と保存   果皮の色が花落ち部分にも回っていてキズやすれがなく、果形は丸く整って持ってはりのあるもの。保存は冷蔵庫へ。

旬  8~10月。

 

三水(さんすい)

 

   幸水,豊水,新水は三水と呼ばれ、農林省が育成したうまいなしの代表として増殖されてきた。東京都全市場(9市場)の入荷を見ると幸水,豊水はナンバー1,2と定着をしている。新水については果実が小さいので収量があがらないことから生産は減少している。

 

みつ症

 

   軽いものでは果肉中に水浸状になった小さな斑点ができる程度ですむが、症状が進むと障害部は黒褐色を呈し、周辺が一様に水が回ったようになり商品価値はゼロ,廃棄となる。果肉の過熟で生じるもので、豊水,二十世紀,新高に多い。冷夏に多発し、とくに7月の低温が影響する。

 

 

(1) 幸水 赤梨

 

   農林省果樹試験場で昭和16年、菊水(太白×二十世紀)に早生幸蔵を交配して育成、22年に初結実をしたが150g程度の小果であった。昭和32年ごろから消費の傾向が味のよさに変わる中で再評価され、また試作中の果実も250g程度になっており経済品種として認められ、34年に両親の名をとって命名された。果実は250~300g,果皮は黄緑褐色で果肉は緻密で多汁、特有の香り(親の早生幸蔵)を持ち糖度は12~13度と甘味が多く、酸味は適度と品質は極めて良好である。欠点として収量の少ないことがあり、長十郎の8割程度。供給期間を延長するためにビニールハウスによる施設栽培が進んでいる。

2021年の栽培面積は2,837haとなし栽培面積の39.6%を占めてトップとなっている。産地別では、①千葉21.8%,②茨城9.1%,③栃木7.4%,④福島7.2%,⑤埼玉6.6%,⑥長野4.1%、そして福岡,新潟,富山,徳島,熊本,佐賀,山形,秋田,愛知…と続く。熟期は7月下~9月。

 

(2) 豊水    赤梨

 

   農林省果樹試験場で昭和29年に育成,47年に登録、リー14(八雲×菊水)×八雲の交雑実生と発表されたが、果皮色および交配親和性に問題があり両親とも不明といわれていた。2005年に再調査が行われDNA鑑定の結果、幸水(菊水×早生幸蔵)×イ-33(石井早生×二十世紀)と同定された。甘味や果汁が豊かなので豊水と名付けられ、果実は400~450gと大きく豊産で、外観が美しい。果肉は柔軟多汁で糖度は12度前後と甘い、酸味もあり食味は濃厚である。

生産性が高く品質がよく耐病性にも優れていることから、2021年の栽培面積は1,850haとなし全体の25.8%を占めて幸水に次いでいる。産地別では、①千葉16.4%,②福島12.3%,③栃木9.8%,④茨城8.5%、そして熊本,徳島,大分,長野,埼玉,新潟,福岡,群馬…と続く。熟期は9月上~下旬。

 

(3) 二十世紀 青梨

 

   千葉県松戸市の松戸覚之助氏が明治21年、ゴミ捨て場で発見した偶発実生で、19世紀末の明治31年に「新しく迎える世紀ヘの夢を托して」二十世紀と命名された。果皮は薄く滑らかで透きとおるような美しい淡黄色をして、果肉は柔らかく適度の酸味を含み日持ちもよい。糖度は11~12度。

 

   鳥取県に導入されたのは明治31年に北脇永治氏によるが、黒斑病(葉に付くと落葉するため樹が年々弱っていき、果実に付くと腐れ落ちてしまう)に弱くこれを防ぐため年間数十回に及ぶ薬剤撒布や袋掛けの作業が欠かせないなど、栽培技術がむずかしいこともあって、急速に増殖が進んだのは戦後で、関東の赤梨・幸水に対し、関西の青梨・二十世紀として市場を二分した。昭和60年代に入って栽培面積が減少しているのは、生産者の高齢化が進んで黒斑病防除などの栽培管理労力が充分に確保しにくくなったことが遠因と思われる。産地は鳥取,福島,長野,山口,奈良,新潟,京都,群馬…と続く。


 

(4) ゴールド二十世紀 青梨

 

   農業生物資源研究所放射線育種場で二十世紀に黒斑病抵抗性を付与することを目的に、1962年からガンマ線の緩照射を行なって誘発,選抜された人為突然変異品種で1991年に登録された。名前は「金のように価値がある」という意味からつけられた。果実は二十世紀とほぼ同じで、薬剤散布の回数を軽減できる。産地は鳥取,京都,島根…と続く、熟期は二十世紀とほぼ同じ。

 

 

(5) 新高(にいたか) 赤梨

 

   東京府立園芸学校玉川果樹園で菊池秋雄氏が大正4年に、新潟原産の天の川と高知原産の今村秋を交配して育成、昭和2年に各原産地の一字をとって命名された。ところが、2008年に調査が行われDNA鑑定の結果、長十郎と天の川の交雑と同定された。果実は500~1kgと大きく、果肉は柔らかく多汁で酸味はない。産地は千葉,熊本,新潟,大分,高知,茨城,福島,岡山,埼玉…と続く、熟期は9月上~中旬で2月まで貯蔵が可能である。

 

(6) あきづき 赤梨

 

   農水省果樹試験場が昭和60年に162-29(新高×豊水)に幸水を交配して育成、2001年に登録された。名前は収穫期が秋であり、果形が豊円形で月のように見えることからつけられた。果実は500~600gと大きく果皮は黄赤褐色で多汁、糖度は12~13度前後と品質はよい。豊水と新高の収穫期を埋める品種として期待され、産地は千葉,熊本,栃木,福島,茨城,大分,新潟…と続く、熟期は9月下旬。

 

(7) 南水(なんすい) 赤梨

 

   長野県南信農業試験場が昭和48年に越後に新水を交配して育成、1990年に命名された。果実は360~380gと中玉で玉揃いがよく糖度14~15度と甘く果汁が多く食味がよい。貯蔵性が高く冷蔵貯蔵で3カ月,氷蔵庫で6カ月の長期貯蔵が可能で、産地は長野、熟期は9月下~10月上旬。

 

(8) 新興(しんこう) 赤梨

 

   新潟県農試の田野寛一氏が昭和7年に、二十世紀の自然放任果を育成、昭和16年に命名された。ところが、2005年に調査が行われDNA鑑定の結果、二十世紀と天の川の自然交雑実生と同定された。果実は400g前後で、果肉は二十世紀より劣るが柔らかく甘味も比較的強い。産地は新潟,鳥取,大分,熊本,京都、熟期は10月上~下旬で、2月まで貯蔵が可能である。

 

(9) にっこり 赤梨

 

   栃木県農業試験場が昭和59年に新高に豊水を交配して育成、1996年に品種登録された晩生種。名前は観光地,日光と梨の中国語読み,リ-の組み合わせと、食べた人が「ニコニコにっこり」するようにという願いが込められている。果実は平均800gと幸水の2~3倍の大きさ、糖度は12度程度と高く、肉質がやわらかく食味は良好である。産地は栃木、熟期は10月中~下旬だが日持ちがよいので、室温でもお正月まで保存が可能である。

 

(10) その他 これまでの品種

 

①新水…農林省果樹試験場で昭和22年に、菊水と君塚早生を交配して育成、40年に登録された。果実は250g前後で果肉は緻密で多汁、糖度は12~13度と甘味が多く酸味は適度と品質は極めて良好である。欠点としては、ほかよりも果実が小さいので収量があがらないこと。産地は石川,兵庫、熟期は7月下~8月下旬。

 

 

②平塚16号(かおり)…農水省果樹試験場が昭和28年に新興と幸水を交配,平塚16号として育成したが、品質のばらつきや日持ちのよくないことから50年に中止となった青ナシ。しかし、果実は円形で大きく1kg前後となり、糖度は12度以上,成熟するとリンゴのような香りがする事から、農家に流れた枝が栽培されている。産地は千葉、熟期は9月上~中旬。

 

③長十郎…神奈川県川崎大師の当麻辰次郎氏(屋号が長十郎であった)のなし園で、明治28年に偶発実生として発見された。果実は250g前後で玉揃いがよく、果肉は硬く甘味に富む。果皮は美しい赤味を帯びた淡褐色で、肌は滑らかで美しい。これは、果皮のコルク層が発達してさび褐色となったものである。また赤梨は、サンド・ペア(砂梨)といわれるように果肉の中に固い石細胞がたくさんあって、食べると幾分ザラザラした感じがある。産地は青森,宮城、熟期は9~10月。

 

④晩三吉(おくさんきち)…新潟県中蒲原郡両川村で、早生三吉の偶発実生として発見された昔からある最晩生種。

果実は400~500gと大きく、果肉は柔らかく多汁で品質はよい。とくに九州の暖地産は甘味が多い。産地は大分、熟期は10月下~11月上旬、貯蔵性が極めてよく、むしろ貯蔵した方が品質が向上し、4~5月まで貯蔵が可能である。

 

⑤愛宕(あたご)…大正初期に二十世紀と今村秋の自然交配によって出来たと言われ、東京の愛宕山付近で育成されていたことからその名が付けられた。ところが、2008年に調査が行われDNA鑑定の結果、長十郎と天の川の交雑と同定された。果実は大きいと2kgを超える物もあり果肉は柔らかく独特の甘味と、果汁の多いことが特長である。岡山県には昭和18~20年頃導入されて、栽培に改良が重ねられ今のように大きくて甘い梨が生まれた。産地は岡山、熟期は11月中旬だが冷暗所で追熟されて、12~1月がおいしい。

 

(11) その他    新しい品種

 

①新甘泉(しんかんせん)…鳥取県園芸試験場が筑水におさ二十世紀を交配して育成、2008年に登録された赤ナシ。果実は400g前後と大きく、青梨のような歯ざわりのよい食感と糖度が14度前後と抜群の甘さが特徴。産地は鳥取、熟期は8月中~9月上旬。

 

②稲城(いなぎ)…東京都稲城市の進藤益延氏が八雲に新高を交配した中から、昭和22年頃に選抜をしたもの。早生品種としては500~700gと大果になり、肉質もよいことから栽培が始められた。稲城市を中心におもに贈答用として販売されている赤ナシ。肉質は柔らかく多汁、糖度は12度程度で酸味は少ない。産地は東京、熟期は8月下~9月上旬。

 

③彩玉(さいぎょく)…埼玉県農林総合研究センターで昭和59年に、新高に豊水を交配して育成、2005年に登録された赤ナシ。果実は約550gと大玉で果皮は赤褐色、味は幸水,食感は新高に似る。糖度は13~14度と甘味があり果汁が多く品質が優れている。産地は埼玉、熟期は幸水と豊水の中間の8月下~9月上旬。

 

④秋麗(しゅうれい)…農研機構が1982年に幸水と筑水を交配して2003年に登録された青ナシ。名前は秋に成熟し有袋果の外観が美麗であることを指している。果実は430g程度で果形は扁円形でよく整い、有袋栽培では「二十世紀」と同様の美しい外観に仕上がる。ただ、無袋栽培の場合は全体にサビが出やすい。肉質は緻密で軟らかく多汁、糖度は13度程度で食味はよい。産地は熊本、熟期は9月上旬。

 

⑤おさゴールド…農業生物資源研究所放射線育種場で人工交配が不要な自家受粉するおさ二十世紀に、黒斑病抵抗性を付与することを目的に1986年からガンマ線の緩照射を行なって、誘発,選抜された人為突然変異品種で1997年に登録された。果実は300g程度、果皮は黄緑色。果肉は白色,糖度は11度程度で、二十世紀と比べて自家結実性が高く交配作業が不要である。二十世紀に代わる青ナシとして「ゴールド二十世紀」とともに普及が見込まれる。産地は鳥取、熟期は9月上~中旬。

 

⑥恵水(けいすい)…茨城県農業総合センターが品種開発に取り組んで17年、新雪と筑水を交配した約4,300個体の中から選伐、2011年に品種登録された。果実は600グラム程度と大玉で、糖度は13度程度と甘みが強く、酸味が少ないため食べたときにとても甘く感じられる。同時期の品種に比べ、大玉で食べごたえがあり、梨独特のシャリシャリした食感とさわやかな風味も魅力です。冷蔵貯蔵(2℃)することで、3か月の長期保存が可能。産地は茨城、熟期は9月上~下旬。

 

⑦秋甘泉(あきかんせん)…鳥取県園芸試験場が1989年におさ二十世紀に豊水を交配して育成、2009年に品種登録された赤ナシ。果実は400g前後と大玉で果肉がとても柔らかく酸味が少ない、たっぷりの果汁と糖度は約13度と甘味が強い。産地は鳥取、熟期は9月中~10月上旬。

 

⑧甘太(かんた)…農研機構が王秋にあきづきを交配して2015年に登録された晩生種で、名前は甘くて,果実肥大がよく(太) ,栽培が容易(簡単)であることに由来する。果実は570g程度と大きく、酸味が少しあるが糖度の高さと相まって食味は濃厚。樹勢が強く花芽の着生が安定しているため栽培は容易で豊産性、収穫は主要な晩生種の新高と同時期かやや遅い時期に収穫される。甘太は晩生のニホンナシ需要を大きく拡大する品種として、南東北から西南暖地まで全国的な普及が期待される。産地は熊本、熟期は10月上~中旬。

 

⑨王秋(おうしゅう……農研機構が昭和58年にC2(慈梨(ツーリー)×二十世紀)に新雪を交配して育成、2003年に登録された中国ナシと日本なしの種間雑種。果実は700g前後と大きく、中国ナシに似た香気があり、倒三角形と紡錘形が混在する。果肉は緻密で多汁,糖度は12度前後で豊産性と晩生品種としては品質が優れている。産地は鳥取,千葉、熟期は10月下~11月上旬。