21. ブドウ 葡萄 Grape

 

 ぶどう科のつる性落葉果樹で、名前の由来はペルシャの西のフェルガーナ地方でぶどうのことをブーダウといい、ペルシャ語ではブーダワBudawa と呼ぶ。中国に入ってプータオ・漢字の葡萄の字を当てはめ、我が国では葡萄(ぶどう)となった。世界の果実中でも生産が多く、その中でワイン用が85%を占め、ほかに干しぶどう,ジャム,ゼリー,果汁として広く利用されている。

 

 古代エジプトでは紀元前4000~3000年ころ、栽培やぶどう酒の醸造が行なわれていたのが遺跡の壁画などで知られる。「旧約聖書創世紀」には大洪水の後ノアは、方舟(はこぶね)を出てぶどうを作りワインを飲んで酔い裸になった、と記されている。わが国では、明治までは甲州とヤマブドウのみで、明治に入って多くの品種が導入されたが、現在も生食用が90%を占めて他の国とは対象的である。

原産地によって次の系統に分かれる。

①ヨーロッパぶどう・ビニフェラ Vinifera…カスピ海沿岸のコーカサス地方から黒海沿岸が原生地とされる。マスカット香が特長で、乾燥した気候に適し品質が優れている。

シャインマスカット,アルフォンス・ラバレー,イタリア,甲斐路,カッタ・クルガン,甲州,サバルカンスキー,ネオ・マスカット,ピッツテロ・ビアンコ,ブラック・ハンブルグ,フレーム・トーケー,マスカット・オブ・アレキサンドリア,マスカット・ハンブルグ,マスカット・ビオレ,ヤトミローザ,リザマート,ルーベル・マスカット,ルビー・オクヤマ,ロザリオ・ビアンコなど。

②アメリカぶどう・ラブラスカ Labrusca…北アメリカ東部が原生地とされる。フォクシー香(ブドウ分類学者のフォックス氏にちなんでつけられた名前で、独特のグレープフルーツのような風味,わが国ではFox Flavor キツネ臭とそのまま訳されている)が特長で、雨や病害に強い。

キャンベル・アーリー,コンコード,スチューベン,ナイアガラ,バイオレット・ウエハラ,バッファロー,フレドニア,ブロンクス・シードレス,ポートランド,マスカット・ベリーA,レッドニヤガラなど。

③東洋系ぶどう…東アジアが原生地とされ、チョウセンヤマブドウ(アムレンジス)と北海道および本州の高山地帯に自生しているヤマブドウが属する。

④欧米雑種…これらの雑種群。

I・P150,安芸シードレス,井川668号,オリンピア,キタサキレッド,巨峰,黒潮,国宝,紫玉,スーパー・ハンブルグ,高尾,高墨,タノ・ブラック,タノ・レッド,旅路,デラウェア,十和田,ノースレッド,ピオーネ,ヒロ・ハンブルグ,ヒムロッド・シードレス,笛吹,藤稔,紅加賀,紅金沢,紅富士,やまびこなど。

  2023年の栽培面積は16,400ha,収穫量は167,000t、収穫量構成比は、①山梨25.0%,②長野18.8%,③岡山9.2%,④山形8.3%,⑤北海道4.6%,⑥福岡4.1%,⑦大阪2.1%,⑧愛知1.9%,⑨青森1.9%、そして広島,福島,岩手,兵庫,大分,島根…と続く。2021年の品種別栽培面積構成比(生食用ですが、一部は加工用も含まれている)は、①巨峰22.4%,②シャインマスカット20.8%,③ピオーネ15.4%,④デラウェア13.9%,⑤甲州4.4%,⑥キャンベル・アーリー3.3%,⑦マスカット・ベリーA3.0%,⑧スチューベン2.5%,⑨ナイアガラ2.4%,⑩ナガノパーブル1.6%,⑪藤稔1.1%、そしてクイーンルージュ(長果G11),オーロラブラック,赤嶺,早生デラ,クイーンニーナ,瀬戸ジャイアンツ,ポートランド,甲斐ベリー3,マスカット・オブ・アレキサンドリア,コンコード,高尾,バッファロー,安芸クィーン,ロザリオ・ビアンコ,甲斐路,サニールージュ,紅伊豆,紫玉,ブラックビート,ゴルビー…と続く。5年前の2016年と比べたときに栽培面積は81.9%と減少、 栽培面積が増加しているのは、シャインマスカット,甲州,ナガノパープル,クイーンルージュ(長果G11),クイーンニーナ,甲斐ベリー3ぐらいなもので、その他は減少している。

選び方と保存  各品種固有の色がよくでてはりがあり、つるは青さを残しているもの、保存は冷蔵庫へ。

旬  6~10月。

 

ブドウネアブラムシ (フィロキセラ)

 

 ぶどうの害虫(あぶら虫の一種)で、根について木を弱らせたりひどいときは枯れてしまうほどの被害を与える。1856年ころにアメリカからヨーロッパに渡って、たちまち広がり大きな問題となった。これへの予防としては、アメリカ大陸に自生している野生種に抵抗性があることが1873年ころにわかり、台木として利用することで解決がついた。台木としては3309,テレキ8B,SO4などが代表的である。

 

ジベレリン処理

 

 大正15年、台湾総督府研究所の黒沢英一技師がバカ苗菌に侵されたイネの茎が倍近く高くなることを発見、この物質を東京大学の薮田貞次郎博士が抽出分離して、植物生長促進ホルモンのジベレリンと命名した。ところが研究は欧米で進み、わが国では昭和32年からやっと始まった。

通常、果実はめしべの柱頭に花粉がついて受粉することで子房の中に種子ができ、子房がふくらんで実になる。ところがぶどうの開花の10~15日前に、このジベレリンの一万倍液の中につぼみをつけると受粉しなくても実を作ることができる。その結果、受粉していないので種なしぶどうができる。さらに、開花後15日目に再びジベレリン処理を行なうと、果実を構成する何千万かの細胞の肥大生長を促進して、ぶどうの種なし果実にありがちな発育不全を完全に解消するうえ、2~3週間早く成熟させる役目を果たす。ひとつひとつのぶどうの房を手作業でジベレリン処理を行うもので、とても手間のかかる栽培方法です。ほかに植物ホルモンの仲間には、オーキシン,ジベレリン,サイトカイニン,エチレンなどがあります。

 

種なし化

 

 消費者は果実のおいしさや外観に加えて食べやすさも求めている。こうした消費者ニーズに支えられて、巨峰,ピオーネなどの大粒系品種の種なし化が年々増加している。生産者側からは巨峰,ピオーネは花ぶるい(受粉,受精しないで落花したり、受精しても生長が止まって落果すること)がしやすく、開花期の天候不順によって収量が左右されやすい。これが種なし化の為のジベレリン処理をすることによって結実が安定するといった利点がある。

 

グレープシードオイル

 

 ぶどうの種を絞って作ったもので透明感のある緑色が特徴で、欧米では古くから利用されている。あっさりとした味とほんのりしたぶどうの香りが特長で、オムレツなどの卵料理や野菜サラダ,ドレッシングと和洋中華の何にでも合う。成分として血行をよくして老化を防ぐビタミンEが多量に含まれるほか、リノール酸,抗酸化作用のあるポリフェノールも豊富である。

 

レーズン 干しぶどう

 

 日本で消費されているレーズンの約90%は、アメリカ,カリフォルニア産で世界生産量の半分弱を占める大産地である。とくにロサンゼルスとサンフランシスコにかけてのサン・ホアキンバレーと呼ばれる地区で、種がなく甘く皮の薄いトンプソン・シードレスという品種の大規模生産が行なわれている。ぶどうの収穫は8月末から9月に行なわれ、日光のみで2~3週間かけて乾燥させる。カルシウムや鉄分,ミネラル類やビタミン類が豊富なことから健康食品として人気がでている。

*語源はフランス語のぶどうを意味する raisin(レザン)からきており、干しぶどうは raisins secs (レザン・セック)が正解であろう。

 

脳とブドウ糖

 

 私たちの先祖は約400万年前にアフリカで密林の樹上生活から地上に降り立ったときは、脳の大きさは400グラムでした。約200万年前に道具を使うホモ・ハビリスが現れると、脳は約600グラムになり、約180万年前に火を使い料理するようになったホモ・エレクトス(直立原人)が現れると、その脳は約1000グラムになった。そして40万年前にネアンデルタール人の脳は約1600グラム、そして20万年前にホモ・サピエンス(知性ある人)が現れ、約3万年前には現生人類と変わりのない特徴をもった人類が世界各地に現れ、新人とよばれる。旧石器文化を継承し、高度な狩猟採集技術を持ち、さらに1万年前から農耕と牧畜の技術を身につけ、様々な文化、産業革命などを経て、現在のヒトの脳・約1450グラムです。

 

 脳はどの臓器よりも多くのエネルギーを消費しており、1日に消費するエネルギーの約18%を占める。脳を働かせるためのエネルギー源として使えるのはブドウ糖だけで、成人の脳は1日におよそ120gのブドウ糖を消費する。ブドウ糖が不足すると、脳はエネルギーを作ることができず集中力が欠け、やる気も出ず、イライラするなど、思考能力が低下してしまう。また、脳の機能が低下すると体の各器官へきちんと指令を出すこともできなくなり、様々な障害があらわれる。疲れたときに甘い物が欲しくなるのは、脳がブドウ糖を欲しがっている証拠です。常に、脳へ一定量のブドウ糖を供給するために、血液中の糖量(血糖値)は一定に保たれています。まず、食事から摂取し使い切れず余ったブドウ糖は、グリコーゲンとして肝臓や骨格筋に蓄えられます。そして、血液中の糖が少なくなると肝臓から補充し、多すぎる場合にはまた肝臓へ蓄える、というシステムによって、血液中の量を一定に保っているのです。

*現代人の祖先は、20万年前のアフリカ人女性をもとにアフリカ以外の原人や旧人との交雑を繰り返しながら遺伝子が伝わっていったと考えられている。

*ブドウ糖の名はドイツの化学者、アンドレアス・マルクグラーフが1747年に干しブドウ(レーズン)から初めて単離されたことからの日本語名です。

 

赤ワイン

 

 赤ワインはぶどうの果皮,種子,果汁をともに発酵させたもので、皮に含む色素や種子に多い渋味や酸味が溶けでる。これに対して白ワインは、最初から圧搾機にかけて果皮や種子を除いて発酵させたもの。この赤ワインに含まれている渋味の成分であるタンニンや色素のアントシアニンを、総称してポリフェノールという。世界最大のワイン消費国フランスで、動物性脂肪を多くとるにもかかわらず、動脈硬化などによる心筋梗塞が少ない(フレンチパラドックス)のはこのポリフェノールの抗酸化作用の効果だと1992年にフランスの疫学調査が発表された。ほかにも活性酸素(毒性酸素)から細胞の酸化を防ぐなどの健康情報が多く伝えられて、赤ワインは第六次ブームとなり需要が大きく伸びたが1998年を頂点として停滞。2012年頃から、新世界ワイン(欧州大陸のフランスやイタリア,スペイン,ドイツなどの旧世界に対して、アメリカやチリ,オーストラリア,ニュージーランド,南アフリカなどの新興諸国を指す)が伸びており、特にチリ産が関税の引き下げもあって伸びが大きい。この第七次ブームは家庭や飲食店での日常的なワイン飲用文化の浸透と日本産ブドウ100%で造る「日本ワイン」が認知度を高めていることも影響をしている。

*第一次ブーム…1972年、本格テーブルワイン

 第二次ブーム…1978年、千円前後の低価格ワイン

 第三次ブーム…1981年、地ワインブーム

 第四次ブーム…1987~90年、ボジョレー・ヌーヴォーの流行

 第五次ブーム…1994年、国内の低価格ワイン

 第六次ブーム…1997~1998年、赤ワインブーム

 第七次ブーム…2012年~、低価格輸入ワイン 

 

冷温高湿貯蔵

 

 新しい貯蔵技術として冷温高湿貯蔵が開発された、これは冷温高湿条件(2℃,90%以上)とカビ,細菌の繁殖対策として負イオンとオゾン混合ガスを併用するシステム。高湿によって水分の損失を防ぐことから重量が減少せず、はりや光沢も失わずに貯蔵ができる。巨峰では0℃,湿度95%で約4カ月の品質保持が可能、幸水では0℃,湿度95%で約5カ月の品質保持が可能、柑橘・清見では5℃,湿度98%で約6カ月の品質保持が可能となっている。

 

(1) デラウェア Delaware

 

 アメリカ,ニュージャージー州のプロホーズが1850年ころ発見、オハイオ州デラウェアのトムソン氏が町名をとって命名した。わが国ヘは明治5年に勧業寮が輸入、山梨の塩山(えんざん)では明治18年に栽培される。紅色品種の代表で果粒は1~1,5g,香りはないが糖度が22~23度と甘く、

 2021年の栽培面積は1,564haとぶどう全体の13.9%を占めて4番手となっている。産地別では、①山形52.3%,②大阪16.3%,③山梨10.6%,④島根6.6%、そして石川,北海道,長野,大分,愛知,福岡…と続く。種がないことから、もっと手軽に食べられる簡便さを売り物にしたいものである。

 

 昭和34年に山梨の果樹試験場で岸光夫場長が、植物ホルモンの一種であるジベレリンを使って種なしの房をならせると共に、普通栽培の種のあるデラより約1カ月熟期を早めることができたのは、画期的な技術革新であった。また、昭和35年ごろからハウス栽培による前進出荷が行なわれるようになり、このハウス加温物は4月下旬から顔を出すが、露地物の盛りは8月上旬から中旬にかけてである。

 

 山形県で発見された枝変わりに早生デラがある。品質,食味などはまったく同じであるが熟期が4~5日早いため、ジベ処理や収穫の労力の分散ができるといった利点がある。


 

(2) マスカツト・オブ・アレキサンドリア    Muscat of alexandria

 

 エジプト原産で、わが国ヘは明治初年に勧業寮によって導入された。明治19年には岡山で栽培が始まり、瀬戸内の温暖な気候と台風の影響が少ないことなどから、比較的簡単なガラス室構造の温室栽培が行なわれ、特に昭和30年代後半から急速に増加した。通称アレキと省略される。緑黄色に透き通った色と水もしたたるような粒の輝き、そして口に入れたときの香りと味はまさにぶどうの王様であり、「緑の真珠」と称されるゆえんでもある。果粒は12~18g,糖度は17~23度で強いマスカット香があり、日持ち,輸送性もよい。国内産果実としてマスクメロンとともに味と品位を二分し、進物,贈答には欠かすことのできない存在である。バブル崩壊後は進物,贈答の需要も少なくなって2003年の栽培面積が173.2haに対して、2021年は38.8haまで減少をしている。産地は岡山、熟期は7~10月。

*2010年にDNA解析の結果、マスカット・オブ・アレキサンドリアはマスカット・ブラン・アプティ・グランとアキナ・デ・トレス・バイアスの自然交雑によって生まれたことがわかった。このことは、マスカット・オブ・アレキサンドリアがエジプト原産なのかという問題を提起した。

(3) 甲斐ベリー3

 

  山梨県果樹試験場が食味がよく着色良好な大粒種を目標に2005年、ピオーネにブドウ山梨46号(巨峰同士の自殖系統)を交配して育成, 2018年に品種登録、2019年に商標名,ブラックキングとして商標登録をされた。果皮は黒紫色で2回のジベレリン処理により種なしとなった果粒は 22 g程度に肥大する.糖度は17・8度、多汁で食味は優れる。産地は山梨、熟期は8月中旬。

 

(4) キャンベル・アーリー Campbell early

   

 アメリカ,オハイオ州のキャンベル氏が、ムーア・アーリーとマスカット・ハンブルグを交配して育成したのでこの名があり、黒ぶどうの代表品種である。わが国ヘは明治30年に導入され、栽培されている。大粒で紺色が黒く、白い粉がふいてみるからに味が濃厚そうで、皮は厚く果肉は紅紫で美しく締まっている。独特のフォクシー香があり、糖度は14~16度と甘く酸味も適度でおいしい。産地は岩手,北海道,青森,秋田,宮崎,埼玉,栃木、熟期は8月中~下旬。


 

(5) 藤稔(ふじみのり)

 

 藤沢市の青木一直氏が井川682にピオーネを交配して育成、昭和60年に登録された栽培しやすい極大粒ぶどう。果実は20~25gと巨峰より大粒、美しい紫黒色で果汁が多く糖度は17度,食味がよいうえに裂果,脱粒が少なく着色も比較的優れ輸送性もよい。産地は山梨,兵庫,神奈川,群馬,東京、熟期は8月中~下旬。

 

 

(6) シャインマスカット Shine muscat

 

 果樹試験場安芸津(あきつ)支場で1988年,安芸津21号(スチューベン×マスカットオブアレキサンドリア)×白南(はくなん)(カッタクルガン×甲斐路)を交配して育成、2006年に登録された。果皮は黄緑色,果粒は11~13gと大粒で、マスカット香があり肉質は崩壊性、糖度は19~20度と甘く果皮が薄いので皮ごと食べられて食味がよい。この皮ごと食べられる簡便さと、今までは温室でしかできなかったマスカットぶどうが栽培のしやすさから全国に広がった。裂果や脱粒の発生が少なく貯蔵性に優れるといった特徴も備える。開花後にジベレリン25ppmの果房浸漬処理を行うことにより種なしブドウとなる。各産地で商品作りが行われ出荷形態が違い、長野では1粒15~20gで1房550g前後を、山梨では1粒20gで1房35~38玉を目標としている。

 2021年の栽培面積は2,346ha、巨峰に次いでいる。産地別では、①長野31.6%,②山梨26.9%,

③山形10.7%,④岡山9.9%、そして福岡,大分,愛知,島根,福島,広島,新潟,香川,大阪,青森,秋田…と続く。熟期は8月~9月上

 

     海外へ、日本品種が流出

 

シャインマスカットは2016年ごろから海外に流出。中国での栽培面積は2020年に5万3000ha(日本では2019年で1840ha)と日本の約30倍にもなる。国内での販売と共に、シンガポールやタイ,香港,台湾などにも出荷されている。同様に、韓国産もマレーシアやベトナムなどに出荷されている。仮に中国の生産者がシャインマスカットの種苗を正規に購入していれば、品種を開発した日本は許諾きょだく料として年間約100億円を受け取れることになる。そして、流出したのはシャインマスカットだけではなく、イチゴ,モモ,デコポン,サクランボ,サツマイモなど*注.多くの日本品種が流出して、損失は数千億円になるといわれている。  

こうした状況を食い止め、日本のブランド農産物を海外で保護しようと改正種苗法が2021年4月に完全施行された。正規に販売された種苗であっても、登録品種であれば開発者の許可なしに海外への持ち出しを制限できるようになった。次に、品種登録の出願時には出願者が産地を指定し、それ以外の地域で栽培する際には開発者の許諾を得ることが必要になった。さらに、登録品種を農家が自家増殖する際も同様に許諾が必要になる。許諾を受ける際には、品種によって許諾料を支払う必要がある。たとえば農研機構が開発者の場合、ぶどうやりんごなどなら1本あたり100円を同機構に支払う。それでも「接ぎ木で増やせるぶどうは小枝をポケットに入れさえすれば海外に持ち出せる。悪意による流出を完全に防ぐことはできない」。そして現地で無断に栽培されても、権利侵害の有無を監視したり、損害賠償請求などの法的措置を取ることへのハードルは高い

*注 中国のイチゴ「紅ほっぺ」の栽培面積(全体の4分の1を占める)が2019年に4万4000haと日本の全イチゴ面積5110haの約9倍にもなる。1996年に韓国へ許諾した章姫とレッドパールが第三者に広く栽培され、その後、これらの日本品種を元に韓国で開発された品種が拡大(シェア9割以上)している。

2022.8.22 石川県産の最高級ブドウ「ルビーロマン」の苗木が、韓国に流出してしまったことがDNA検査で遺伝子型が一致したことから明らかになった。県が14年をかけて開発し、生産者らが厳しい出荷基準を設けて価値を守ってきたブランド果実である。

 

(7) ピオーネ   Pione

 

 静岡県伊豆長岡町の井川秀雄氏が昭和32年に、巨峰にカノンホールマスカットを交配して育成したもので、昭和48年にピオーネ(パイオニアという意味のイタリア語)と改名された。果粒は13~15gと巨峰よりひと回り大きく、果皮は濃黒色でつやがあり白粉でおおわれている。果肉は締まっているが滑らかで風味濃厚、完熟時の糖度は18~19度で酸味は少ない、そして日持ちがよい。ジベレリン処理をする事によって種なしとなり生産が安定する、この種なし化は消費者ニーズとも合致している。2021年の栽培面積は1,733haとぶどう全体の15.4%を占めて3番手となっている。産地別では、①岡山45.5%,②山梨20.0%,③香川5.9%,④広島4.9%、そして大分,長野,山形,福岡,兵庫,宮崎,愛媛…と続く。熟期は8月下~9月上旬。

   (8) クイーンニーナ 

 

農研機構果樹研究所が1992年に安芸津20号(紅瑞宝×白峰)×安芸クイーンの中から選抜をして、2009年に品種登録された。現在栽培されている大粒ブドウは黒色の巨峰とピオーネで2009年/49.5%,2018年/44.9%と大きく偏っている。ブドウの需要の拡大のためには外観が異なり、さらに食味の優れる大粒ブドウ新品種の育成が望まれたことから育成をされた。果皮は鮮やかな赤色で、ジベレリン処理により果粒重が平均17gの大粒種なしブドウになる。糖度が21度と高く酸含量も低く、噛み切りやすく硬い肉質で食味は極めて優れている。産地は長野,山梨,愛知、熟期は8月下~9月上旬。

 

(9) オーロラブラック

 

 岡山県農業総合試験場がオーロラレッドの自然交雑実生から育成し、2003年に品種登録された。果皮は紫黒で14~17gと大きく、肉質はよく締まってピオーネに似た味わいがあり、糖度は17・18度と高い。ジベレリン処理によって種なしとなり、脱粒しにくいことから収穫後の日持ちがよい。産地は岡山、熟期は8月下~9月上旬。

 

(10) スチューベン Steuben

 

 ニューヨーク農業試験場が1947年に、ウェイン×シェリダンとして育成、わが国には昭和29年に導入された。果皮は紫紅黒色で大きさは中くらい、酸味が少なく糖度が20~23度と極めて甘い。日持ちがよく貯蔵性,輸送性に富み、豊産で栽培も容易。産地は青森,秋田,山形、熟期は8月下~9月上旬。

(11) 巨峰(きょほう)

 

 静岡県中伊豆の峰(みね)で大井上康氏が昭和12年に、日本産の石原早生(キャンベルの巨大変異)にオーストラリア産のセンテニアル種(ロザキの巨大変異)を交配して育成したもので、名前は粒が大きいことと地名から昭和20年に命名された。果粒は12~15gと大きく、果皮は黒みがかった濃い紫色で、糖度は17~18度と高く多汁、酸味は少なく弱いフォクシー香があって食味が優れている。欠点として収穫後に、穂軸がしおれて脱粒しやすい。昭和40年代後半から50年代にかけて増殖され、

 2021年の栽培面積は2,528haとぶどう全体の22.4%を占めてトップとなっている。産地別では、①山梨40.3%,②長野23.9%,③福岡12.7%,④愛知5.8%、そして新潟,埼玉,大分,福島,愛媛…と続く。熟期は8~10月。

  近年、巨峰の系統選抜が盛んに行なわれ優良種が選抜されている。桜井系,一色系,深井系,小野沢系,南沢系,飯塚系,船山系,東部系,早川系,佐藤系など、また、枝変わりや実生も多く,高墨,紫玉,黒王,高尾,紅峰,キタサキレッド,白峰などが巨峰群として知られている。

 

(12) 瀬戸ジャイアンツ

 

  岡山県花澤ぶどう研究所が、1979年にグザルカラとネオマスカットの交配から選抜した黄緑色のぶどう。果皮が薄いので皮ごと食べられ果肉は歯触りがよく糖度は高い、ジベレリン処理をすることで種なしの大房,大粒となる。桃太郎にゆかりのある岡山県で生まれ、粒形が縦溝のある短倒卵形で桃に似るため「桃太郎ぶどう・商標名」と名付け、栽培振興を行っている。産地は岡山、熟期は9月上旬。

(13) マスカット・ベリーA Muscat baileyA

 

 川上善兵衛氏が昭和2年に、ベリーにマスカット・ハンブルグを交配して育成したもので、通称ベリーAといわれ、キャンベルと共に代表的な紫黒色のぶどうである。黒ぶどう特有の風味があり、果粒は6~7g,糖度は18度と甘く酸味はやや少ない。ジベレリン処理によって種なし・早熟化となる。醸造用にも向き、赤ワインの代表品種でもある。産地は山梨,山形,兵庫,広島,岡山,福岡,香川、熟期は9月。

 

 

 巨峰群品種の増加によって生産が減少していたが、デラウェアと同様にジベレリン処理によって無核化と収穫期の前進が図られて、ニューベリーAとして増産されている。

 

(14) 甲州

 

 カスピ海原産(中近東地域,古代オリエント)のビニフェラ種の流れをくむといわれ、シルクロードを越えて中国に伝わり、白鳳・天平時代(600年代後半~700年代前半)に遣唐使によって持ち込まれたらしい。普及にはいろいろな説があるが来歴不明というべきで、気候のあった山梨・勝沼に定着したと言われる。近年のDNA鑑定の結果では、71.5%が欧州種,28.5%が中国の野生種で欧亜雑種であることがわかった。果皮は赤紫色で一房270g前後、糖度は18度と甘いが香りが薄く酸味が強い、しかし脱粒が少なく果皮が強いことから貯蔵用にも向き 翌年の3月頃まで出回る。生産は巨峰,デラウェアなどに押され気味だが、白ワインの代表品種で総生産量の6割がワインなどの醸造向けで、あとは市場,観光みやげ用である。産地は山梨、出回りは9~翌年3月まで、ピークは10月。

 

 

(15) 赤嶺(せきれい)

 

 山梨県山梨市の三沢昭氏が甲斐路(かいじ)の枝変わりとして発見した早熟着色系である。果皮は鮮紅色で場合によって赤紫色まで進み、粒の根元まで色づく。果粒は先とがりの卵形で約10g、果肉は締まって崩解性で皮離れは悪いが糖度は18~20度と高く食味はよい。産地は山梨、熟期は9月上旬で甲斐路より20日以上早熟。

 

 

(16) ナガノパープル

 

 長野県果樹試験場が巨峰とリザマートの交配から選抜し、2004年に品種登録された。近年、「ブドウは食べたいけど、皮をむいたり種を出したりするのが面倒で」という消費者の声に答えて、「種がなく、皮まで食べられる、大粒のぶどう」として誕生した。果皮色は紫黒で果粉が多く、果粒は倒卵形で10~14g程度。ジベレリン処理で種なしになり、果皮はむきづらいが皮ごと食べられる。果肉はフォクシー香があり、崩壊性でやや硬く歯切れがよく糖度は18~21度と高い。収穫期前の降雨により裂果が発生する場合があることから、施設栽培を前提とする。産地は長野、熟期は9月上~10月上旬。

 

(17) ポートランド

 

 ニューヨーク農業試験場がチャンピオンとルティを交配したもの、果皮は黄白色で薄くて荷傷みしやすい。果粒は3~4gで果汁が多くフォクシー香があり、糖度は18~20度だが酸が少ないので甘く感じられる。東北以北の寒地が適地で、主力産地の北海道では熟期が9月中~下旬と早い為に初霜の早い地域でも安心して作れる。

(18) ナイヤガラ Niagara

 

 アメリカで1872年に、コンコードにキャッサディーを交配して育成され、耐寒性の強い品種として北海道,東北地方での栽培が多い。果皮は黄緑色,糖度は16~18度で完熟すると甘く特有の風味があり食味はよい。白ワインの原料として生産量の2割がワインなどの醸造向けとなる。産地は北海道,長野,岩手,秋田,山形、熟期は北海道で9月下~10月中旬。

 

(19) その他 生食用品種

 

①紅伊豆…紅富士(ゴールデンマスカット×クロシオ)の枝変わり、果皮は鮮紅色から赤紫色,果粒は11~12gで肉質は柔らかく多汁、皮離れがよく食べやすい。産地は岩手,山梨,群馬、熟期は巨峰より2週間ほど早い。

②紫玉…山梨県の植原葡萄研究所で1982年に高墨(巨峰の早熟枝変わり)の早熟枝変わりを発見、1987年に登録品種された。巨峰より2週間熟期が早まったことで、露地栽培でお盆前の出荷が可能であり山梨以南の早場地帯での栽培も多い。特性は巨峰と同じであるが、糖度1822度に達し、食味、品質は巨峰と同じく優秀である。産地は山梨,兵庫,愛知、熟期は8月上~下旬。

 

➂ネオ・マスカット…岡山県の広田盛正氏が大正14年に、マスカット・オブ・アレキサンドリアに三尺ぶどうを交配して育成したもので、昭和7年に命名発表された。さわやかな淡緑色で、外観,味覚ともアレキサンドリアに似ている。果粒は7~9g,果皮が厚く弾力があり裂果はほとんどない,果肉は締まりマスカット香があり風味がよく、完熟すると黄ばみ香気は一層強くなる。糖度は1718度、産地は山梨、熟期は8~9月。

 

④ブラックビート…熊本県の河野隆夫氏が1990年に藤稔にピオーネを交配して育成,2004年に品種登録された極早生品種。持っている遺伝子の面から、高温下でも着色がよい特徴がある。ジベレリン処理により種なしとなり、肉質は適度に締り多汁で糖度は16~19度、酸は少なく、食べやすい。産地は兵庫,長野,福井、熟期は8上~下旬。

 

⑤キングデラ…大阪府の中村弘道氏が1976年にレッド・パール(デラウェアの枝変わり)とマスカット・オブ・アレキサンドリアを交配して、1985年に品種登録された。果実はデラウェアよりもひと回り大きいことから名前がついた。糖度・酸味ともしっかりとした濃厚な味が特徴で、粒が大きく食べ応えがありマスカットに由来する上品な甘味もある。サニールージュと共にデラウェアの後、巨峰の前に収穫できる大粒の品種として生まれたが、栽培しやすく、粒も大きいサニールージュに後れを取っている。産地は山梨、熟期は8月上~9月上旬。

  

 

⑥サニールージュ…果樹試験場安芸津支場(現独立行政法人農業技術研究機構果樹研究所ブドウ・カキ研究部)において,1977年にピオーネとレッドパール(デラウェアの芽条変異)をかけ合わせて育成した4倍体の大粒早生品種で、2000年に品種登録された。果実はきれいな赤褐色で着色はよく、ジベレリン処理を行うことで安定した結実と種無しブドウとなる。果肉は半透明な薄い黄緑色で、しっかりとした歯ごたえと甘酸のバランスがよい。産地は山形,岩手,長野、熟期はデラウェアの後、巨峰の前の8月中~下旬。

 

⑦ゴルビー Gorby…山梨県甲府市の上原ぶどう研究所で昭和58年、レッドクイーンに伊豆錦を交配したもの。当時の旧ソ連のゴルバチョフ大統領の愛称をつけた。果粒は鮮紅色で20gと大きくボリュームがあり糖度は21度、ジベレリン処理をして種なし化すると着色がよい。産地は山梨、熟期は8月中~下旬。

 

⑧ヒムロッドシードレス Himrod Seedless…ニューヨーク農業試験場がオンタリオ×トンプソンシードレスとして育成,1952年に命名され、わが国には昭和29年に導入された。欧米雑種で種が無いので食べやすい、糖度も高く特有のフォクシー香がある。産地は埼玉、熟期は8月中~9月上旬。

 

 

⑨高尾…東京都農業試験場の芦川孝三郎氏が昭和31年に巨峰の実生から選抜育成したもので、昭和50年に登録された。自然状態ではほとんど無核の小粒であるが、ジベレリン処理により種なしの大粒となる。果皮は紫黒色で果粒は短だ円形で6~9g、果肉は崩解性で弱いフォクシー香があり、糖度は18~20度で酸味が少なく食味はよい。ジベレリンは1回でもよいが、より果粒を肥大させるためには2回行なう。産地は山形,東京,福島、熟期は8月下旬。

 

⑩安芸クイーン…果樹試験場安芸津支場で巨峰の自家受粉によって育成され、1993年に品種登録された。果皮は鮮紅色で地域によって赤紫色にまで進む。糖度は18~20度と巨峰よりやや高く、肉質や風味は巨峰と同じ。巨峰より花振るいしやすい特性があり、安定した収量を確保するためにはジベレリン処理をして無核化栽培する必要がある。産地は岡山,山形,三重,広島、熟期は8月下旬。

 

⑪高墨(たかすみ)…長野県須坂市高畑の返町悦孝氏が発見した巨峰の芽条変異で昭和50年ころに発見、地名の高畑の高と墨のように一斉に黒く着色することから命名された。着色が早く糖度,肉質,食味ともに巨峰より優れる。産地は熊本,愛知、熟期は巨峰より10~15日早い8月下旬。

  

 

⑫バッファロー…ニューヨーク農試がハーバート×ワトキンスとして育成した。果実は中粒,紫黒色で、糖度は18度前後と甘味濃厚で芳香があり食味がよい。ジベレリン処理をする事によって種なしとなる。産地は北海道、熟期は9月上~中旬。

 

⑬あづましずく…福島県農業総合センター果樹研究所が1992年、消費者の嗜好に合わせた大粒の種無しブドウとしてブラックオリンピアに四倍体ヒムロッドを交配して育成、2004年に品種登録された。黒皮で12~15gの大粒,果肉は肉厚で柔らかい,味は酸味が少なくて糖度が16・7度と甘みが強い。また、種無しで皮離れも良く食べやすい。産地は福島、熟期は8月上・中旬で盆前に出荷できることから贈答用としての需要も期待されている。

⑭ロザリオ・ビアンコ…山梨県甲府市善光寺町の植原宣紘氏が昭和51年に、ロザキにマスカット・オブ・アレキサンドリアを交配して育成、両親の名をとって付けたものでビアンコは白。わが国に適する純粋な欧州系品種として育成、裂果しづらく露地栽培が可能な品種である。果皮は黄緑色,果粒は12~13gで倒卵形、肉質は崩解性でやや柔らかく酸味は少なく糖度は18~20度。産地は山梨,長野,山形、熟期は9月上~中旬。

 

⑮コンコード…代表的な米国系品種で、マサチューセッツ州コンコードで野生ぶどうの中から選抜され、わが国へは明治13年頃に導入された。果実は紫黒色で円形、糖度が高く多汁でフォクシー香の芳香がある。グレープジュースの原料として有名。栽培しやすいが、欠点としては果皮が薄いために雨によって裂果しやすい。産地は長野、熟期は9月中~下旬。

 

⑯甲斐路…植原正蔵氏が昭和30年に、フレーム・トーケーにネオ・マスカットを交配して育成、50年に登録された晩生種。果粒は7~10g,きれいな鮮紅色で糖度は18~23度と甘味が強く、上品なマスカット香があり品質がよい。また、裂果や脱粒がなく輸送性,貯蔵性に富む。栽培には果房に直射日光を当てる必要がある。欠点としては病気に弱く、着色不良になりやすい。産地は山梨、熟期は9月中~10月上旬。

 

⑰クイーンルージュ…長野県農業関係試験場でシャインマスカット×ユニコーン(ソ連)を交配、長果G11として育成し2019年に品種登録、2021年より販売開始した。果皮は赤色で着色がよく果粒は楕円形で12~13g、果房は400~450gである。糖度は22~23と甘味が強く、ほのかなマスカット香があり皮ごと食べられる。開花前のストレプトマイシン処理と2回のジベレリン処理により、無核栽培ができる。露地栽培では降雨により裂果が発生することがあるため、雨よけ施設での栽培が望ましい。産地は長野、熟期は9月下旬。

 

(19) その他   ワイン&兼用種

 

2020年の品種別栽培面積構成比は、①シャルドネ17.5%,②メルロー14.0%,③ヤマブドウ10.8%,④ピノノアール6.3%,⑤ケルナー6.0%,⑥カベルネソービニヨン4.5%,⑦ヤマソービニヨン4.5%,⑧ソービニヨンブラン3.9%,⑨ツバイゲルトレーベ3.7%,⑩ミューラートゥルガウ2.5%,⑪ブラッククイーン2.4%、そして山幸,セイベル13053,ピノグリ,MHAM,ピノブラン,バッカス,清見,ゲヴュルツトラミネール,セイベル9110,リースリングリオン,ロンド…

②生食と加工(ワイン+ジュースなど)兼用種…甲州,デラウェア,マスカットベリーA,ナイアガラ,巨峰,コンコード,シャインマスカット,ピオーネ,キャンベルアーリー,竜眼,スチューベン,ポートランド…

*2020年農林水産省特産果樹生産動態等調査栽培面積より