29.モ モ 桃 Peach

 

   バラ科の果樹で、学名のペルシカ、英語のピーチ、フランス語のペェシュはいずれもペルシャ(イラン)の意味。こう呼ばれるようになったのは、原産地の中国の黄河(こうが)上流,標高600~2000mの高原地帯から雨量の少ないペルシャに伝わって香気の強いペルシャ系が生まれ、これがヨーロッパ全体に広がった(紀元前一世紀)ことからである。

 

   わが国でも古くから作られ、「古事記」(712年),「日本書記」(720年)などの文献にその名がでてくるが、本格的な栽培が始まったのは明治初期に中国から天津(てんしん)水蜜(すいみつ)(桃太郎の桃で果頂部がとがってかたい桃),上海(しゃんはい)水蜜(すいみつ)が輸入されてからである。天津水蜜も明治,大正時代はかなり作られたが、まもなく上海水蜜の改良種(白鳳,大久保,白桃など)がとって代わった。

 

   桃には、①もも,②ネクタリン(油桃),③虫番(ばん)桃(とう)がある。虫番桃は果実が偏平で種が小さく果肉は柔軟多汁で緻密で甘く、食味は非常に優れている。但し、わが国の高温多湿の気候が合わず、裂果と日持ちが悪く普及していない。

ももの品質は成熟期の天候に左右され、早生種は5月から7月上旬の梅雨期に成熟するため、収穫前の梅雨により果実中の水分が高まり水っぽい味になりやすく、加えて日射量の不足により葉で生成する糖分が低下することなどから、とかく味の悪いももになりがちである。こうしたことから、極早生種は減少、逆に中生種は収穫が梅雨明けとなり晴天,高温の日が続くので糖分がのり品質がよくなることから増加している。

 

   2023年の栽培面積は9,260ha,収穫量は109,500t、収穫量構成比は、①山梨30.5%,②福島26.0%,③長野8.8%,④山形8.0%,⑤和歌山6.6%、そして岡山,青森,新潟,香川,岐阜,愛媛…と続く。2021年の品種別栽培面積構成比は、①あかつき17.8%,②白鳳14.9%,③川中島白桃14.1%,④日川白鳳8.3%,⑤なつっこ7.2%,⑥清水白桃4.3%,⑦まどか3.1%,⑧浅間白桃2.6%,⑨夢みずき2.2%,⑩加納岩白桃1.7%、そして黄金桃,おかやま夢白桃,さくら, 嶺鳳れいほう,一宮白桃,みさか白鳳,幸茜,はなよめ,ゆうぞら,はつひめ,暁星,川中島白鳳,紅く錦に香か,なつおとめ,だて白桃,美晴白桃,大久保,ゴールデンピーチ,ちよひめ…と続く。5年前の2016年と比べたときに栽培面積は95.8%と減少、栽培面積が増加しているのは、なつっこ,夢みずき,はつひめ,なつおとめ,白麗,紀の里白鳳…で、その他は減少している。

選び方と保存  形がよく整い紅がよくのって香りの出始めたもの。保存は涼しい所へ、長時間冷蔵庫へ入れると味が落ちるので、食べる前の1~2時間冷すのがよい。

旬  7~8月。

 

ハウスモモ

 

   4~6月は輸入果実のシェアが高く、国産果実は70%を割っている。これは、主となる果物がなく、味が天候に左右されやすいビワやサクランボが出回ることにもよる。こうした中でハウスももが、4月の末から6月の上~中旬にギフトを兼ねて出荷されている。日照時間の比較的多い5~6月上旬に成熟期を早めることで、果実品質を高めることができる。品種は白鳳系がほとんどで、日川白鳳,八幡白鳳,武井白鳳,白鳳などで、1月にビニールをかけて加温を始め、4月下旬から収穫をする。無加温ものは2月にビニールをかけて、6月上~中旬に収穫をする。

 

ももとすいみつ

 

   一般にはももと呼ばれているが、もともと桃というのは果物を総称したことばである。北海道などの一部地域で水蜜(すいみつ)の名の方が通りがよいのは、天津水蜜から一層食味のよい上海水蜜の改良品種(白鳳,白桃など)にとって代わったときに、天津水蜜=桃(桃太郎の桃で果頂部がとがって、かたく皮がむけない),上海水蜜=水蜜(皮がむけ水気がある)と受けとられたためであろう。実際、現在の栽培種はどれも上海水蜜の血が入っているが、早生ほどその血が少なく、中生,晩生種になるほどその血が多くなり、食味などの品質がよい。


 

甘さをはかる

 

   ガラスのコップに水を入れて箸(はし)を入れると先が曲がって見えるが、砂糖水を入れると、箸の先はもっと曲がって見える。これは、水の中の物質の濃度が高いほど、屈折率が上がるからで、これを応用したものが屈折糖度計または糖度計とも呼ばれる。測定表示値の目盛はBrix(ブリックス)となる。果汁の場合、そのほとんどが糖分であるので、糖度=ブリックスという使い方をして、果汁100gの中に糖分(ショ糖)が何g含まれているかを糖度「○度」と表示する。ショ糖の他にも果糖とかブドウ糖,酸やでん粉なども含まれているので、あくまでも目安である。

 

糖分とは

 

糖分の種類は、①単糖類…ブドウ糖(脳にとって唯一のエネルギー源),果糖(果物,はちみつに多く含まれる),ガラクトース、②小糖類…ショ糖(ブドウ糖と果糖が結合したもので砂糖,はちみつ,メープルシロップ),麦芽糖(水あめ),乳糖,オリゴ糖、③多糖類…でん粉,グリコーゲン,食物繊維など。

 

   ショ糖(蔗糖・ブドウ糖と果糖が結合したもの)は砂糖の主成分で、氷砂糖やグラニュー糖は極めて純度の高い製品。市販の上白糖にはしっとりした感じを出すためにわざわざ精製した後で糖蜜を混ぜてある。これらの糖分を甘味の強い順に並べると、①果糖,②ショ糖,③ブドウ糖と並ぶ。糖度計で測定した結果は、それらの糖分の総量なのでそれぞれの糖分のバランスが違えば、当然甘さに違いが生まれる。たとえば、甘味をいちばん強く感じる果糖を多く含む果物と、果糖に比べて甘味の弱いブドウ糖を多く含む果物とでは、糖度は同じでも感じる甘さに大きな開きがある、加えて酸味とのバランスによっても甘さの感じ方は変わってくる。また、ブドウ糖は、冷たくすると甘味を感じにくくなるが、ショ糖や果糖は冷やしても甘味の感じ方が変わりにくい特徴がある。

 

平均糖度 なにが、どこが甘いのか

 

 果物の平均糖度は、イチゴ…10度,カキ…14~18度,サクランボ…11~13度,スイカ…11~13度,ナシ…11~14度,バナナ…16~20度,ブドウ…16~23度,ミカン…10~12度,メロン…12~15度,モモ…10~14度,リンゴ…13~15度となっている。これに加えて重要なのが酸度である。ただ甘いだけでは物足りなさがあり、糖度があってある程度の酸度があればコクにつながる、あとは個人の好みとなる。

 

   糖度の分布は、①イチゴ…ヘタからお尻(果頂部)に向かって糖度が高く甘くなる。②カキ,ナシ,ミカン,モモ,リンゴ…中央とお尻(果頂部)のほうが甘く、また種に近い中心部分よりは、皮に近いほうが糖度が高くなる。③スイカ,メロン…種に近い内側が甘味が強く皮に近づくにしたがって糖度は低くなる、またツル側より、お尻(果頂部)のほうが糖度が高くなる。④ブドウ…ツル側(肩の部分)ほうが甘く、果皮の色が濃いほうが甘い。最近は、透湿防水シートから太陽光が反射して樹冠内に拡散することから、ブドウなどでは房の上と下で変わらないこともある。

 

光センサー 非破壊検査

 

 太陽の光にはさまざまな波長の「電磁波」が含まれ、人が見分けられる一番長い波長が赤色、逆に短いのが紫色です。赤い色より波長が長いのが赤外線であり、紫色よりも波長が短いものが紫外線です。糖分は「近赤外線」を吸収しやすい性質を持っているので、近赤外線を果実に照射して光の吸収度合いを糖度として読み取れるようにしたものが光センサーである。この方法では、非破壊測定(果汁を取り出すことなく、そのまま測定可能)いう大きな特長がある。

 

   1989年頃よりこの光センサーが各地の農協の出荷場に導入され、甘く高品質なももの出荷につながっている。この反射光を利用するのはもも,なし,りんごの糖度、そして透過光を利用するのはウンシュウミカンの糖度と酸度である。

 

交信撹乱(かくらん)法

 

   合成性フェロモンを園内に大量に蒸散,滞留させることによって、性フェロモンを頼りに雌を探す雄の行動を困難(交信を撹乱(かくらん))にし、交尾を阻害するもので1980年代に研究が進んだ。この利点は目的の害虫には極めて高い効果を与えるが天敵などに対する影響が少ないこと,微量でも効果がある,すぐに分解される,抵抗性ができにくい,数カ月間効果が持続する,天候に左右されないこと。殺虫剤の散布回数が削減できるため残留農薬や環境汚染の可能性が少ないクリーンな防除法として、広がっている。福島県では1998年にモモ用複合交信攪乱材が広域的に普及した。

 

フェロモン

  

   ある種の昆虫は、雌が出す臭い物質に同種の雄が誘われて交尾し、産卵している。この雌が出して雄を誘引する臭い物質が性フェロモンで、これを害虫防除に利用する。フェロモンには、性フェロモン,集合フェロモン,警報フェロモン,道しるべフェロモン,密度調節フェロモン,階級分化フェロモンなどがある。このフェロモンの存在は、フランスの生物学者ファーブル(1823~1915年)が野外の行動研究から、蛾(が)の雌が雄を誘引する様子が「昆虫記」にも記されている。

 

透湿防水シート

 

   透湿防水シートは白色で表面に微細な凹凸があることから、太陽光が反射した光は散乱光となって樹冠内に拡散するとともに、通気性はあるが水滴は通さない性質がある。このため降雨による水分が土壌へ浸透するのを防ぎ、乾燥状態に保つ働きをする。これにより従来の反射マルチより糖度が1度以上高く着色もよい、しかし、収穫前の天候が小雨の時にはそれほどの差が見られない。この防水シートを敷くのは収穫の1カ月前が目安である。

 

桃太郎

 

   あらすじ-川上から流れてきた桃をお婆さんが持ち帰り、お爺さんと食べようと一緒に包丁で切ったら、中から元気な男の子が生まれた。桃太郎と名付けられたその子は、成長するとキビダンゴをもって鬼退治に行くが、途中キビダンゴを与えて犬,猿,雉(きじ)を仲間にして鬼を退治し、鬼たちが集めた金銀,財宝を持ち帰った。原話の形成は室町以前と考えられ、桃太郎話が一般に広く流布したのは江戸時代中期になってから。始めは桃を食べた老夫婦が若返り、桃太郎が生まれるという話であった。文部省唱歌「桃太郎」作詞者不明、作曲・岡野貞一。「桃太郎さん、桃太郎さん、お腰につけた黍團子(きびだんご)、ひとつわたしに下さいな…」

 

 かんづめ

 

   ももの缶詰には,青果用の白肉種(大久保)と専用の白肉種(もちづき)を使うものと、黄肉の専用種(缶桃5号)を使うものがあるが、わが国では白肉が中心である。逆に輸入ものは、ほとんどが黄肉である。生産は昭和53年ごろは青果用が65%で、あとの35%が缶詰め(主力は大久保)であったが、今では輸入ものに押されて国産の加工用は激減をした。2021年の栽培面積はもちづき21.8ha・産地は山形、大久保37.3ha(生食を含む)となっている。

 

*大久保…岡山県赤磐郡熊山町の大久保重五郎氏が大正末期に、自園の白桃園の中から偶発実生として発見、昭和2年に命名された。果実は250g前後と大きく、果皮は乳白色の地に鮮紅色のかすみがあり着色がよい。果肉は繊維がやや多いが締まっているので日持ちがよいが、糖度は約12度と味が淡泊である。缶詰めなどの加工用にも向くため、かつては大量栽培されたが今では激減している。産地は山形,青森、熟期は暖地で7月下旬,寒地で8月中旬。

 

もも・軟肉性と硬肉性

 

  モモは成熟にともない果肉の軟化が起こるものを軟肉性、硬いままで軟化しないものを硬肉性という。これまでの品種のほとんどが軟肉性で、収穫後にエチレン生成量が増大して、果肉が軟化する。果肉の溶けやすさによって、溶質,半溶質,不溶質(缶詰用)がある。一方、硬い肉質からカリカリモモと呼ばれる硬肉質の品種には、おどろき,ワッサーなどがあり、果肉内でエチレン生成が起こらないために果肉が軟化しない。しかし、外部から果実にエチレンを処理すれば軟化する。

 

  甲斐トウ果17…山梨県果樹試験場で2006 年にモモ山梨6 号(ちよひめ×八幡白鳳)×日川白鳳を交配して育生、2019 年に品種登録された。日川白鳳に続いて成熟する品種の代替えとして期待され、硬肉モモでありながら収穫後の果肉硬度が緩やかに低下するという特性から、押し傷の発生が少なく収穫作業の省力化、さらには輸出など長距離輸送を必要とする遠隔地での販売も期待されている。

 

くだものアレルギー

 

   花粉症の人は体の外から入ってきた細菌やウイルスを防いだり、体のなかにできたがん細胞を排除する免疫反応が、花粉に対して過剰に起こること(アレルギー)によっていろいろな症状が出ます。この花粉のたんぱく質にりんごや桃のたんぱく質がよく似ていることから免疫の仕組みが働き、過剰な反応をしてしまうのが果物アレルギーである。これは口腔(こうくう)アレルギー症候群(OAS・Oral allegy syndrome)といわれ、口がかゆくなったり,のどがイガイガしたり違和感,刺激感,腫れなどが出てひどくなると体にじんま疹が出たり、アナフィラキシーといって気分が不快になり血圧が下がったりすることもあります。このタンパク質は熱や消化で分解されやすく、加熱処理した果物は症状が出にくい。このほかに、ゴムの成分である天然ゴムの樹液(ラテックス)に対するアレルギーがあり、このラテックスアレルギーがあると特定の果物(バナナ,アボカド,キウイ,クリ,パパイヤ,イチジク,メロン,マンゴー,モモ,パイナップルなど)によってアレルギー症状が起こることがあるので注意が必要です。そしてこの原因となるタンパク質は、加熱や消化でも分解されにくく食べないようにすることが基本となります。

 

(1) ちよひめ

 

   農林水産省果樹試験場が昭和48年、高陽白桃にさおとめ(白桃×ロビン)を交配して育成、60年に登録された極早生種。果実は150~170g,大きいものは200gを超える。果皮はよく着色して美しい、果肉はやや緻密で多汁,糖度は10~11度で早生としては甘く酸味は少ない。産地は山梨,熊本,愛知、熟期は6月上~7月上旬。

 

 

(2) はなよめ

 

   山梨県笛吹市八代町の志茂勝弘氏が日川白鳳の枝変わりとして発見、1995年に登録された極早生種で6月に食べられることから、June Bride(6月の花嫁)にちなんで命名された。果実は250g前後と大きく着色がよい、果汁が多く、糖度は11度程度と極早生としては食味がよいことから栽培面積が増加している。産地は山梨,熊本,和歌山岡山、熟期は6月下旬。

 

(3) 日川白鳳

 

    山梨県山梨市の田草川利幸氏が昭和49年、白鳳の枝変わりとして発見、51年に登録された。果実は200~250g,果皮は乳白色の地に鮮紅色に容易に着色する。果肉は多汁で繊維が少なく、糖度は10~12度で酸味が少なく食味はよい。2021年の栽培面積は582haともも全体の8.3%を占めて4番手となっている。産地別では①山梨59.2%,②和歌山19.4%,③香川8.9%、そして福島,岡山、熟期は7月上~中旬。

 

 

(4) みさか白鳳

 

   山梨県東八代郡御坂町で白鳳の枝変わりとして発見、1989年に登録された。果実は250g前後,果皮は着色しやすく、果肉はややあらいが多汁,糖度は13度と甘く酸味は少ない。産地は山梨、熟期は7月上~中旬。

 

(5) 加納岩白桃

 

   山梨県山梨市上石森の平塚八郎氏が昭和51年、野生ももに浅間白桃を芽接ぎしたなかから発見、58年に登録された。果実は200~250gで着色は陽光面を中心に赤くなる。果肉は緻密で柔軟多汁、食味,日持ちともよく糖度は12~13度と甘い。産地は山梨,岡山、熟期は7月中旬。

 

 (6) 夢みずき

 

山梨県果樹試験場が食味に優れる浅間白桃に着色に優れる暁星を交配した中から選抜,育成されたもので、2013年に品種登録された。名前は夢のようにみずみずしい美味しいモモをイメージした。果実は平均390gと大玉で、色付きがよく糖度は15度程度だが、酸味が少ないので食味に優れる。果肉がしっかりしているので日持ち性もよい。山梨の主力品種として栽培面積を拡大している。熟期は7月中~下旬。

 

   (7) 白鳳 はくほう

 

  神奈川県農業試験場で大正14年、白桃と橘早生を交配した中から選抜,育成されたもので、昭和7年に命名発表された。果実は190g前後で玉揃いがよく、果皮は乳白色の地に鮮紅色の条とぼかしがある。果肉は白色で緻密,繊維が少なく糖度は約12度と甘味に富み、多汁で品質がよい。現在栽培されている白鳳の大半は枝変わりの大玉系で、暖地での熟期は7月中旬と盆需要に一致、寒地では8月上旬と旧盆前に出荷できる。2021年の栽培面積は1,039haともも全体の14.9%を占めて、あかつきに次いでいる。産地別では①山梨48.7%,②和歌山27.3%,③岡山10.4%,④長野5.0%、そして新潟,岐阜と続く。

 


 

(8) 暁星(ぎょうせい)

 

   福島県の佐藤果樹園があかつきの枝変わりを昭和58年に発見して、昭和62年に登録した早生種。果実は200g程度と小さいが、果皮は鮮紅色に着色し甘味は強く酸味は少ないので、食味は良好。産地は福島、熟期は7月下旬。

 

 

(9) あかつき

 

 神奈川県平塚の農林省果樹試験場で昭和27年、白桃に白鳳を交配,32年より結実を開始、昭和54年に命名された。果実は250g前後だが、近年多くの大玉系統が発見され300gを越えることも多い。果皮は鮮紅色に容易に着色し、果肉はきわめて緻密,多汁で肉質がよいのが特長である。糖度は甘く12~14度,酸味も適度で食味もよい。2021年の栽培面積は1,246haともも全体の17.8%

を占めて、トップとなっている。産地別では①福島53.8%,②長野16.2%,③山梨10.2%,④山形9.0%、そして香川,新潟,青森…と続く。熟期は暖地で7月中旬,寒地では8月上旬と、中生種の

代表的な品種の白鳳とほぼ同時期だが、これより品質がすぐれており増植されている。


 

(10) 浅間白桃

 

 山梨県東八代郡一宮町の前島伝次郎氏が自園の高陽白桃の変異株を発見し、昭和49年に登録された。果実は250g前後,果皮の着色はよくすじ状またはぼかし状に全面に着色する。肉質は緻密で多汁、糖度が高く酸味は少なく食味がよい。有袋栽培,受粉作業が必要なことと栽培に多くの労力がかかり、山梨以外の栽培は少ない。産地は山梨、熟期は暖地で7月下旬,寒地で8月中旬。

 

(11) 嶺鳳(れいほう)

 

 山梨県一宮町で栽培されていた大玉系あかつきの枝変り品種、昭和57年頃に加納岩地区に導入し嶺鳳と命名したが、その後も玉張りや果形のよい系統の選抜を行なっている。果実は280~320gの大果、肉質は緻密で果汁多く適度な歯ごたえがあり、糖度が平均で15度以上と甘味が強く食味,日持ち共によい。産地は山梨,和歌山、熟期は7月下~8月上旬。

 

 

(12) おかやま夢白桃

 

 岡山県立農業試験場が1981年、う-9(白桃×布目早生)に山根白桃を交配して育成、2005年に登録された。果実は大きく300g以上となり、果皮は乳白色で着色は少ない。果肉は軟らかく果汁が多く、糖度は14度以上と高い。産地は岡山、熟期は8月上~中旬。

 

(13) 清水白桃

 

 岡山県岡山市芳賀字清水の西岡伸一氏が昭和7年、白桃と岡山3号の混植園の中から発見、昭和60年に登録された。現在普及しているのは240g前後と大玉系で、果皮はまだらに色付く,肉質は緻密で柔らかく糖度12~14度と甘く食味はよい。産地は岡山,和歌山、熟期は8月上~下旬。

 

(14) 川中島白鳳

 

 

長野県川中島町の池田正元氏が、川中島白桃に愛知白桃を交雑して育成した品種。果実は250g前後,果皮の着色はよいが無袋では肌荒れがでやすい、果肉はやや硬く歯ごたえがあり食味,日持ちもよい。産地は長野、熟期は8月上~中旬。

 

 

(15) 一宮白桃

 

 山梨県東八代郡一宮町で浅間白桃の枝変わりとして昭和55年に発見、1990年に登録された。果実は大きく380g前後、果皮の着色はよく肉質は緻密で多汁,糖度が高く酸味は少なく食味がよい。産地は山梨、熟期は8月中旬。

 

(16) 山根白桃(愛知白桃)

 

  愛知県小牧市の山田利一氏が昭和12年、高陽白桃の枝変わりとして発見,32年に命名され、山梨では山根白桃と呼ばれている。果実は260g前後と大玉,果皮は白色の地に濃紅色のまだら,果肉は繊維がやや多くあらいが、多汁で風味がよく、締まって輸送性がよい。産地は岐阜,新潟,愛知、熟期は暖地で8月上旬,寒地で中~下旬。

 

(17) 川中島白桃

 

 長野県川中島町の池田正元氏が、白桃と上海水蜜桃の混植園から昭和35年に発見した偶発実生で、昭和52年に命名された。白桃または上海水蜜桃と他の品種の実生であることが、SSR マーカーを利用したモモの親子鑑定でわかっている。果実は300~350gと大きく腰高の整った扁円形,果皮は着色が全面紅色になるが毛じが密で長いために若干鮮明さに欠ける。糖度は13度で酸味が少なく肉質はややあらいが日持ちがよい。

 

2021年の栽培面積は989haともも全体の14.1%を占めて3番手となっている。産地別では①山梨22.4%,②山形22.1%,③長野18.3%,④福島16.4%、そして和歌山,青森,新潟,岡山…と続く。熟期は8月中~下旬。


 

(18) なつっこ

 

 長野県果樹試験場が川中島白桃にあかつきを交配して育成、2000年に登録された。果実は300g前後と大きく果皮の着色はよい、果肉は緻密で果汁は多く、糖度は13~16度と高いが酸味は少なく食味良好である。産地は山梨,長野、熟期は8月中~下旬。

 

(19) まどか

 

 山形県の(株)イシドウが、大玉あかつきの自然交雑実生から選抜育成した。果実は大きく300~350gで玉揃いがよく、果皮はほぼ全面が濃紅色になる。果肉は硬く緻密で果汁多く、甘味強く食味は極めてよい、くわえて日持ちも大変よい。産地は福島,山形、熟期は8月中~下旬。

  

(20) ゆうぞら

 

 農林水産省果樹試験場が昭和41年、白桃にあかつきを交配して育成,56年に登録された。果実は250g前後,果皮は白で陽光面は紅色となり、果肉は緻密で多汁,糖度は13~14度と高くて酸味が少ないので食味がよい。玉揃いがよいが年によって変形果の多い場合がある。産地は福島,山形,山梨、熟期は8月中~9月中旬。

 

 

(21) 黄金桃   (おうごんとう)

 

 長野県長野市川中島町の池田正元氏が、川中島白桃の偶発実生の中から選抜育成した黄肉系の品種で、昭和53年に発表された。果実は250g以上、果皮,果肉ともに黄色で柔らかく果肉と核が離れやすい(離核)特徴を持つ。果汁が多く、糖度は12~14度と強い甘味を持ちながら程良い酸味も持っている。産地は山形,福島,山梨,長野、熟期は8月下~9月上旬。

 黄桃品種が普及していく中で、「ゴールデンピーチ」と混同される場合があるが、これは核が離れづらい粘核で熟期も約1カ月程度遅い。

 

 

黄肉品種の増加

 

 モモ全体の栽培面積はほかの果物同様に減少しているが、消費が多様化する中で黄肉品種については増加をしている。1998年ではモモ全体の栽培面積のなかで黄肉品種は0.9%でしたが、2021年では2.5%となっている。農水省特産果樹生産動態等調査の2021年を見ると、黄金桃を筆頭に、ゴールデンピーチ,黄貴妃,つきあかり,黄ららのきわみ,滝ノ沢ゴールド と続き、その後も黄美娘,光月,ひめこなつ,光黄,友黄,西尾ゴールド,つきかがみといった新しい品種が育成されている。

(22) 幸茜 さちあかね

 

   山梨県東八代郡一宮いちのみや町の飯島典雄氏が自園で山一白桃の枝変わりを発見、2002年に品種登録された。果実は400gと大きくほぼ全面に濃紅色の着色をするため外観がとてもいい、果汁と甘味がともに多く、果肉はしっかりしていて硬い特徴がある。産地は山梨、熟期は9月上~中旬。

 

(23) さくら

 

  山梨県春日居町で桜井氏が川中島白桃に千曲を交配育成した品種。果実は350~400gと大きく、果皮ほぼ全面に薄紅となり外観がきれいで、糖度は13~15度と甘みが多く酸味が少ないことから食味はよい。果肉が締まって硬いので、日持ちもよい。日をおいて追熟すれば柔らかくなる。産地は福島,山形,山梨、熟期は9月中旬~下旬。

 

(24) その他

 

①八幡白鳳…山梨県山梨市の八幡地区で、白鳳の早生枝変わりとして発見され た。果実は200g前後,果肉は柔軟多汁で繊維が少なく食味はよい。糖度は12~14度と甘いが、裂果しやすく有袋栽培が欠かせない。産地は和歌山,新潟,岐阜、熟期は7月上~中旬。

 

②はつひめ…福島県農業総合センター果樹研究所が中生種に偏重した福島県におけるモモの品種構成を改善するため1999年、あかつきにはつおとめを交配して、2005年に「モモ福島9号」として選抜した。果形は偏円形で縫合腺が深く、果重は220~300gで早生種としては大果。果皮の着色は良好で肉質は滑らか、果汁が多く食味は香りが豊富で甘味 がある。産地は福島、熟期は7月上~中旬。

 

③なつおとめ…農水省果樹試験場で昭和59年にあかつきによしひめを交配して、2002年に品種登録された。真夏が収穫期で果皮の着色もよく、肌荒れも少なく、乙女のような果実になることから名前が付けられた。果実は230~300gと大果、果皮は白地にぼかし状に赤く染まる。果肉は白で肉質はやや密で繊維はやや多い、タネの周りに紅色が着き果肉内にも紅色が出ることがある。糖度は13~15度で、酸味は少ないことからより甘く感じられる。産地は香川,新潟、熟期は8月上~中旬。

 

④白桃…岡山県赤磐郡可真村の大久保重五郎氏のもも園で明治32年、偶発実生として発見された。上海水蜜の流れをくむといわれ、晩生ももの代表品種でももの最優良品種でもある。果実は玉揃いがよく丸々と太った大玉で250g前後、大きいものは300gにもなる。果皮は乳白色の地に鮮紅色のぼかしが入り美しい,肉質は緻密で締まって、糖度は12~14度と甘く多汁で、ももの王者。ただ、生産面からは年によって生理的落果や渋味が多発したり、人工授粉に多くの労力を要する。産地は京都,岡山,長野、熟期は8月中~9月上旬。

 

 

⑤紅錦香(くにか)…長野県の野池今朝喜氏が野池白桃の枝変りとして発見し、1990年登録した晩生種。果実は300~350g前後の大果で、果形は扁円形,果皮は全面濃紅色に色付く。肉質はややゴム質であるが、繊維分が少なく緻密で果汁多く、甘味も多く酸味少ないので食味がよい。無袋栽培が可能。産地は福島,山形,長野,秋田、熟期は8月下~9月上旬。

 

⑥美晴白桃…長野市井上の佐藤一雄氏が自園で白桃の実生より選抜育成した晩生種。果実は円形で350g前後と大きく、果皮は濃紅色に着色する。糖度は14~16度と高く、しっかり豊かな甘みと風味があり、肉質は硬いことから日持ちは非常によい。熟してもかたいことから追熟してもほとんど柔らかくなりません。産地は新潟,長野、熟期は9月上~中旬。

 

⑦だて白桃…福島県伊達市の菅野正光氏が白鳳の偶発実生を育成選抜した晩生種。果実は350gと大きく果形は円形、果皮は無袋で全面濃紅色に着色し晩生種としては着色良好である。白鳳の特徴を受け継ぎ、果汁がたっぷりで酸味は少なく甘みが強い。晩生種の特徴として収穫直後の果肉はやや硬く食べ応えがあるが、数日間保存すると柔らかさを感じられる程度の弾力になる。産地は長野,山形,福島、熟期は9月中~下旬。