17.西洋ナシ

 

 ヨーロッパ原産のバラ科、古くは古代ギリシャ時代から栽培されていた。わが国では明治初期にアメリカやフランスから苗木を持ち込まれたが、高温多湿の気候が適していないためと追熟方法もわからないために、山形県などでわずかに栽培されていたのみであった。それが消費動向の変化もあって、昭和60年(1985)頃からようやく広まり始めた。

 2023年の栽培面積は1,340ha,収穫量は19,700t、収穫量構成比は、①山形67.0%、そして新潟,青森,長野,福島,北海道,岩手,秋田…と続く。2021年の品種別栽培面積構成比は、①ラ・フランス64.2%,②ル・レクチェ10.0%,③バートレット5.4%,④ゼネラル・レクラーク3.6%,⑤オーロラ3.6%、そしてマルゲリット・マリーラ,メロウリッチ,シルバーベル,バラード,フレミッシュ・ビューティー,プレコース…と続く。5年前の2016年と比べたときに栽培面積は88.7%と減少、その中ではメロウリッチだけが増加をしている。

選び方と保存  果皮が緑色から黄緑に変わり、手でさわって少し柔らかく感じるころが香りが強くなる。保存は冷蔵庫へ。

旬  9~12月。

 

追熟

 

 西洋なしの特長として収穫したあと追熟させないと食べられない。これは収穫後5℃で10日間冷蔵することによって、果実の追熟に関わる植物ホルモンのエチレンが発生することによる。あとは常温で10日間追熟すると果皮は薄緑色から黄色に変わり、口に入れるととろけるようで蜜のような甘さと芳香になる。これは追熟によって果実に含まれるでん粉が分解されてブドウ糖と果糖に糖化するとともに、ペクチンのゲル化により、甘みと滑らかさが増加するためである。食べ頃は香りが一段と強くなり、肩の部分が耳たぶくらいの柔らかさになった頃である。また、追熟したものはすぐ痛みやすい。長期保存する場合は、ビニール袋に入れて冷蔵庫に入れ、食べる数日前には常温で追熟させるとよい。

 

(1) バートレット Bart lette

 

 原産地はイギリスで、アメリカに伝わりボストンのバートレットが普及させたので彼の名をつけた。わが国ヘは明治初年に導入され、大きさは250g前後、果汁が多く甘味に富み優良品である。また果皮の赤いマックスレッドバートレットもある。産地は青森,北海道,山形,秋田、熟期は8月下~9月上旬。


(2) オーロラ Aurora

 

 アメリカのニューヨーク州立農試がマルゲリット・マリーラとバートレットの交雑実生から1950年に選抜し、1964年に命名された。わが国には農林水産省果樹試験場が1983年に導入した。果実は250~350gで黄緑色の地に薄いサビがかかって褐色、糖度は14~15度,果肉は緻密で多汁,香りも高く品質はよい。産地は山形,北海道,長野、熟期は9月上~中旬。

 

(3) ル・レクチェ Le lectier

 

 新潟県白根市の小池左右吉氏が明治36年にフランスから取り寄せたもので、バートレット×フォルチュネの交配種。果実は350~400gで糖度は14~15度,果肉は溶質できめが細かく多汁で独特の芳香がある。果皮が緑色から黄色になったら食べ頃。産地は新潟,山形,長野、熟期は10月中~下旬。

 

 

(4) ラ・フランス La france

 

 フランス原産で1864年にクロード・ブラッシュ氏が発見、わが国へは明治36年に導入された。バートレットの結実を助ける受粉樹として植えられていたが、実った果実を食べようとしても石のように固くてまずく捨てられていた。しかし数日後に、黄色く色づきよい香りがするラ・フランスを拾って食べてみて、その美味しさに気づいた、その後、グルメブームの到来でスポットライトを浴びるようになった。

 

 果実は200g前後と小さく、形はバートレットなどよりも丸みを帯びている。果皮は黄色がかった緑色、でこぼこが多く見栄えはよくない。収穫したばかりのラ・フランスは、1.6~1.8%程度のでん粉を含みクエン酸などの酸が多くておいしくない。しかし、追熟させるとでん粉がほとんど分解されて、果糖,ショ糖,ブドウ糖などの糖分に変わり、酸っぱさはあまり感じられず、コクのあるおいしさとなる。また、果肉中のペクチンは、追熟が進むにつれて水溶性の比重が増加するために、果肉はとろけるように柔らかくなめらかな歯ざわりで、特有の芳香があり味は最上である。食べ頃は香りが一段と強くなり、肩の部分が耳たぶくらいの柔らかさになった頃である。予冷は5℃で10日間、熟期は10月上~下旬、出回りは10月下~1月上旬。

2021年の栽培面積は75haと、西洋なし全体の68.7%を占めてトップとなっている。産地別では①山形91.4%,②青森4.1%,③長野2.7%、そして福島,岩手,秋田と続く。

 昭和30年代に山形県園芸試験場置賜(おきたま)圃場で表皮が茶色の系統が枝変わりとして発見され、通称「金系」と呼ばれている。

 

(5) その他

 

①プレコース Precose…明治初年に原産国のフランスから輸入された早生種で、原名はドクトル・ジュール・ギュヨー Dr, jules guyot。果実は250~300gと大果で、肉質はややあらい。産地は青森、熟期は7月下~8月上旬。


②マルゲリット・マリーラ Marguerite marillat…フランスのリヨン郊外でマリーラ氏が1874年に発見した。果実は500g前後と大きく果肉は多汁で、やや繊維質があるがほのかな酸味と上品な甘味がある。産地は山形,北海道,福島,青森、熟期は9月中旬。

 

③バラード Ballade…山形県立園芸試験場が昭和59年にバートレットにラ・フランスを交配して育成、1999年に登録された。果実は450gと大きく甘酸適和して香りも高く品質はよい。産地は山形、熟期は9月下旬。

 

ゼネラル・レクラーク…フランスの国立農業試験場でドワイエネ・ジュ・コミスの自然交雑実生として1950年に発見され、青森県畑作園芸試験場が昭和52年に導入した。果実は400~500gと大きく糖度は13~14度,甘酸適和して香りも高く品質はよい。産地は青森,北海道,山形、熟期は9月下~10月上旬。

 

⑤シルバーベル…山形県農業試験場置賜(おきたま)分場で昭和53年にラ・フランスの自然交雑実生として選抜された。果実400~500gと大きく糖度は16度前後,ラ・フランスより少し酸味があり、すっきりとしたあじわいが楽しめる。産地は山形,秋田、熟期は10月中~下旬。

 

メロウリッチ…山形県農業総合センター農業生産技術試験場で、昭和59年にミクルマス・ネリス×ラ・フランスの交配として育成され、2009年(平成21年)に品種登録された。果実は270~290gで、果皮は地色の黄緑色から追熟すると黄色に変化し、食べごろが判りやすい。香りが強く果肉は緻密で果汁が多い、高い糖度(約16~17度)となめらかな食感が特徴。山形県のオリジナル品種で、熟期は10月上旬。