38. キュウリ 胡瓜 Cucumber

 

 インドのヒマラヤ山麓原産のウリ科,1950年代にキュウリの類縁種であるハードウィッキーの自生が確認されたことから原産地が確定された。インドでは約3000年前に栽培の記録がある。いったん西域(ペルシャ)に伝わり、漢・武帝の時代(紀元前141~前87年)に張騫(ちょうけん)が、中国西北部の大砂漠地帯(この中に胡族(こぞく)の住む胡地がある)を攻略した時に漢に持ち帰った(この通り道がのちのシルクロードとなる)といわれ、胡瓜の名前がついた。現在、中国では「黄瓜(ホァンゴア)」と書かれるが、これは熟すると黄色になるからとも言われる。一方では欧米に渡ってサラダやピクルス用に発達した。

 

 わが国では平安時代の文献、「和名類聚抄(わみょうるいじゅうしょう)」(931~938年)にでてくるが、本格的な栽培が始まったのは江戸時代末期からである。古来、漬物用として、また、酢の物など米食の食生活の中で生産が拡大されてきたが、昭和40年代後半をやまとして需要は伸び悩み気味、近年の食生活の変化の中でサラダなど生食用としての利用が増えている。生産は施設栽培(ビニールハウス,ガラスハウス)が全体の6割となって、あとが露地栽培となっている。

 

 胡瓜の味はみずみずしさ,さわやかな香り,サクッとした歯ざわりにある。約97%の水分を含み野菜の中では最高、ほか各種のビタミン,無機質をわずかずつ含み特有の芳香(キュウリアルコール)が喜ばれる。ビタミンCは皮の部分に多く含まれているので、皮のまま食べたいものである。また、ビタミンCを破壊する酵素のアスコルビナーゼを含むが、千切りにしたくらいではそれほどの損失はない。この酵素は加熱や強い酸性(酢やレモン汁)では働かないので、少し酢に付けてから利用するのもよい。

 

 生育の適温は18~25℃で、夏の暑さや冬の寒さには弱く、春や秋によく育つ。わが国の品種は、華南型(原産地→東南アジア→中国…黒いぼで水分が少なく漬物に適する)を中心に、華北型(原産地→中国西北部→中国…白いぼで果皮が柔らかく水分が多くサラダに向く)の導入、さらに両者の交雑を繰り返してきた。次のような種類がある。

 

①もろきゅうり…普通は1本80~100gで収穫するが、もろきゅうりは長さ7~8㎝,重さ30~40gで収穫して、寿司のカッパ巻きや丸ごともろみみそをつけて食べる。 ②花丸きゅうり…料亭などの業務用で刺身のツマとして、花のついたまま使われる。 ③葉付き花丸きゅうり…葉を1枚つけて収穫され、葉は刺身などを乗せる敷物に使われる。 ④ピクルス用きゅうり…西洋風漬物の専用種。 ⑤スライス用きゅうり…欧米でサラダ,サンドイッチ,ハンバーガーなどに使われる。

 

わが国のきゅうりの栽培面積は1973年の28,200haから2021年の9,940haへと、この50年間で35%までに減少した。生産量は1973年の100万tから2021年の55万tと約55%となった。この要因は、①食生活の変化により漬け物需要が低下、②どの野菜も共通の生産農家の高齢化と後継者不足である。品種改良は気候変動への対応として食味や収量よりも、耐病性に重点が置かれている。

  2022年の栽培面積は9,770ha,収穫量は548,600t、収穫量構成比は、①宮崎11.8%,②群馬10.2%,③埼玉8.0%,④福島7.4%,⑤千葉5.7%、そして茨城,高知,佐賀,熊本,愛知,北海道,宮城,長野,岩手…と続く。

 

選び方と保存  切り口が新鮮で果皮が濃緑でつやがありイボが痛いくらいなもの、古くなると切り口の部分をさわるとふかふかでスの入った状態となり、また尻太りは種が肥大して味が悪い。冬期には低温障害として果実の内部が褐色になりやすいので早く利用したい。保存はポリ袋に入れて冷蔵庫へ。

旬  4~9月。

温度障害と内部褐変(茶芯果)

 

 冬期には低温障害としてきゅうりの内部が褐色になりやすい。これはきゅうりに含まれるポリフェノールが酵素により酸化されることにより起こるもので、収穫後の流通過程の温度が関係しており、10℃で保管して8日後には褐変が発生し、10℃にさらされる期間が長いほど、褐変の程度が高くなる。防止対策は温度以外は不明であるが、冬期はハウス内も夜間は10℃前後になることもあり、栽培と流通と両方が原因とも考えられる。夏期の高温期にも褐変が発生する。通常だと一週間かかって大きくなるものが3日間くらいで急激に大きくなってス入り,褐変となる。漬け物などに早く調理すること。

 

河童(かっぱ)ときゅうり

 

 すし屋では、きゅうりの海苔巻きをカッパと呼ぶ。これは江戸時代にきゅうりの初物を川に流して供える風習=水難払いがあり、これから想像上の動物である河童が、きゅうりを大好物にしているといわれて、呼ばれるようになったものであろう。河童は川に生息するといわれる妖怪で、「かわわらは」つまり「川の子ども」が訛(なま)って「かっぱ」になったという。身長は子ども程度,緑色で甲羅を背負い、手には水かきが生えている。口はくちばし状で頭の上に水の入った皿を乗せて、いつも水で濡れており、皿が乾いたり割れたりすると死んでしまう、水辺を通りかかったり泳いだりしている人を水中に引き込み、おぼれさせたり、尻小玉(しりこだま)を抜いて殺したりするといった悪事を働く描写も多い。

 

ブルーム(白粉)

 

 きゅうりやぶどう,プラムなどの、果実の表面に見られる白い粉をブルームといい、これは果実表面の毛から細胞内容物が析出して白変し粉で覆われた状態となる。これは蒸散を抑えたり虫から守る大切な役割をもっている。きゅうりの場合は、果実をさわるたびにブルームが落ちるので果皮が汚れて見え商品価値が下がり嫌われる。ブルームの少ないものは見た目にはみずみずしく新鮮にうつることから、ブルームが発生しないか少ない品種が育成され、さらに発生を抑制するブルームレスと呼ばれるかぼちゃ台木(ひかりパワー,ひかり1号,2号,きらめき,輝虎…)に接ぎ木をされる。このブルームレス胡瓜は1990年代に入って増加しているが、ただ、現状ではブルームレスは食味がよくない,病気に弱い,収量の不安定といった弱点も指摘されている。

 

(あおい)の紋ときゅうり

 

 「毒多くして能無し。植えるべからず。食べるべからず」これは水戸光圀(みつくに)の言。「是瓜類の下品也。味よからず水毒あり」これは江戸時代の儒学者、貝原益軒の言。当時のきゅうりは、とても苦味が強かったことときゅうりの切り口が徳川家の三つ葉葵の紋に似ていることから、武士たちはおそれ多いとして食べなかったといわれている。江戸末期から明治にかけて一般化するとともに、海外からの品種導入や品種改良により大正・昭和には大衆野菜として普及した。1955年頃には酢の物や糠漬け用として、その後はサラダや浅漬けなどの生食(せいしょく)需要が伸びているが、これには苦(にが)みの出にくい品種が出回るようになったことも要因となっている。