57. サトイモ   里芋

 

 インド,東南アジア原産で、サトイモ科に属する。東南アジアや南太平洋の島で、主食に利用されているタロイモの一部が改良されたものと考えられ、わが国へは縄文時代の中期に、島伝いに北上してきた南方民族の移動にともなって渡来し、稲(弥生時代)よりも早く食用にされていた。現在のように主食としての穀類が豊かではなく、さつま芋,じゃが芋もなかった頃には、重要な主食のひとつであったと考えられる。また、さといもの名は渡来以前から山野に野生していた山の芋(自然薯(じねんじょ))を採食していたので、これに対し作物として渡来したこの芋を、里で作る芋の意でさといもと呼ぶようになった。古くは「家の芋」とも呼ばれた。農耕儀礼には欠かせない野菜で、さといもを神へのお供物とする風習は全国各地に見ることができる。種いもをもとに、親いも,子いも,孫いもと増え繁殖力が強いことから子孫繁栄や、頭(かしら)芋=出世を意味するなど、縁起のよい野菜のひとつとして吉例に使われる。

 

 高温多湿を好み生育適温は25~30℃と高いが、北海道と東北の一部を除いて全国で栽培されている。連作には弱く3作目には収量が半減するので注意したい。食用とする部分によって、次のように分けられる。 ①子イモ用種…普通のさといもで、土垂(どだれ),石川早生などで子イモ,孫イモはよく太り食用となるが、親イモはえぐ味があり食用とならない。 ②親子兼用種…大吉(商品名はセレベス),赤芽,八ッ頭,トウノイモ(この中に海老(えび)芋がある)などで、親イモ,子イモともよく太り食用となる。 ③親イモ用種…たけのこ芋などで、子イモ,孫イモの着生が少なく親イモを食用とする。 ④葉柄用種…蓮(はす)芋などで葉柄を生鮮品として利用する。

 

 さといもの主成分はでん粉で、じゃが芋に比べて粒子が四分の一と小さく大変消化によい。ほかにでん粉や糖分が変わるのを助けるビタミンB1や脂肪の燃焼を助けるビタミンB2といったビタミン群、いも類に共通の便通に効果のある食物繊維を多く含んでいる。 さといもは、泥を落として皮をむいてから下ゆでをする。これはさといも特有のぬめりがあると、煮ても中まで味がしみこまず煮汁のにごり,吹きこぼれの原因となるので、食塩やミョウバンを加えた水で下ゆでし、水洗いをしてぬめりをとる。それから味付けをして、中火でゆっくり煮るのがおいしく煮るコツである。この独特のぬめりはガラクタンという炭水化物と蛋白質の結合による。皮をむく時に手がかゆくなるのは多量に含まれているシュウ酸カルシウムの針状結晶が細胞内から飛び出して皮膚を刺激するためで、塩,酢,重そうなどを手につけるとおさまる。煮っころがし,いため煮,そして、関西では雑煮(ぞうに)に入れて食べる。2022年の収穫量は138,700t、構成比は、①埼玉12.9%,②宮崎9.8%,③千葉9.5%、そして愛媛,栃木,鹿児島,新潟,神奈川,熊本…と続く。

 

選び方と保存  皮が茶褐色で少し湿り気があって丸く太ったものがよく、乾燥してヒビ割れしたものや傷のあるものは避ける。保存は8~10℃位が適温で5℃以下になると傷みがでる。新聞紙に包んで冷暗所へ。

旬  9~12月。

 

ズイキと乾燥品

 

 さといもの葉柄を生鮮品として利用するときにズイキと呼ぶ。一般にはトウノイモ,ヤツガシラなどの親イモ用品種を使うが、ハスイモなどの葉柄用品種も使う。軟白しない赤い皮肌のものを赤ズイキ、軟白して白い皮肌のものを白ズイキ、また市場では白ダツと称している。

 

 地上部は里芋に似て、葉柄は緑白色で長さ1,2m,株元の直径が5㎝以上になると収穫する。柔らかでエグ味がなく淡泊で、吸い物,酢の物,和え物,そして精進料理に独特の風味が喜ばれている。このズイキの皮をむいて乾燥させ保存食品としたものが、割菜(わりな)・イモガラで鉄やカルシウム,カリウム,食物繊維が豊富に含まれている。古くから非常食とされ、加藤清正は熊本城を築いたときに籠城(ろうじょう)に供えて畳にこのイモガラを使ったといわれる。

  

輸入と冷凍品

 

 2022年の国内収穫量が138,700tに対して、輸入が生鮮物で2,835t,冷凍物で31,482tと全体の中では輸入が19.8%を占めて停滞傾向である。輸入はほぼ中国産で品種は中国の在来種(山東さといも)、日本でいう土垂(どだれ)に近い。この輸入が多い背景には、価格が手ごろで扱いやすいことから中食(なかしょく)(特に弁当,惣菜)を中心とした業務用に欠かせない存在であり、家庭内での食事機会の増加がある。ただ、粘りといった味の面では国産ものと比べて不足感がある。

栽培面積の減少とさといも

 

 労働力不足,他品目への転換などにより、さといもの栽培面積は一段と減少している。乾燥に弱くきれいに土を除くと保存が効かない,台所が汚れる,洗うときに手がかゆくなったりぬるぬるとして滑るなど、理由はいろいろである。輸入については、生鮮,冷凍ともそのほとんどは中食・外食といった業務用需要である。