64. シイタケ  生椎茸

 

 日本,中国,韓国,台湾,ニューギニアなどに分布、マツタケ科に属しマツタケと共にわが国の代表的な食用きのこである。自然の中では、山林内の広葉樹、ナラ,シイ,カシ,クヌギ,シデなどの枯木や切り株に、春,秋に多数発生する。名前はシイの木によく生えることからきており、平安時代に中国から乾シイタケの作り方や食べ方が広まって食べられるようになった。

 

 今日のような原木栽培が始まったのは、シイタケ菌が純粋培養できるようになった昭和10年以後で、その後、不時(ふじ)栽培(水に7~8時間浸した榾木(ほだぎ)をビニールハウスなどで保温する)により周年栽培が可能になった。

 

 しいたけ独特のうま味の成分は、5'-グアニル酸で昆布のグルタミン酸,かつお節のイノシシ酸と並ぶものである。また、新鮮なしいたけの香気は、まつたけと同じマツタケオールである。干ししいたけの香りの主体はレンチオニン、そのほか、タンパク質は抗酸化作用,抗ウイルス・肝炎改善,血圧降下作用があり、食物繊維には糖尿病予防,便通改善効果がある。動脈硬化に効く成分(コレステロールを低下させるエリタデニン),制癌(せいがん)物質(レンチナンという多糖類で医薬品として製品化されている)も含まれている。

 

 生しいたけは鮮度のよいうちに、特有のうま味と香り、歯ざわりを味わうことで、和洋中華,どんな料理にも向く。今後とも嗜好の多様化,健康志向の中で消費量は増大していくであろう。近年、鍋物として冬の季節料理によく使われる。そのほかにも、洗ってさっと直火焼きして、塩,ポン酢,生姜じょうゆなどで食べる。バター焼きにしてレモンをかけたり、バーベキューに、また、かさの裏側にエビのすり身や豚肉などのミンチを塗り、揚げたり,油焼きにしてもおいしい。干ししいたけを戻すときは水かぬるま湯に3~4時間つけるか、急ぐときは熱湯に砂糖を少し入れると、浸透圧のため吸水が容易で旨みもシイタケ内部にとどまっておいしい。2022年の収穫量は69,532t、構成比は、①徳島10.9%,②岩手8.8%,③北海道7.1%,④秋田6.0%,⑤群馬5.3%,⑥福島4.6%、そして栃木,長野,長崎,宮崎,千葉,岐阜,新潟,大分,富山…と続く。

 

選び方と保存  茶褐色でカサが肉厚で開き過ぎていないもの、茎は太く短いのがよい。カサの裏は白くきれいで、斑点や変色が出てきたら要注意。保存はパックのまま冷蔵庫か、そのまま冷凍させる。

旬  10~3月。

原木栽培と菌床栽培

 

 2006年6月30日に農林水産省より「しいたけ品質表示基準」が制定され、生しいたけの栽培方法(原木栽培、菌床栽培)の表示が新たに義務付けられた。

 

 原木栽培は、伐採(ばっさい)後1~2カ月乾燥させた原木に種菌を植えつけ榾木(ほだぎ)とし、その後3~4カ月適湿地におき菌糸の発育を図る。この仮伏(かりぶ)せのあと、直射日光をさけ週に一度の散水を行ない榾木の完熟を図る。こうして1年たつと、春,秋の適温期にきのこがでるようになる。椎茸の胞子は、20℃前後で発芽して菌糸となる。この菌糸の生育適温は、23~27℃,湿度70~80%だが高温には弱い。やがて、菌糸が発達して菌糸塊を作り、ついには子実体(しじつたい)(きのこ)を作る。この子実体の発生,生長には10~18℃前後を最適とするが、温度が低いと茎が太く肉厚となり、高いと茎は細長くかさが薄くなる。原発事故の為に原木の主要産地だった阿武隈山系が放射性物質の影響もあって、生産が難しくなった。そうした中で、菌床栽培(えのきたけ,ヒラタケの栽培に用いられる方法で、おがくずと米ぬかの培養基に種菌を植え付け屋内で湿度や温度も管理しつつ栽培する。3か月で収穫でき、しかも量は原木の4倍以上も可能だという)が増えている。原木をおがくずに粉砕すると6倍以上になり資源が有効に使え、さらに米ぬか,ふすま,その他倍地添加物(栄養源・増収剤)は生産性の向上につながる。原木栽培のものより風味が劣るといわれるが、わが国以外ではほとんどがこの菌床栽培である。ちなみに、1990年では原木栽培が100%であったが、2000年には菌床52%;原木48%、2021年では菌床92.9%;原木7.1%となって、今では菌床栽培が主流となってしまった。

 

中国産シイタケ菌床の輸入急増

 

 財務省の貿易統計によると2021年のシイタケの植菌済み菌床の輸入量が過去最高となった。ただ、2022年については大幅な減少となっている。輸入菌床は国産菌床の半額ほどと安く、発生したシイタケは国産として販売できるため、国内産地は危機感を強めている。輸入先は99%以上が中国で、菌床重量の3分の1がシイタケとして発生するといわれ、これを勘案すると、我が国の生産量の1割を輸入菌床から発生したものと生鮮物の輸入が占めることになる。原料となるおがくずは広葉樹が適するが中国は、そんなに広葉樹資源が豊富な国ではなく伐採制限も強めている。そのため営林署の木材工場や東南アジア,ロシア,北米から木材を輸入して、家具の製造を行う家具加工団地のおがくず材に頼ったり、針葉樹チップを混ぜたりしている。これに加えて栄養素として添加する米ぬかやふすまの安全性や、菌類は薄く存在する有毒物質を吸収して濃縮する作用があることから、消費者へ原料の産地情報が何も伝わっていないというのは、食の安心・安全の上では不安材料になっている。

輸入物と中国

 

 中国国内でのシイタケ収穫量は2009年で340万t、2014年で763万tを越すといわれている。そのほとんどは菌床栽培であり、品質も向上してわが国にも大量に輸入されるようになり、2000年には国内生産に占める輸入比率が38%にもなってしまった。その為に国産品価格が急落したことから2001年には生シイタケ,ネギ,畳表(たたみおもて)(イ草)とともに 緊急輸入制限(セーフガード)が発動された。その後、2002年に中国の冷凍ほうれん草から残留農薬が検出、2007年に発生した中国製冷凍ギョーザの中毒事件などもあって大幅な減少となり、2022年の輸入量(中国産)は2,262tと増加に転じた。その分、輸入菌床が減少したがまだまだ多い。ほかに、乾シイタケの輸入も多く2022年で国内生産が1,814tに対して4,596tが輸入され、この輸入比率は71.7%となっている。

 

しいたけと胞子

 

 きのこのカサが開き始めるころになると、胞子ができ始める。カサが8~9分開きのころには完全に成熟し、直径6㎝のきのこで重量にして約0,11g,数ではおよそ10億個の胞子が形成される。その後、空気の流れに乗って飛散する。胞子ができるためには18~26℃がもっともよく、その寿命は20℃,湿度20~60%で、210日前後である。また、光に対しては敏感で10分間直射日光に当たると発芽不能となる。適温のなかでは24時間以内に100%発芽をして、細胞分裂を繰り返す。このとき胞子は+の性と-の性とがあり、両者が一体となってさらに増殖し、子実体(きのこ)となる。

 

きのこの収穫量と福島

 

 2012年の収穫量は、①エノキタケ 134,097t,②ブナシメジ 122,276t,③生シイタケ 66,476t,④マイタケ 43,251t,⑤エリンギ38,163t,⑥ナメコ 25,8164,⑦ヒラタケ 1,883tに対して、2022年の収穫量は、①エノキタケ 126,321t↘,②ブナシメジ 122,840t↗,③生シイタケ 69,532t↘,④マイタケ 56,763t↗,⑤エリンギ 37,798t↘,⑥ナメコ 23,738t↘,⑦ヒラタケ 4,501t↗となっている。この10年間の動きを見ると、停滞から2012/2022年では100.9%と微増に転じた。野菜全般では減少傾向なので、よい方向でしょう。

 生シイタケは東日本大震災と原発事故(2011.3.11)の影響を受けている。福島県を中心として近県の宮城県,群馬県,栃木県,茨城県,千葉県の生産量の合計が2010年では20.9%を占めていたが、2011年/17.4%,2012年/14.5%,2013年/14.6%,2014年/14.8%,2015年/16.0%,2016年/19.9%,2017年/20.7%,2018年/21.8%,2019年/22.4%と、やっと元に戻った。ただし、新たな問題として中国産輸入菌床で栽培された生シイタケが大量に国産として出回っている。特に千葉県では販売されている生シイタケの70.6%,栃木県では42.9%が中国産輸入菌床である。今後の推移を見守って行きたい。

 

きのこの効用

 

 有効成分はベーターグルカンと呼ばれる高分子多糖類で、食物繊維に似た性質を持ち、免疫力を上げて生活習慣病を防ぐ効果があり、いろいろな抗ガン免疫療法剤が作られている。シイタケからは胃ガン用の「レンチナン」(味の素と山之内製薬が開発)、カワラタケからは肺ガン・胃ガン・大腸ガン用の「クレスチン」(三共・呉羽化学)、スエヒロタケからは子宮頸ガン用の「ソニフィラン」(科研製薬)が開発されている。ほかにもアガリクスやメシマコブ,ヤマブシタケ,タモギタケなどが話題になっている。

 

雷ときのこ

 

 昔から、雷(かみなり)の落ちた場所にはキノコが生えると言い伝えられてきた。これを確認するために、岩手県で自然の雷の代わりに高電圧のショックを与える実験が行われた結果、シイタケとナメコでは収穫量が1.5~2倍になることがわかった、食感や味は変わらない。これはキノコが生える2~4週間前に、ほだ木の両端や菌床に電極を付け5~10万ボルトの高電圧を1000万分の1秒かけるもので、「外部から強い刺激を受けたキノコの菌糸が危機を感じ、子孫を残そうとする働きが活発化した」と考えられる。この原理を応用して、㈱グリーンテクノからきのこ増産装置「らいぞう」\480.000が市販された(2010-2019年)が、作業工程が増えることと、きのこ栽培は自然条件に左右されることもあって、当初の増産効果が確認されずに販売は終わった。