95.タマネギ   玉葱 Onion

 

   西アジアから地中海沿岸が原産のユリ科の野菜、英語名Onionはラテン語で「真珠または集合体」を意味するUnioに由来するとも、「頭」を意味するケルト語からきているとも言われる。たまねぎは、葉が発達して変形肥大したもので、頭状,または球状を呈していることから頭葱といい、玉葱の字を当てたといわれる。  

 

   古代エジプトでも栽培され、ピラミッドの建設(紀元前2700年ころ)にたずさわった労働者に、「大根,玉葱,にんにく」を支給したとの記録がある。原産地からヨーロッパヘ、そして16世紀には米国ヘ伝わり、今日では世界各国で広く栽培されている。わが国へは江戸時代に長崎に入ったとされるが、本格的な栽培は明治4年に札幌ヘ、明治18年に大阪ヘ導入されて各地に広まった。その中で、米国系のイエロー・グローブ・ダンバース Yellow globe danvers(マサチューセッツ州ダンバース町原産)が北海道で春まき栽培に順化されて札幌黄に、イエロー・ダンバース Yellow danversが大阪で秋まき栽培用の泉州黄に、また、フランス系のブラン・アチーフ・ド・パリ Blanc hatif de parisが愛知で秋まきの早生種の愛知白となった。これらが、その後の基本品種となった。

 

   栽培には冷涼な気候を好み、生育の適温は15℃前後であるが葉球の肥大には15~20℃が必要である。寒さにはきわめて強く-8℃でも凍害を受けないが、暑さには弱く25℃以上になると生育障害を受ける。葉球の肥大には、温度のほかに日長(日の出から日の入りまでの長さで、3月21日の春分の日が日長12時間・昼と夜の長さが同じで、以後、段々昼が長くなる)がある程度以上に長いことが必要で、早生で12時間,札幌黄で14時間以上である。早生種は形が偏平で日持ちが悪いが、中,晩生種は腰が高く丸形で貯蔵力がある。

 

   食用にする部分はりん茎といって、葉の基部がうろこ状にふくらんで出来たものである。タマネギ、ネギの含有成分はイソアリインで組織を傷つけても、アリシンはほとんど生成しない。外側の皮はTシャツやハンカチなどをきれいな黄色に染める。卵をゆでるときには外皮を一緒に入れておくと、卵の表面に迷彩的な模様がつく。玉葱を冷蔵庫や氷に冷してから切ると、目を刺激する成分が発生しにくくなり泣かなくてすむ。肉料理の普及など食生活の洋風化とともに需要は順調に伸びてきた。あまり表には出てきていないが、輸入が年間20~30万t台で推移をしている。このほかに乾燥たまねぎ(グラフにて表示)と炒め玉葱のペースト(カレーやシチューに必須,正確なデーターが不明)の輸入も多い。この輸入が多い背景には、価格が手ごろで扱いやすいことから中食(なかしょく)(特に弁当,惣菜)、外食産業を中心とした業務用に欠かせない存在となっていることがあげられる。2022年の栽培面積は25,200ha,国内収穫量は1,219,000t、収穫量構成比は、①北海道67.7%,②兵庫7.1%,③佐賀6.9%、そして長崎,愛知,熊本,静岡,栃木,群馬,香川,富山…と続く。

 

選び方と保存 外皮がよく乾いてつやがあり、身が固くしまっているもの。首の部分を押して柔らかなものは中が傷んだり腐っていることがある。また、発芽,ヒゲ根の伸びたものには注意。保存は冷暗所へ、よく炒めて冷凍しておくといつでも使える。

旬 新たまねぎが出回る4~6月と、北海道産の出回る9~12月。

 

セット(子球)栽培

 

   栽培方法のひとつで、2月下~3月上旬に播種して5月上~中旬ころ直径2㎝くらいのとき抜取り(これをセットまたは、子球という)、通風のよいところで貯蔵して、それを8月下旬に植え付けると11月下旬から12月の収穫、10月下旬に植え付けると3月下~4月上旬の収穫となる。特長として生育期間が4~5カ月と短く、セットの植え付け時期で収穫期を変えられ、他作物との組み合わせができる。そして販売は11月から4月迄で、肉質が柔らかく多汁で辛味の少ない新玉葱として利用できる。品種は、はやて,ふゆたま,ポインター335,グラネックスイエロー,いなずま,マッハ,シャルムなど。

 

早生(新)たまねぎ

 

貝塚早生,愛知白,静岡早生,ひかり,いなずま,マッハ,錦毬(きんきゅう)などの品種の総称。4月から5月にかけて出回るが、早いものは3月始めに市場に顔を出す。主産地は太平洋岸に面した温暖な地方に多く、静岡,愛知などがよく知られている。品種の変化とともに形も変わってきており、従来の早生(わせ)=偏平から、晩生種の腰高,円形に近付きつつある。とくに昭和58年の錦毬は、この傾向に拍車をかけた。栽培面からも機械収穫が可能で、調理面からも円形が好まれている。また、この早生(新)たまねぎとして出荷する前の未成熟果を商品化したものが葉たまねぎで3~4月に出回り、柔らかさと独特の甘味があり炒め物や和え物に使われる。

 

たまねぎの普及

 

   本格的な導入が始まった明治初期には、まだ外来野菜と言うことで馴染みが少なく、一般には普及しませんでした。ところが明治12年,19年にコレラが大流行した時に、玉ねぎはコレラに効き目がある、と言う噂が広がって一気に普及した。その背景としては、昔から慣れ親しんできたネギと味わいが似通っていたことと、明治以降の食生活の洋風化や肉食の普及もあった。

 

北海道の玉葱

 

   明治4年(1871年)に開拓使次官の黒田清隆が渡米し、開拓に必要な機械,種子などを購入して帰国し、札幌官園で小麦,甜菜(てんさい),キャベツなどとともに試作されたのが、わが国での最初である。明治13年ころから札幌付近(現元町)の農家の間でも試作されるようになり、16年には道外ヘの移出販売も行なわれるようになった。急速に増えたのは、明治27~28年の日清戦争による軍需景気で玉葱の価格が高くなってからで、その後、明治40年にかけて岩見沢,滝川,富良野ヘ、少し遅れて北見へと普及していく。生産も昭和40年以降急速に伸びて、2021年の栽培面積をみると全国で25,500ha のうち、①北海道57.3%,②佐賀8.2%,③兵庫6.5%となっている。ちなみに収穫量では北海道が60.6%となって、道産野菜の代表のひとつとなっている。

 

   品種は、明治11年(1878)にウィリアム・P・ブルックス教授がアメリカから持ち込んだイエロー・グローブ・ダンバースから自家採種を繰り返して選別した札幌(さっぽろ)黄(き)→空知黄→北見黄の時代が長く続いたが、病気の多発により昭和53~54年ころからF1(1代雑種)が普及した。2020年の品種構成は早期出荷用の  が4.0%,そして北もみじ2000が42.3%,オホーツク222が29.6%,バレットベアが3.8%,パワーウルフが2.1%、そしてイコル,スーパー北もみじ,北早生3号,コディアック,オホーツク1号…と続く。(栽培面積は北海道農業協同組合中央会発行の北海道野菜地図最新版による)

 

   北海道産のたまねぎは貯蔵性は高いが硬くて辛いといわれるが、これは国内収穫量の半分以上を占める北海道が、長期間の需要に応えるためです。たまねぎには「休眠」という性質があり、玉が肥大し地上部が枯れたあとの一定期間は発芽をしない。さらに温度,湿度を管理して休眠時間を延ばして、秋に収穫した玉ねぎを翌年の春まで貯蔵し、出荷している。

 

   地球の温暖化が叫ばれている。果物でも近年は着色不良や着色遅延は、リンゴ,カキ,ブドウ,ウンシュウミカン等に広くみられるようになった。たまねぎでも北海道内での産地移動が発生している。かつての岩見沢から、近年は北見が栽培の中心になっている。2020年の栽培面積の構成比をみると、北見を中心とした網走管内が55.6%と顕著で、ほかに、岩見沢を中心とした空知・石狩管内が21.3%,富良野を中心とした上川管内が18.0%,幕別を中心とした十勝管内が5.1%となっている。この北見地方では土地が広大なことから、玉葱と小麦の輪作体型をとることができ、これが安定生産と収穫量の増大にもつながって、低温貯蔵で翌年6月までの出荷を目指している。


             北海道、岩見沢市稔町 大坂宅での収穫風景

 

1代雑種・F1 エフワン

 

 遠縁の品種を交配すると、その子供F1は、両親よりも強健でいろいろな形質が優れていることが多い。このように、雑種が両親よりも生活力が旺盛になる現象を、雑種強勢,ヘテロシスと呼ぶ。この性質は雑種第1代にもっとも強くあらわれる。玉葱の場合の特長としては、耐病性がある,玉揃いがよい,熟期が揃う,商品化率が高い,貯蔵性がよいなどがあげられる。

 

早生のたまねぎ

 

  北海道内での早生系玉葱としてはバレットベア,SN-3,北はやて2号,SN-1,SN-3Aなどが栽培されている。

 

①バレットベア…タキイ種苗株式会社が、「札幌黄」×「淡路中甲高」の後代に「札幌黄」から選抜した系統を交配,育成、2010年に命名,発表された。根張りがよいため高温乾燥条件でも生育が安定して、肥大がよく収量性が高い。球形は豊円球で、外皮の密着がよく色のりもよい。辛

 味が少なく、サラダなどの生食に適しており、8月中下旬から収穫ができ、8月中~9月上旬まで出荷できる。2020年の栽培面積は501haとなっている。

 

②SN-3…株式会社七宝が発表、耐病性に優れて2020年の栽培面積は296haとなっている。同系統にSN-1…229ha,SN-3A…101haがある。

 

③北はやて2号…タキイ種苗株式会社が、「札幌黄」×淡路系の後代に「札幌黄」から選抜した系統を交配,育成、2002年に命名,発表された。耐病性に優れて栽培安定性の高い極早生種は道内産たまねぎの出荷拡大に重要な役割を期待されている。形は甲高の球に近いような形をしていて揃いがよい、ただし貯蔵性はあまりよくない。新たまねぎと同じように辛味が少なく、甘みやみずみずしさが味わえサラダや生食に適している。こうした食味の良さは「札幌黄」由来のものである。熟期は8月上旬から収穫して8月中~9月上旬頃まで出荷できる極早生種。2020年の 

 栽培面積は243haとなっている。

 

オホーツク222

 

 株式会社七宝が、{Bline=(空知黄×Early yellow globe)×(空知黄×淡路中甲高)} ×北見黄として育成、2004年に命名,発表された。果実はやや偏平で、収穫が遅れても変形球が発生しづらく栽培が容易である。早生種ではあるが高い貯蔵性があり、年内販売用品種として北海道では栽培面積の29.6%,3,935haを占めている。

 

北もみじ2000

 

 株式会社七宝が、「空知黄×Early yellow globe」の後代に、「札幌黄×北見黄」の後代を花粉親として交配,育成、2000年に命名,発表された。果実は円形でよく揃い、果皮は赤銅(しゃくどう)色で厚いことから、収穫や選果時のむけ玉の発生が少なく多収性を備え、さらに耐病性,耐抽台性に優れる。中生種ではあるが高い貯蔵性があり、年明け5月頃まで出荷ができることから、北海道では栽培面積の42.3%,5,629haを占めている。

 

 

 

 さらり・サラダ用たまねぎ

 

  北海道立北見農業試験場がオランダから導入の「AOPFA」に、「北見黄」から育成した「81S」を花粉親として交配して2000年に発表された。北海道のたまねぎは貯蔵性は高いが硬くて辛いといわれるが、そこで貯蔵性を維持しつつ、肉厚で辛味の少ない品種を開発したもの。スーパー北もみじと比べると、果皮は薄いがりん片が厚く球は軟らかい。辛さの指標となるピルビン酸は低く、食感と甘さに優れ食味はよい。ほかにも、サラダ用に2009年,「真白ましろ」という果皮の白い品種も発表された。

 

  札幌黄 さっぽろき

 

  明治11年(1878)にウィリアム・P・ブルックス教授がアメリカから持ち込んだイエロー・グローブ・ダンバースから自家採種を繰り返して選別したもので、当時の札幌村(現在の東区)は土地が肥沃で風が強く乾燥しやすいという、たまねぎ栽培に向いている環境だったこともあり、たまねぎの栽培が急速に増え、有数のたまねぎの産地になる。札幌さっぽろ黄きからは→空知黄→北見黄と言うそれぞれの土地にあった品種も生まれて、長く栽培が続いたが、病気の多発により昭和53~54年ころから新品種・F1(1代雑種)へ交代をした。「札幌黄」は、病気に弱く、遺伝子に多様性があるためトウ立ちが多く形が不揃いで、また日持ちもしないことなどから、生産量が減少したままであった。しかし、一般に流通しているたまねぎよりも肉厚で柔らかく、加熱後の甘みが強いため、特にビーフシチューやスープカレー、ポトフ、肉じゃがなどの煮込み料理に向いている。その特徴的な味と入手のしにくさが相まって「幻のたまねぎ」と言われ、2007年、国際スローフード協会(本部:イタリア)により「食の世界遺産」といわれる「味の箱舟」に登録された。現在の「札幌黄」栽培面積は、札幌市のたまねぎ全体(約300ha/2018年)の約3%になっている。

 

たまねぎと甘さ

 

 たまねぎは本来,糖度が高いが、辛味成分の方が強い為に辛さが先にきてしまう。辛味成分は熱を加えることで変化し辛味が無くなって、そこでもともとある甘さが引き立つ。加えて、豊富に含まれているフラクタンの分解でフラクトオリゴ糖が生成され、さらに甘味を感じる。フラクトオリゴ糖は、腸内で消化吸収されずにビフィズス菌の栄養となり、菌を増殖させ、便秘の予防や改善等、腸内環境を整える働きがある。ほかに、硫化アリルが熱で変わったプロピルメルカプタンが甘いとの説は否定された。

 

ケルセチン

 

 ケルセチンと呼ばれるポリフェノールは野菜や果物に最も広く存在するフラボノイドであり、タマネギの外皮に最も多く含まれる(日光から玉ねぎの細胞を保護する役割を持っている)ほか、ブロッコリー,サニーレタス,モロヘイヤ,パセリ,ソバ,柑橘類,リンゴなどにも多く含まれています。加熱に強く油と一緒に摂取すると吸収効率が高まるが、水には溶けるのでこの時はスープと一緒に飲むとよい。強い抗酸化力があり有害な活性酸素の除去に効果を発揮することから、生活習慣病の予防,動脈硬化の予防,アレルギー抑制,脂肪燃焼・脂肪吸収を抑制する,骨粗鬆症の予防,花粉症の予防,抗ガン作用などが明らかにされて、機能性食品として注目されている。このケルセチンの含有量が高い品種として、D(ドク)r(ター).ケルシー,さらさらゴールド,クエルゴールド,ケルたまが発表されている。

 

アリシンとたまねぎ

 

 たまねぎやニラなどに含まれる特有の刺激やにおいのもとになっているのがアリシン(硫化アリル)で、ビタミンB1の吸収を助ける,血液凝固を抑制するなどと言われてきたが、タマネギ、ネギの含有成分はイソアリイン,ニラはメチインで、組織が破壊されても、アリシンはほとんど生成しない。ネット上では誤った情報もあっという間に引用,コピーされて、それが正しいかのように広まってしまう。確認と注意をしたいものである。

 

イヌ,ネコとたまねぎ

 

 犬や猫にたまねぎ,ねぎ,にら,にんにくといったネギ類を与えると、血尿や下痢,おう吐をして元気がなくなる。これはネギ類特有の刺激成分のアリルプロピルジスルファイドが、犬や猫の血液中の赤血球の膜を破壊してしまうためと言われている。従ってネギ類の入ったエサ(ハンバーグなど)、ネギ類入りのス-プや汁も与えない方がよい。でも数十年前まではそれほどに騒がれてもいなかったのですが…

 

*追加…たまねぎとは関係ないが、シュガーレスガムに入っている甘味料のキシリトールで犬が死にかける事例が2010年以降になって発生している。人間は耐性があって安全だが、犬が食べると急激にインスリンが分泌されて低血糖症状を引き起こし、発作や脳障害につながる恐れがある。他にも、チョコレート,ブドウ,レーズン,アボカド,マカデミアナッッなどの危険性も指摘されている。

 

ビーフストロガノフ

 

 「玉ねぎは西洋の昆布だし」と言われるほど野菜の中ではグルタミン酸を多く含むことから、みそ汁に玉ねぎを入れると独特の旨みが出る。これを利用したのが代表的なロシア料理・ビーフストロガノフである。19世紀帝政ロシア時代のストロガノフ伯爵お抱えシェフが、じっくり炒めたあめ色玉ねぎと牛肉をサワークリームで煮込んだもの。玉ねぎは繊維に沿って縦の薄切りにし、ラップをかけレンジで5分加熱してフライパンで炒めれば、時間の短縮になる。さらに弱火で40分ほど焦げ付かせないように炒めると出来上がり、ちなみに「ビーフ」は牛肉ではなくロシア語で「~風」という意味。