126. ハクサイ  白菜 Chinese cabbage

 

   中国北部原産で、7世紀の揚州で華北のカブと華南の体菜群のツケナが自然交雑して生まれたアブラナ科の葉菜。西洋のキャベツに対して東洋を代表する野菜で、中国,韓国,日本などの東アジアで栽培される。わが国ヘは明治8年、中国から山東結球白菜が東京博物館に出品され、そのうち2株が愛知県植物栽培所に払い下げられた。その後、日清(明治27・8年),日露戦争(明治37・8年)の出征兵士が中国で味を知って種子を持ち帰ったが、思うようには栽培ができなかった。これは白菜がカブや小松菜,ナタネなどの親類で簡単に交配しまうからで、宮城県,仙台の伊達養種園が松島で他の葉菜との交雑を避けて採種に成功、これと前後して愛知県,石川県などに定着して、大正の終わりから昭和の初めにかけて現在の基本品種の育成をみた。その後、米食に合った漬物や鍋物の材料として栽培が急速に増加し、栽培面積が1968年には最高の50,800ha,収穫量は翌年が187万tとなっている。

以後は食生活の多様化の中で家庭での漬物需要がほとんどなくなるとともに,労働力不足,連作障害などによって減少して、2022年の栽培面積が16,000ha,収穫量は874,600tとなっている。構成比は、①茨城27.9%,②長野26.7%、そして群馬,埼玉,北海道,大分,鹿児島,兵庫,愛知,長崎,栃木…と続く。

   生育適温は15~20℃と涼しい気候を好み、暑さには弱く22~23℃を越えると病害が発生しやすい。結球には15~16℃が適し、昼夜の温度差が大きいほど葉球は充実する。生理障害として結球内部の葉のふちが褐色になる症状(俗にアンコという)がありこれは石灰(カルシウム)欠乏症で、乾燥やチッ素肥料の過剰施用そして酸性土壌で起こる。白菜は霜に当たると繊維が柔らかくなり、風味を増して甘味が加わる。栽培は60~70日と比較的短期間に多収ができて、輸送もきくので生産も多い。近年の緑黄色野菜のブームは白菜も同じで、球内の黄色味が強く品質のよい黄芯系(おうしんけい)に人気がある。種類は次の通り。

1,結球白菜

①愛知群…愛知県に順化したのが野崎群、温暖地向きの早生品種。

②芝罘・チーフー群…宮城県に順化したのが松島群、寒冷地向きの中生品種。

③加賀群…石川県でチーフーと包頭連の雑種として育成された、大型・良質の晩生品種。

④包頭連(ホウトウレン)群

 2,半結球白菜…山東菜,花心(かしん)白菜

   栄養分はキャベツと似ており、良性の植物蛋白質,ビタミンCが多い。食塩の排出を促すカリウムも多く、高血圧の予防に効果がある。そして食物繊維は100g中1,1gとほぼきゅうりと同じだが煮込むとカサが減ってたくさん摂取でき、便秘の解消,大腸ガンの予防にもなる。漬物やロール白菜,スープなどの煮物や鍋物に、芯の部分は、生のままサラダにも使われる。

 

選び方と保存   巻きがかたく手に持つとずっしりと重量感があり外側の葉が濃い緑色をしているもの、カットしたものは時間が経つと芯の部分がふくらんで緑色を帯びてくる。保存は丸ごと、冬なら新聞紙を重ねてきっちりと包んで風通しのよい涼しい所に立てておけば1カ月はもつ、カットしたものはラップに包んで冷蔵庫へ。そして、食べるときは内側から食べる。これは白菜は収穫された後も生長をつづけ、外側の葉から内側の中心部にある「生長点」に向けて、栄養を送り続けようとする。これを防ぐことで、外葉に栄養や旨味がとどまり最後まで新鮮に美味しく食べられる。

旬  10~2月。

囲いもの白菜

 

  簡易貯蔵白菜の俗称で、東京市場に出回る1~3月の白菜のほとんどはこれ。外葉をとって根を切り年内に収穫したものを、畑の隅などの風通しのよい日陰にわらなどをかぶせて、簡単な防寒を行なって貯蔵する。産地は茨城が最大で、2月には群馬,愛知からも出回る。

 

貯蔵白菜

 

  2~4℃の常温冷蔵庫で冷蔵する本貯蔵物。主産地は兵庫県の淡路島で、7~8月にたまねぎを貯蔵し順次出荷して、白菜を収穫する2月には空になる。このとき白菜を入庫して、春白菜の出回る4月までの間に出荷する。

 

結球  (葉重型と葉数型)

 

ハクサイの葉は20枚くらいの外葉と数十枚の結球葉で構成される。早生種では葉重型といって、数少ない大形の葉(40~50枚)が互いに深く包み込まれて結球するが、晩生種は葉数型といって数多く(60~80枚)の同じ程度の大きさの葉が重なりあって、1~3㎏の葉球を形成する。

  

サントウサイ 山東菜

 

 中国の北部の原産でアブラナ科、わが国ヘは日清戦争後広く栽培された。白菜の仲間であるが、結球しない半結球性で、葉先が丸葉とちりめん状の切れ葉の2種類がある。同じ仲間に花心(かしん)白菜があり、これは中心部が黄白色に軟白され、ちょうど花が咲いたようである。両者ともに、とくに漬物用として優秀で、甘味があって煮物,炒め物にもおいしい。昭和50年頃までは東京の市場にもたくさん出回っていたが、半結球のため長距離の出荷に向かず、産地の都市化で生産は激減した。

 

ナガサキハクサイ 長崎白菜

 

 中国が原産のアブラナ科,鎖国時代の唯一の貿易港として繁栄し、古くから海外文化の影響を受けていた長崎に寛政(1789~1800年)のころ渡来して、長崎市およびその周辺で栽培が続けられてきた。別名唐菜(とうとうな),唐人菜。ツケナの仲間で半結球性,葉の主脈は肉厚で広く白く、葉にはちりめん状のしわがある。早生・晩生があり、葉色は黄色がかった緑色でシワが入り、晩生ほど濃緑とシワが顕著になる。やわらかい葉と独特な風味で、正月の雑煮に使われ長崎の食生活に深くなじんだ白菜でもある。ほかに鍋料理や、歯切れのよい漬物とされる。

 

ハクラン 白藍

 

 わが国が原産のアブラナ科の葉菜で、昭和34年に農林省園芸試験場の西貞夫氏が胚培養法を利用して、ハクサイときゃべつ(カンラン)の雑種が育成された。白菜と甘藍(かんらん)の前後の字を取って、白藍(ハクラン)と名付けられる。葉は肉厚,多汁質で歯ごたえがよく、ハクサイのみずみずしさとキャベツの甘さを持っている。外側の葉は濃い緑色で栄養価も高い。欠点として裂球しやすく採種性が悪い。

新しい品種を作るには、よい性質のものだけを育てる方法や、突然変異,一代交配種などの従来の方法に加えて、近年バイオ・テクノロジーと呼ばれる、メリクロン(茎頂)培養,やく培養,胚培養,細胞融合,遺伝子組み替えが実用化され、耐病性,耐寒性を持たせる育種素材としての利用が期待されている。