2. アンズ 杏 アプリコット Apricot

 

   中国の東部が原産のバラ科の落葉高木で、紀元前2000~3000年から利用されていた。梅よりは寒い地方に適し、梅との違いは甘味があり種と果肉との肉離れがよいこと。欧米では梅よりアンズが利用され、日本では梅の方が利用されている。

 

   わが国の文献には、「本草和名」(918年)にカラモモと記載がある。冷涼な気候を好み長野県が主産地で、これには、およそ300年前の元禄年間(徳川時代)に伊予・宇和島藩主の伊達宗利公のお姫さまが、松代藩主・幸道に嫁入りをしたときにアンズの種をもってきたのが始まりと言われ、気候,風土のあった長野県での栽培が盛んになった理由である。2021年の栽培面積は184.5a,収穫量は1,849t、収穫量構成比は、①青森67.6%,②長野32.2%、そして広島と続くがそのほとんどが加工用途である。

 

   日本の杏(あんず)は酸味が強く果実の大半は加工用で、シロップ漬け,ジャム,干しアンズ,製菓原料となり、青果用も多くは果実酒などの加工消費となる。近年になって甘味の強いヨーロッパ系品種との交配も盛んとなり、味のよい生食向けも開発されてきた。果実にはカロテンやクエン酸、リンゴ酸,カリウムなどが多く含まれ、疲労回復や食欲増進などに効果がある。種の中の核(杏仁・きょうにん)には約3%のアミグダリンが含まれ、鎮咳(ちんがい),去痰(きょたん)の効果があり漢方薬として使われている。 あんずジャムを作るには、洗って種をとり細かく切る。あんず1パック(700g)に対して200gの砂糖をまぶして一晩おく。さらに200gの砂糖を加えて焦げないように、煮つめれば出来上がり。

 

   原産地によって次の系統に分かれる。 1),本杏(ほんあんず)…中国から各地に伝わりいろいろな系統ができ、現在の栽培種の基本形となっている。 ①中国北部系…栽培地は中国北部,朝鮮半島。 ②中国東部系…中国東部,日本,朝鮮半島。 ③中央アジア系…中央アジア,アフガニスタン,パキスタン,北インド。 ④イラン・コーカサス系…イラン,コーカサス(アルメニア,イラン,トルコ,アゼルバイジャン,シリア),北アフリカ。 ⑤ヨーロッパ系…ヨーロッパ,アメリカ,南アフリカ,オーストラリア。 甘味が多く生食,加工に適するが、わが国の気候には適さない。 ⑥ズンガル・ザイリ系…ズンガル,ザイリ,カザフ地方。 2),蒙古杏(もうこあんず)…中国北部,モンゴルが原産。 3),満州杏(まんしゅうあんず)…中国東部,朝鮮中部以北が原産。

 

選び方と保存   橙黄色できれいなもの、保存は冷蔵庫へ。

旬   6~7月。

(1) 平和

 

 長野県千曲市の南沢小重郎氏のアンズ園で、大正4~5年ころ、偶発実生として発見された。栽培面積はいちばん多いが、裂果しやすく病害に弱いことから今後の増植は期待されない。果実は40g前後,果皮,果肉とも橙黄色で美しく、緻密で繊維が少なく肉質はよい。糖度は9~10度,酸味は強いが加工特性がよく、シロップ漬け,ジャムに向く。熟期は6月下~7月上旬。

 

(2) 山形3号

 

 山形県東田川郡山添村で発見された。果実は40g,果皮は赤橙黄色で美しく、青果用として好評である。果肉は緻密で酸味は強い,花粉が多く受粉樹に適している。熟期は7月上旬。

 

(3) 信州大実(おおみ)

 

 長野県果樹試験場が新潟大実にアーリオレンジを交配した中から選抜され、昭和51年に命名された。果実は80gと円形で大きく果皮は橙黄色で陽光面が紅色に着色する、酸味は少ない。ジャムや2つに割ってシロップ漬けに適する。熟期は7月上旬。

 

(4) その他

 

①ニコニコット…農研機構果樹試験場が1990年、ライバルにアンズ筑波5号(New CastleEarly×甲州大実)を交配して実生から選抜、豊産性で収量が多く、さらに食味が優れるため生産者も消費者も笑顔になるアンズ(アプリコット)であることから「ニコニコット」と命名した。果実は90gと大きく果皮は橙色で外観がよく、酸味が少なく糖度が高いので生食に向いている。熟期は6月下旬。

 

②おひさまコット…農研機構果樹試験場が1990年、アンズ筑波5号(New Castle Early×甲州大実)にハーコットを交配して、2013年に品種登録された。果実は大きく100~120g,肉質が緻密で果汁が多い、甘みが強いことから生食向き。熟期は6月下旬。

 

③昭和…長野県千曲市の西村杖造氏が昭和15年頃に自分の果樹園で発見した品種。果実は70g前後の楕円形,果皮は淡橙黄で肉質はよくシロップ漬け、ジャムに適する。熟期は6月下旬。

 

④信山丸(しんざんまる)…長野県果樹試験場が山形3号の実生を選抜、昭和51年に命名される。果実は30g前後と小さいが肉質は繊維が少なく、緻密で品質がよい。特に丸のままのシロップ漬けに適する。熟期は7月上旬。

 

⑤ハーコット…アメリカのニュージャージー州の州立大学で(ジャネバ×ナラマータ)×モルデン604とNAJI(フェルプス×パーフェクション)を交雑した実生で1977年に公表、我が国へは1979年に導入された。果実は80~100gと大きく果皮は陽光面が紅色に着色する、糖度が14~15度と高く甘いことから生食向き。熟期は7月上旬。

 

⑥八助(はちすけ)…青森県で古くから栽培されている在来種。果実は80~90gと大きく、緻密でサクッとした食感から地元では古くから梅干し(しそ巻き)に選ばれてきた。これが八助梅と呼ばれる理由でもある。熟期は7月。

  

レーザーガスセンシング

 

   産地偽装を防ぐ手段として、農作物に含まれる成分をガス化して、そこにレーザー光を照射してガスの種類や濃度を分析することで産地が判別することが可能になった。研究開発は日本電信電話株式会社デバイスイノベーションセンターのグループである。これは水の水素や水素の安定同位体比が地域によって異なり、当然そこの農作物にも影響をしている事を利用するもの。低緯度地域では重い水の比率が高く、高緯度地域では軽い水の比率が高くなる。