3. イチゴ 苺 Straw berry

 

 ばら科の多年草で、厳密には果菜類,トマトやナスの仲間である。ストローは、ストレー(広がる)の転化したことばで、つるを伸ばして繁殖することからきており、ベリーは実という意味。世界各地に野生種があり、古くは石器時代のスイスの住居遺跡からイチゴの種が発見されている。現在栽培されているイチゴは、北米のバージニア苺(1534年に発見されフランスへ導入された、果実は小さいが赤色で強い香りがある)と、南米のチリイチゴ(1714年フランスへ導入された、果実が大きい)が1750年頃オランダで交雑されてできた。これは、パイナップルに形や味が似ていたところから、アナナス(パイナップルのペルー語)と名付けられた。その後多くの品種が作られて急速に普及するとともに、米国に伝わって更に新しい品種が生まれ、今日につながっている。

 

 わが国では平安時代に清少納言が「枕草子」に記載をしており、その後江戸時代末期の1840年ごろにオランダ人が開港地の長崎にもたらしたので、オランダイチゴの名がある。明治初年以降何回か導入されたが、栽培化されたのは明治32年以後の「福羽・ふくは゛」からで、市場向けに栽培されるようになったのは戦後である。ビタミンCが100g中62mgと豊富で、成人の必要量65mgを満たす。盛夏を除けばほとんど周年栽培され、生食やケーキ材料,ジャム,シロップなどの加工用としての用途も広い。

 

 1999年には東京都中央卸売市場取扱金額が果物の中でミカンを抜いてしばらくトップになっていたが、2011年はミカン,2013年からはまたイチゴと入れ替わった。2022年の栽培面積は4,850ha,収穫量は161,100t、収穫量構成比は、①栃木15.1%,②福岡10.4%,③熊本7.3%,④愛知6.6%,⑤静岡6.5%,⑥長崎6.4%,⑦茨城5.8%、そして千葉,佐賀,宮城,香川,埼玉,群馬,宮崎,岐阜,福島…と続く。2023年の東京都中央卸売市場の構成比は、①栃乙女35.8%,②あまおう12.0,③紅ほっぺ8.0%,④いちごさん5.0%、その他39.3%となっている。

          

 近年は消費者ニーズの多様化などにより、品種が増えている。これには高級化、大玉化で贈答用などとして人気を集めている「あまおう」の影響もある。そうした中で、2014年から栃木県が「スカイベリー」,静岡県が「きらぴ香か」の出荷を開始、そして2018年、佐賀県が「いちごさん」,熊本県が「ゆうべに」,宮城県が「にこにこベリー」の出荷を開始、さらに農研機構が「恋みのり」を2018年に品種登録をした。そして、栃木県は2020年から「とちあいか」の本格出荷を開始した。一方、国内生産の少ない6~11月には、アメリカを中心に生鮮物で3,194t(2023年)の果実が輸入されケーキなど業務用を中心に出回る。ほかに冷凍物で28,265tの果実が輸入されている。

          

  イチゴは露地栽培では秋になって休眠し、冬の低温短日(5~17℃,日長12時間以内)に合って始めて花芽ができ、春の高温長日で開花し初夏に結実,実が成って収穫される。このため露地栽培以外のときは、次のような方法をとって春がきたと錯覚させて(花芽分化)、花を付けさせる。 ①夜冷(やれい)育苗…ハウス内で低温短日管理(夜間の温度を冷房によって下げ、シルバー,黒色ポリなどで覆(おお)って暗くし、日長を8~10時間とする)をする。作業が比較的に楽なため、増えている。 ②山上げ育苗…高冷地育苗ともいい、高冷地は温度が低いことを利用して苗を育てる。 ③株冷蔵…10℃前後の冷蔵庫に10~15日前後入れる。 ④遮光(しゃこう)育苗…黒寒冷(かんれい)しゃなどを1,5m位の高さに張って光をさえぎり、日中の温度を下げる方法で、これにより3~6℃は低下する。

 

選び方と保存  果色が鮮明でつやがあってヘタが緑色のもの、パック詰めは底部の傷みに注意が必要。保存は冷蔵庫へ。

旬  1~4月。

 

品種の変遷

 

 我が国で本格的な栽培が始まったのは、明治末期の「福羽」からで、とくに昭和初期の静岡県久能山の石垣栽培は有名。昭和30年代にはビニール栽培が確立して生産量が増えた。終戦後の1950年(昭和25年)にアメリカから「ダナー」が導入されて1960~1980年はこれが主力、これに1975年頃から宝交早生,春の香が加わり「西の宝交・東のダナー」と言われた。1980年頃より麗紅が加わり、1985年頃よりは女峰,とよのかが主力となる。この「東の女峰・西のとよのか」の二強時代も永年続くが、1997年には女峰から栃乙女にバトンタッチをして「とちおとめ・とよのか」+章姫。2005年からはあまおうが加わり「とちおとめ・あまおう」+さがほのか,紅ほっぺの時代となる。ここに来て各県が独自品種を発表して、ゆめのか・長崎,幸の香・長崎,スカイベリー・栃木,もういっこ・宮城,きらぴ香・静岡,ゆうべに・熊本,にこにこベリー・宮城,よつぼし・各地,とちあいか・栃木,恋みのり・各地 と店頭には様々な品種が並んでいる。

 

*このグラフは東京都中央卸売市場のものです。関東近県の品種が多くなる傾向はあると思います。その点はご留意ください。

*このグラフで、あなたが小さいときに、どんな品種のいちごを食べたかがわかることでしょう ! ! !

 

 

痩果(そうか)とランナー

 

 いつも食べている赤い果肉は花の付け根の花托が膨(ふく)らんだもので、本来の果実は表面にあるつぶつぶ、種はその中にある。こうした果実のことを痩果(そうか)と呼ぶ。繁殖には親株のつけ根から伸びるつる(ランナー)を育てて増やす、ランナーの先には子苗ができる。1株の親に数十本のランナー、そして子苗が2~3個とできるので合計すると、30~40株位の子苗ができることになる。

 

 近年、オランダで育成された種子繁殖型F1品種としてエラン,カラン,W78(シンジェンタシード株式会社)が品種登録され、栽培されている。これは、繁殖に種子を使用することから苗の生産や育苗期間の短縮がはかれる。わが国でも2017年によつぼしが品種登録された。

 

四季成りイチゴ

 

 わが国のイチゴは大部分が一季成り性品種(促成栽培)が占めてその生産は11~翌年6月に集中し、7~10月の端境期(はざかいき・収穫物のなくなる時期)は、アメリカを中心に3,318t(2020年財務省国税局の貿易統計より)が輸入されてケーキなど業務用を中心に出回る。国産の7~10月の四季成(しきな)りイチゴは、北海道,東北,関東以南の高冷地で約1,500t弱と見られている。1980年代前半までの品種は果実が柔らかく,小さく,甘みが少ないと品質が劣っていたが、その後、四季成りイチゴの先駆けとなった1987年のみよし、翌年のサマーベリーを筆頭に新品種が続いている。ペチカ,エラン,HS-138,サマールビー,きみのひとみ,なつあかり,デコルージュ,サマーキャンディ,夏実,すずあかねなどがあるが、まだ市場のニーズを満足させるまでには至っていない。

 

*冬から春に実をつける一季成りイチゴに対し、夏から秋にも実の成る品種は四季成りイチゴ・夏イチゴと呼ばれる。

 

販売形態の変更

 

 果物の年間販売金額の第1位であり、冬場の売り場の主役でもあるが、栽培面積,生産量ともに減少が続いている。ここにきて出荷形態の見直しがなされ、各産地とも300gのパックから、2011年に佐賀県産・さがほのかが270gに、2013年には栃木県産・とちおとめ,静岡県産・紅ほっぺが280g 、2016年には福岡県産・あまおうも280gとなった。生産者の収入が増えると共に、売り場としても大きな変化はなく、生産量の減少に歯止めがかかってほしいものである。

 

いちごスプーン

 

 1950年(昭和25年)にアメリカから「ダナー」が導入されて1960~1980年はこれが主力、このいちごは酸味が強いことから、スプーンで潰して砂糖や練乳をかけて甘くして食べることが多かった。しかし、皿の部分が丸い通常のスプーンでいちごをつぶそうとすると、つるんと逃げてしまう。そこで、金属洋食器などの製造を手掛ける小林工業(新潟県燕市)は、「1960年に日本で初めていちごスプーンを開発した」。最初の試作品はスプーンの皿の部分が平らなものだったが、これでは滑ってしまうので、いちごの種をヒントに微妙に突起の位置をずらして並べたものを制作した。こうしていちごスプーンは大ヒットし、最盛期には燕市全体で年間30万本生産されていたと言われる。最近のいちごは大粒になって、甘さが増したこともあって何もつけないで、そのまま食べる方が多くなった。現在、同社が生産するいちごスプーンは年間600本程度にとどまる。そして用途は介護食や離乳食を食べるときに利用されるようになっているという。食品をしっかり固定し、つぶしやすいことに加えて、スプーンなので、そのまま食べさせられるので便利に使うことができます。

 

いちごの日と…

 

 ①いちごの日は1月15日で、「いいいちご」のゴロ合わせから決められました。②ケーキの日は毎年1月6日です。1879年(明治12年)のこの日、上野の風月堂が日本初のケーキの宣伝をした。③ロールケーキの日は毎年6月6日、これはロールケーキの切り口が「6」に見えることと、ロールケーキの「ロ」=「6」の語呂合わせから。④ショートケーキの日は毎月22日で。月間カレンダーを見ると22日の上に15(いちご)日があるので「上にイチゴが乗っている」という事で22日に決まった。

 

ショートケーキといちご

 

 ショートケーキといえば、しっかりと焼き上げたスポンジにたっぷりの生クリームとイチゴをサンドして上にトッピングのイチゴをのせるのが定番。こうした形になるのは、16世紀にポルトガルからカステラが伝わった下地があり、大正時代末期に生クリーム製造器が輸入されてからである。この頃に横浜や東京,銀座で洋菓子を販売していた不二家やコロンバンが始めたといわれる。ただ誰もが食べられるようになるのは経済復興と冷蔵ショーケースの普及した昭和30年(1955年)以降のことである。ちなみに、「ショート」とは口当たりが軽い,ぽろぽろするという意味。

 

フルーツグラノーラ

 

アメリカの一般家庭に主食の一つとして定着しているのがシリアル/穀物・穀類そのものや、穀物・穀類を加工した食品の総称です。大きく分けて、①オートミール…麦の一種である燕麦(えんばく)を精白し、いって、ひき割りにしたもの、②ミューズリー…オートミールなどの未調理の加工穀物と、ドライフルーツ、ナッツ、種子類などを混ぜ合わせたもの、③コーンフレーク…とうもろこしの加工食品さらにビタミンや食物繊維などの栄養素を加えたものなど。食べるときは、牛乳や豆乳をかけてふやかして食べたり、ヨーグルトに入れて食べたりと様々です。1890年代からアメリカで商品化され、日本でも1980年代にご飯、パンに続く朝食のひとつとして普及した。

 近年売り上げが伸びているのがフルーツグラノーラで、カルビーからは「フルグラ」,日清食品からは「ごろグラ」の登録商標で出回っている。これらのホームページを見ると、次のような産地表示となっています。乾燥いちご/中国,乾燥りんご/中国,乾燥パイン/タイ,乾燥マンゴー/インド,乾燥パパイヤ/タイ,ブルーベリー/ポーランド,カボチャの種/中国,レーズン/アメリカと外国産のオンパレードとなっている。

*シリアルの語源はラテン語で、豊作の女神セレスの意味があります。

 

IPMと天敵農薬

 

 Integrated Pest Management(総合的管理技術)…人や環境へのリスクを最小限に抑えつつ農作物の害虫の発生を抑制する総合的な組み合わせ。自然界の仕組みをうまく活かすことで健全な農作物を育て、化学農薬の依存から抜け出して作る人には省力と減農薬でも品質・収量を安定させる、食べる人には安心・安全を届けるための取り組みである。

①耕種的防除法…病害抵抗性品種の導入、輪作・間作・混作・作期変更による被害回避。 

②物理的防除法…熱水消毒,誘殺粘着,反射マルチ,防虫ネットの被覆,べたがけ資材。 

③生物的防除法…天敵昆虫薬剤,微生物薬剤,性フェロモン剤。 

その他、天然由来薬剤の活用,非散布型薬剤,選択性化学農薬などがあげられる。

 

 ここでイチゴの天敵農薬実施例を見ると、イチゴに大敵のハダニにはこれを食べるミヤコカブリダニをまく、それでもダメなら、もっと食欲旺盛で増殖が早いチリカブリダニを投入する。天敵は、エサとなるハダニがいないと生きていけない。ある程度の株はハダニの被害が出るが、そこで農薬を使わず我慢すると、天敵が自分で繁殖し、被害が広がらずに長い間ハダニを抑えてくれる。同じく害虫のアブラムシには、卵に寄生するコレマンアブラバチを使う。このとき、コムギやオオムギ(バンカープラントという)をイチゴハウスの隅に植えて、ここでイチゴを加害しないムギクビレアブラムシを育て、コレマンアブラバチを増殖,維持する。そしてイチゴにアブラムシが発生するとすぐにここから天敵のコレマンアブラバチが移動して捕食、被害を抑制する。

 

(1) 栃乙女(とちおとめ)

 

 栃木県農業試験場栃木分場が1990年に、大果で多収の久留米49号に大果で食味の優れた栃の峰を交配して育成され、1996年に品種登録をされた。大果で食味がよく、収量も女峰に比べて10%以上高いことから栃木県での主力品種として、全国的にもいちごの中でのトップシェアとなっている。

 

 果実は円すい形で、鮮紅色で女峰に似て光沢があり、果皮,果肉とも硬く日持ちがよい。平均果重が15gと女峰より大きく豊の香なみ、果肉は糖度が高く酸味が低いので食味はきわめてよい。

(2) あまおう

 

 福岡県農業総合試験場が久留米53号(豊の香×てるのか)に92-46(久留米49号×さちのか)を交配して育成、2001年に品種登録出願をして翌年に名称を一般公募して、あまおう(甘王)と名付けられた。あかい,まるい,おおきい,うまいの頭文字をとったもの。果皮は濃赤と着色がよく果実が大きいため作業の省力化が図れ、糖度,酸度とも高く食味がよい。

 

(3) 紅(べに)ほっぺ

 

 静岡県農業試験場が章姫と幸の香の交配から選抜したもので、2002年に登録された。名前はほっぺが落ちるほど美味しく、果皮が鮮紅色でしっかりと色付き果芯部まで赤いことから付けられた。大粒のうえに高糖度で香りがよく多収である。静岡が主産地で、つぎに愛媛,熊本,愛知,埼玉と続く。

 

 

(4) いちごさん

 

  佐賀県農業試験研究センターで、他品種との競合や生産者の高齢化などによって縮小傾向にある県内のいちご生産を盛り上げるべく、さがほのかの後継品種として7年の開発期間をかけ約1万5000株の中から選ばれた。佐系14号×やよいひめを交配育成して2018年品種登録、凛りんとうつくしい色と形,華やかでやさしい甘さ,果汁のみずみずしさが大きな特徴で、眺めてうっとり,かじって甘いとして売り出し中です。

(5) とちあいか 

 

  栃木県農業試験場いちご研究所が2012年に交配開始、約7年かけて開発し、2018年に栃木i37号として農林水産省から出願公表となり、2020年7月に名称が「とちあいか」に決まった。2019-2020年の市場出荷を開始、酸味が少なく甘みが強く感じられ、とちおとめと比べ単収が3割ほど多い。大きさはとちおとめより一回り大きく病気にも強い。果肉がしっかりしていて長距離輸送に耐えられるため、遠方の関西方面への出荷や輸出などにも期待できる。収穫の開始が10月下旬で早い時期から出荷できる点も特徴という。

 

(6) ゆめのか

 

  愛知県農業総合試験場で1999年より、玉揃いがよく連続出らい性の高い久留米55号に、果皮が硬い系531(女峰×ピーストロ)×アイストロを交配育成して、2007年に品種登録された。名前は、「みんなの夢が叶うおいしいイチゴ」という意味が込められている。果皮は鮮やかな赤で果肉,果心ともに淡い赤色をしてサイズは20g前後の円錐形、甘酸のバランスがよく果汁も豊富。果皮がほどよく硬いため傷みにくく、完熟に近い状態で収穫できる。比較的温暖な土地での栽培に適しているため、現在は長崎県で本格的に導入をすすめている。 

  

(7) きらぴ香

 

 静岡県が約17年の歳月をかけて、章姫,紅ほっぺを交配親に28万株の中から選抜したもので、名前の由来ともなる美しいキラキラとした輝きとあまおうほど大玉ではないが、とがった形状が特徴。「紅ほっぺ」に比べて糖度が高く酸度が下がったことで、より甘みが感じられる。2014年11月から首都圏と県内で販売を始めた。

 

(8) にこにこベリー

 

 宮城県農業・園芸総合研究所が宮城県オリジナル品種のもういっこと栃木県で育成されたとちおとめを掛け合わせた新品種。2005年に交配して得られた実生苗から選抜を繰り返し、2017年3月に品種登録出願した。にこにこベリーという名前は、「震災を乗り越え、作る人、売る人、そして食べた人、全てがそのおいしさににこにこ笑顔になれる、みんなに笑顔を届けたい」いう思いから、育成者で同研究所園芸栽培部研究員の高山詩織さんが付けた。鮮やかな赤い果実は円すい形で果皮に光沢があり、カットしても美しい赤い果肉と、甘味と酸味のバランスがとれた食味が特徴。とちおとめ同様に年内早出し栽培に適し、全体の収量も多い、日持ちがよく輸送性にも優れる。2020年度は13ha,将来的には50haでの生産を目指す。

 

(9) スカイベリー

 

  栃木県農業試験場いちご研究所がとちおとめの後継品種として、①大粒で見栄えがすること。②生産者に作ってもらえる収量性の高い品種。③病気に強いこと…を目標に2006年から行った交配組合せは約900、選抜した実生は十万株に及んだ。そして2014年に品種登録され、「大きさ,美しさ,おいしさ」の全てが大空に届くような素晴らしいいちごという意味と、本県にある百名山の一つ皇す海山かいさんにもちなんで、名付けられた。育成系統は、00-24-1{98-28-2(栃の峰,とよのか,さちのか…)×とねほっぺ(女峰…)}×栃木20号{97-3-4(栃の峰,久留米54号…)×94-2-8(栃の峰,さちのか)}。果実は極めて大きく25g以上の割合が約2/3を占め、甘味と酸味のバランスがよく,なめらかでジューシーな食感と独特の芳香が特徴。果形はきれいな円すい形で揃いがよく、果色は明るく色鮮やかで光沢がある。2014年11月から販売を始めた。

 

(10) もういっこ

 

 宮城県農業・園芸総合研究場が1995年に(女峰×しずたから)×女峰に良食味品種のさちのかを交配,選抜した品種で、2005年に品種登録された。果実は卵円形で大きく円錐形をして、糖度と酸度のバランスがよく病気に強い性質があるので減農薬栽培が可能。果実は硬くて日持ちがよい。

 

(11) その他  これまでの品種

 

①福羽ふくば…明治31年に福羽逸人氏が、フランスから導入されたジェネラルシャンジー種の実生中より育成したもの。大正,昭和年代を通じて促成栽培の代表品種として栽培され、とくに昭和初期の静岡県久能山の石垣栽培は有名、その後は育種親として多くの優秀な品種を残した。紅赤の鮮やかな色で、果肉は締まって香りが高い。

 

②幸玉…昭和15年に玉利幸次氏が、フェアファックスの実生中から育成した品種で、砂糖イチゴ,八雲の別名もある。果形はよく整って鮮紅色,粒の揃いはよいが果肉の締まりがよくない。

 

 

③ダナー…アメリカのカリフォルニア大学で1945年、トーマス,ゴールドスミス両氏により野生種の中から選抜,育成された。わが国へは、1950年にタキイ種苗より発売された。果形は短紡錘形で暗紅色,果肉の締まりもよく日持ちがよいのが特長だが、多少酸味がある。

 

④宝交(ほうこう)…兵庫県農業試験場宝塚分場が昭和32年に、幸玉(フェアファックスの実生)とタホーの交配により    育成されたもので、宝塚交配の両者の頭をとって名付けた。草勢は旺盛で子苗の発生が多く育苗は容易で、果形はよく整った円すい形,果実は中果で鮮紅色,甘味が強く多収であるが、果肉が柔らかいため日持ちが劣る。

 

⑤春の香…久留米支場で昭和36年に、久留米103号(宮崎×ザサン×福羽)とダナーの交配から選抜,育成したもの。果実は鮮紅色で、肉質が硬く酸味は少ない。

 

⑥麗紅(れいこう)…千葉県農業試験場が福羽と春の香を交配した中より選抜、昭和51年に命名された。果実は大果で鮮紅色、とくに光沢がきれいで独特の芳香がある。

 

⑦女峰(にょほう)…栃木県農業試験場佐野分場が昭和45年から品種改良を開始、ダナー×春の香に再度ダナーをかけ合わせ、さらに麗紅をかけたもの。種苗登録は昭和60年で、日光連山の名にちなんで名前をつけた。果実は円すい形で光沢があり、肉質は締まって日持ち=輸送性がよい。果肉は甘味,酸味とも多く作りやすい、ただ、大きさがやや不足なことと耐病性に欠ける欠点がある。

 

⑧豊の香…農林水産省野菜試験場久留米支場において、昭和48年より春の香の食味を改善する目的で、宝交に久留米34号(ダナー×八千代)をかけ合わせたひみこに、さらに春の香をかけたもの,昭和59年に登録された。果実はやや丸味のある紡錘形で、独特の芳香があり甘味は強く酸味が少なく食味がよい。果肉は締まって日持ちもよいが、変形果がでやすく低温での着色が不安定である。

 

(12) その他    新しい品種

 

①アイベリー…愛三種苗が麗紅と宝交の交配から選抜したもので、昭和58年に命名された。特大果で甘く食味がよいが、株疲れにより小果になり味が落ちる。

 

②すずあかね…ホクサン(株)がHS138とHKW02を交配して、2010年に登録された四季成り/夏秋用いちご。長日や高温といった環境においても安定した花房が実ること、芽かきをする必要が無いことから省力化が図れる。酸味があるので、生クリームやスポンジケーキとの相性がよく、ケーキ用として輸入物を押しのけて北海道,東北,長野,岐阜と全国各地で栽培されている。      

 

③アスカルビー…奈良県農業試験場がアスカウェイブに女峰を交配して、1992年に育成された。果皮は鮮紅色で強く光沢があり、糖度は豊の香より高く収量のよいことから高い評価を受けて

いる。

 

④けんたろう…北海道立道南農業試験場が豊の香にきたえくぼを交配して2000年に開発された。宝交早生より着色、日持ちがよく味もよいが、着果数が少ないので収量確保が課題となっている。元気なイメージで北海道農業を勇気付けたいと、男の子の名前が付けられた。

 

⑤さがほのか…佐賀県農業試験研究センターで草勢が旺盛で大果の大錦に食味,香気に優れ多収性の豊の香を交配して、1998年に命名,登録された。果肉は硬く果形が揃って糖度は豊の香と同じかそれ以上、酸は少ない。県外での使用が2003年より解禁されたが、栽培面積は佐賀が中心。

 

⑥初恋の香り…1980年代後半に民間の育種家が偶然白いイチゴを見つけ、山梨県北杜市の三好アグリテックが品質が安定するまで交配を繰り返し、2007年に品種の登録申請,翌年から販売を始めた。ほおがピンク色に染まるイメージと、甘い香りを強く放つことから名付けたという。果形は円錐で丸みがあり、果皮はほんのりとピンクがかった白色で、中の果肉は真っ白,酸味が少なく、しっかりとした甘み,香りがとてもよい。実が赤くならないため、熟したかどうか収穫の見極めが難しい。赤いイチゴと組み合わせた紅白パックは、お祝い用の贈答品としても使える。同様の白い苺として、淡雪あわゆき,パールホワイト,雪うさぎ,天使の実などが出回っている。

 

⑦幸の香…農林水産省野菜試験場久留米支場が豊の香にアイベリーを交配して育成、1996年に登録された。果実は長円すい形で光沢があり、果皮はとくに紅が濃く色がよく回る。平均糖度が10度、酸度が0,59で食味は濃厚、果肉は硬く果形もよく揃って日持ちがよく輸送性に優れている。豊の香に比べて育苗,収穫,選果の全てで省力化が可能。長崎が主産地で、徳島,和歌山,香川,熊本などで産地化が進められている。

 

⑧章姫(あきひめ)…静岡市久能の民間育種家である萩原章弘氏が昭和60年に、久能早生に女峰を交配して選抜、1992年に登録された。果実は長円すい形で光沢に優れ、果皮は鮮紅色で果肉は淡紅色、糖度10度以上,酸度は0.5~0.6で食味はよい。乱形果の発生がきわめて少なく果肉は女峰より柔らかいが、多収である。三重,愛知,静岡での栽培が多いが、減少傾向。

 

⑨ゆうべに…熊本県農業研究センターが、2005年から着色に優れた食味の良いひのしずくの血を引く07-13-1に極早生で収穫量が多いかおり野を交配して熊本VS03が選抜され、2017年2月に品種登録された。熊本の熊ゆうとイチゴの紅べに色をあわせて「ゆうべに」と名付けた。特長は甘味と酸味のバランスのよさにあり、酸味はやや控えめなのでその分甘さが引き立つ。見栄えのよい大玉でキレイな円錐形が特徴、鮮やかな紅色で他のイチゴと並んでいるとすぐに分かる。イチゴは生産者の高齢化や後継者不足の中、労働時間が長いわりに収益が不安定なことから生産者や作付面積が減少傾向にあります。そこで高単価で取引される年内の収穫量が多いことから、所得向上が期待されている。収穫は11月中旬から始められ、最盛期は12月から3月まで。

 

⑩よつぼし…従来のイチゴはランナー(子苗)で増殖するのに対し、これは種子繁殖型/種子から育てるので、増殖効率が非常に高く、親株からの病害虫感染がほとんどないため、優良苗を早期に大量に作ることができる。三重県、香川県、千葉県と九州沖縄農業研究センターが育種素材を持ち寄り、共同で選抜した。両親の組合せは、三重県育成の三重母本1号(かおり野)に、香川県育成のA8S4-147(さちのか×とちおとめ×香川独自系統)を交配したF1品種。2014年1月10日に品種登録出願され、2017年2月8日に品種登録された。名前は甘味,酸味,風味,美味が揃って「よつぼし」級と、4機関が共同で開発した期待の品種という意味も含まれている。果実は光沢がある円錐形で鮮紅色がきれい、糖度,酸度ともに高く、濃厚で食味も優れる。2016年から全国各地で種苗の販売が開始され、売り場に顔を出している。

 

⑪恋みのり…農研機構/九州沖縄農業研究センターが2008年に03042-08(久留米48号・さつまおとめ・さがほのかの多元交配)に、熊研い548(商標名/ひのしずく)を交雑した実生集団から選抜して久留米65号/恋みのりとして、2018年品種登録した。名前は、収穫みのりが多いこととイチゴを通して託された想いが叶うようにとの願いを込めている。果実は約18gと大果で短円錐から円錐形、果皮色は淡赤から赤色で光沢がある。糖度,酸度ともにさがほのかよりもやや高く、香りが強く、食味は良好で、果実の揃いに優れ秀品率が高いことから、収穫・調製作業の大幅な省力化が可能で栽培しやすい。また、果実が硬く傷みにくく日持ちがするため、輸送に日数がかかる輸出にも向くので、九州を中心に生産が急拡大している。

 

⑫15-2-8…愛知県農業総合試験場と愛知県経済農業協同組合連合会は、章姫とかおり野を交配して、果実が大きくて需要が高い11月~2月の収量が多い良食味のイチゴ新品種を開発し、2021年1月に品種登録出願を行った。愛知県でのイチゴの新品種開発はゆめのか以来14年ぶり。愛知県は県内全域にイチゴ産地を有する全国6位のイチゴ主産県で、主要品種は章姫,紅ほっぺ,ゆめのか。果皮色は濃赤色で光沢があり、果肉から果芯まで色が赤い。果実の重さが21gと大粒で、甘みが強いのが特徴。今後、2023年までは無病苗の増殖,2024年から無病苗の供給,2024年冬から今後決定するブランド名で本格的な出荷を目指す。