11. スイカ 西瓜 Water melon

 

 長い間アフリカ南部のカラハリ砂漠が原産とされていたが、2015年ドイツミューヘン大学の研究チームがスイカのDNAを解析した結果、西アフリカの野生種が南アフリカで栽培化されたと判明した、ウリ科に属する野菜。今から約4000年以前に古代エジプト人が栽培していたことが、今日残っている絵画や壁画によって明らかである。10世紀ごろシルクロードを経て中国に伝わり、西域から伝わった瓜というので、西瓜=シーグァと名付けられた。また、水分が多いので水瓜が正しいともいう。リビングストンが1857年にアフリカ探検中に野生種を発見している。

 

 わが国へは、南北朝時代の「空華集(くうげしゅう)」(1359年)に記載があり、中国から伝えられた。文政年間には無縞赤肉の普通種のほかに、黄皮黄肉,黄皮赤肉,白皮白肉,長すいかなどが記録に残っている。その後、明治初期にアメリカより再導入されたが定着せず、明治35年に輸入されたアイスクリームという品種が在来種の権次と交配され、大和西瓜,旭都西瓜などが生まれ全国に広まった。近年の品種として祭りばやし777(スリーセブン),春のだんらん,縞無双(しまむそう)など、縞模様が鮮明で果肉が硬め,中心部が崩れ落ちにくいカット販売に向く品種が増えている。ほかに中身が黄色のクリーム西瓜、黒皮赤肉のタヒチなどいろいろある。

 

 栽培には夜間15℃,昼間25~30℃に保てば、播種から収穫までハウスで4~5カ月,露地で3~4カ月である。高温,多日照,乾燥を好み、この条件がずれると変形や糖度不足となる。よく熟したものは、果肉にカステラのような細かい気泡ができるので音が軽く響く、重苦しく響くのは未熟である。収穫期のひと雨は、糖度を2度落とし甘味の薄いすいかとなる。栄養面では赤い色がカロテンで体内でビタミンAに変わる。果汁には果糖が含まれており、これは利尿効果があるので腎臓病に効果がある。カットするときには、タネは縞の内部に並んでいるのでこの縞の濃い部分を外して切るとタネが見えずにきれいであると言われたこともあったが、縞は15~20本もありタネは6列なのでぶつかることもある。


 わが国のすいかの栽培面積は昭和40年代中頃(1970年)の4万haから2022年の8,940haへとこの50年間で22%までに減少した。この要因は、①他品目への転換、②生産農家の高齢化と後継者不足、③露地作型の減少があげられる。販売においては1個売りが減少して、中身が確認できて買いやすい価格設定ができることからカット売り、それも1/2から1/6が増え、さらに小さくサイコロ状にカットしてパックをしたり、他のフルーツとの詰め合わせも増えている。よく言われるのは、最高気温が30℃を越えると甘味の強いメロンから水分の多いスイカへ売れ筋が変わってくる。アイスクリームなどの冷菓でも乳脂肪が多く濃厚なアイスクリームから、かき氷風のさっぱりとしたカップ入りの冷菓が売れ筋になるのと同じである。

 2022年の栽培面積は8,940ha,収穫量は315,900t、収穫量構成比は、①熊本15.2%,②千葉11.6%,③山形9.9%,④新潟6.0%,⑤鳥取5.7%,⑥愛知5.0%,⑦長野4.8%、そして茨城,石川,北海道,秋田,神奈川,長崎,青森…と続く。ほかに輸入が524t(メキシコ53.6%,アメリカ,メキシコ…)となっている。

 

選び方と保存  黒と緑が鮮やかでつやがあり形は丸く、花落ちが小さくツルの細いもの(一番果は味がよい)。変形果は中が空洞になりやすい。果肉は鮮やかな紅色で、糖度11度以上のシャキッとした歯ざわり=いわゆるシャリ感のあるもの。カット売りは種が黒いものがよく、種の回りが空洞になっているのは過熟なので注意。保存は涼しい所において食べる前の1~2時間、冷水で16℃前後に冷すとよい、冷しすぎると甘味がおちる。

旬  5~8月。

熊本のハウススイカ

 

 熊本県は2021年の栽培面積が1,280ha/15.4%と全国一を続けている。主産地は鹿本郡,山鹿市,熊本市,菊池郡,上益城群,玉名市にかけての地域で、このうち75%以上がビニールハウスで残りが大型トンネルとなっている。ハウス化によって安定した収量と早出しが可能となり、出荷は一番価格の高い2月中旬から6月一杯まで、また、天候の不安定な梅雨に入るまでに一番玉を出荷する作型となっている。品種は羅皇,祭りばやし,はるのだんらんなど。

 

台木と連作障害

 

 連作障害、とくに土壌伝染性病害(フザリウム菌がつる割れ病を起こす)を避けるために接木栽培をする。その台木としてもっとも広く使われているのがユウガオで、他にトウガン,スイカ共台,カボチャ,アレチウリなどがある。

また、すいかとネギを一緒に植えると、ネギの根からフザリウム菌の天敵のシュードモナス・グラジオリーを分泌するので連作障害を防ぐことができる。

 

打音式空洞化判別

 

 すいかを小さなハンマーでたたくことによって、その振動数をマイクで受信し、打音波形の周波数、振幅などの波形を解析して、空洞の有無,未熟果,過熟果,病果,熟度などをコンピューターで識別する。正常果の波形はきれいな減衰波形であり、空洞化では乱れた波形になる。ただ、これでは糖度が測れなかったが、超電導マグネットと磁気共鳴とを用いることによって、空洞の検出と非破壊糖度測定の両方を可能にした。

 

たねなし西瓜

 

 寺田甚七,増田健三両氏が京都大学の木原研究室の協力をえて、コルヒチンというアルカロイドを利用して、まず普通のすいかの染色体の数を2倍にした4倍体のすいかを作り、これを普通の2倍体のすいかに交配をしてタネを作る能力のない3倍体のタネを取り出す。昭和17年にこのタネをまいて、3倍性のたねなしすいかをならせることができた。しかし、このすいかの致命的な欠点は晩生なため、出荷が多く価格が安いときに生産されコストがあわないこと、すいかがあきた頃に収穫されること、肉質がかたいこと、タネを作るのが面倒なことなどで、これらのためあまり生産されていない。

たねなし西瓜

 

 農林省野菜・茶業試験場が1997年、軟X線を花粉に照射することによって花粉の核を不活性化させてタネの胚の生長を止め、この花粉(雄花)で人工受粉された雌花が種なし西瓜となる技術を開発した。普通栽培のものと糖度,果肉色などは変わらない、種なしとはいっても種皮のみのシイナが含まれるが、未成熟のため気にせずに食べられる。

 

でんすけスイカ

 

 北海道の中央部に位置する当麻(とうま)町は、内陸性気候による昼夜の寒暖差と澄みきった空気,清らかな水,そして肥沃な大地に恵まれて水稲栽培が主力だったが、昭和50年代に国の減反政策の中で、「農業をしたくても、できない」苦しみと直面する。その中で昭和59年に農協青年部が一村一品運動として、外皮は真っ黒で果肉は明るい紅色のタキイ種苗の「タヒチ」のスイカ作りを開始した。「全国に名前をとどろかせる名産品を作ろう」と、重さ4kg以上,糖度11度以上で外観がよく、光センサーでチェックしたものだけを市場に流すことにした。これが実って、2023年の作付面積は110.3ha,農家36戸で463t・約50,000玉の出荷と1億7,700万円の取扱額となっている(当麻農業協同組合)。収穫は7月上~8月中旬で、贈答用やみやげ品として道内外の百貨店やスーパーなどに出荷される。名前はユニークな演技で人気の高かった喜劇俳優の大宮敏光さんの舞台名「デン助」と、減反で転作した田んぼを助ける「田助(でんすけ)」の意味がある。北海道の黒皮・紅赤果肉のスイカは、当麻の「でんすけスイカ」と富良野の「麓郷(ろくごう)へそスイカ」と月形町の「ダイナマイトスイカ」の3種類が有名。

 

ダイナマイトスイカ

 

 北海道樺戸(かばと)郡月形町の柳農園が1991年に、ヨーロッパ原産の黒皮スイカと日本の縞皮スイカを交配して作った黒皮で果肉は紅赤のスイカ。ツルを導火線に見立て、先端に火花のシールを付けたユニークな外観として名づけた。石狩平野の広大な大地で、さえぎるものなく一日中差し込む太陽の恵みと、そして地元農家の愛情のもとで、平均糖度は11~12度,みずみずしくてシャリ感たっぷりの甘いスイカが生まれる。収穫は7月上~8月上旬で収穫量は約1万玉程度と少なく、そのほとんどが首都圏などへと出荷される。 


ゴジラのたまご

 

 北海道樺戸(かばと)郡月形町の柳農園で、ナント種苗のナショナルという品種を栽培している。外皮は網目でラグビーボールみたいなだ円形、肉色は明るい紅桃色で肉質はシャリが強く果重は8~10kg以上と大きい、まるで恐竜のたまごのような形をしているため柳農園がゴジラのたまごと名づけて売り出したもの。スイカに貼られたシールには、ゴジラが卵からうまれるイラストが描かれて、檻(おり)に見立てた木箱(予約制)に入れるという徹底ぶりが受けている。石狩平野の広大な大地で、さえぎるものなく差し込む太陽の恵みの中で栽培され、収穫量は約5千玉程度。糖度11~12度の甘いスイカが7月上~8月上旬に出回る。


 

おつきさまスイカ

 

 北海道樺戸(かばと)郡月形町の柳農園が1991年に品種改良した、黒皮で果肉が鮮やかな黄色のクリームスイカ。赤肉のしゃきとした食感とは違い、柔らかで糖度11度以上と甘い。切るとその皮の黒さと対比される黄色いまんまるの美しさに思わず感嘆すること間違いない。黒い箱に黄色い丸,うさぎのイラストが目印で、収穫量は約5千玉程度と少なく、ほとんどが首都圏に出荷される。石狩平野の広大な大地で、さえぎるものなく差し込む太陽の恵みの中で栽培され、収穫は7月上~8月上旬。

 

すいかの縞

 

 原産地のアフリカのカラハリ砂漠には現在も野生のすいかが自生している。砂漠でのすいかは雨が降ると芽を出して茎葉を繁茂させるが、果実が熟す頃には乾燥によって茎葉は枯れ、果実だけとなる。そうした中ですいかが種をばらまいて子孫を残すためには、鳥などの糞と一緒に遠くへ運ばれて繁殖する必要があり、縞があれば目立って遠くからでも発見されやすく生き残ったものと考えられている。

 

まるごと食べようスイカ

 

 食品成分表によると西瓜の廃棄率は40%とあるが、最近は品種改良で皮が薄くなったので40~30%ではないだろうか。白いところはシャキシャキして食感がよいので、皮をむいて、①ビニール袋に細切りの塩昆布を入れて一緒に少し揉んでから、冷蔵庫に2・3時間程入れておけば簡単においしい浅漬けができる。②1cmのさいの目切りにして、サラダに入れる。③千切りにして沸騰した湯にくぐらせて、キャベツやキュウリの千切りとともに盛り合わせとする。緑のところは固いので、冷凍庫に入れて解凍して柔らかくしてからきんぴらにするとおいしい。

 

   (1) 羅皇 らおう

 

 ナント種苗が(赤富士×韓国より導入の品種)×(紅孔雀×紅大)から選抜,育成したもので、2015年に発表される。着果性に優れ温暖化が進んだ高温期の生育後期でも、草勢が強く空洞化や裂果・変形果が少なく秀品率が高い。果実は8~10Kgと大玉で、果皮は濃緑色,果肉は緻密でシャリ感に優れ、糖度は12~13度となる。姉妹品種に羅皇AR,Z,ザスウィート,ロングがある。

 

   (2) 金色羅皇 こんじきらおう

 

 ナント種苗が育成、果肉が黄色で極めて強い甘みと果肉が締まっていてシャリ感がある。一般品種より3~5日長く畑に置くことで、しっかりと完熟させると果肉が崩れにくく棚持ちが極めてよく、糖度15度を超えることも多い。

 

   (3) 祭りばやし777 スリーセブン  

 

  萩原農場が{朝ひかり×(ファインエース×都系)}×マイティー21から果皮は比較的濃く見栄えがよい、果肉は明るい鮮紅色で適度にしまりシャリ感があり食味がよい。早い作型で6~7kg,遅い作型で7~8kgと大玉で、着果性に優れ高糖度安定型,空洞化の発生も少ない。姉妹品種に祭りばやし8エイト,RG, ADがある。

 

   (4) 春のだんらん

 

 萩原農場が(朝ひかりSRの後代×秀陽の後代)×{(日章レッドの後代×都3号)×祭りばやしの母系}から選抜,育成したもので、2002年に命名された。名前の通り、春先の低温でも雌花の着果が安定して空洞になりにくい。果皮は濃く縞が鮮明で見栄えがよく、果肉は明るい鮮紅色で緻密ちみつでシャリ感がありカット販売に向いている。姉妹品種に夏のだんらんがある。

 

   (5) その他

 

①縞無双(しまむそう)…神田育種農場が(都系の夏日二号後代)に(富研系統の巨峰L後代)を交配,育成したもので、1995年に命名された。果皮は濃く縞が太くよく通り見栄えがよい、果肉は濃桃紅色で硬くしまりシャリ感があり日持ちもよい。着果性に優れ糖度は中心部で12度以上、果皮に近い部分でも10度に近く安定して空洞化の発生も少ない。姉妹品種に縞無双H,縞無双VH,縞無双HLがある。

 

②甘泉(かんせん)…丸種マネタネ株式会社が昭和45年に(固定富研×田端甘露)×都3号に新三笠後代を交配,育成したもので、昭和58年に発表した。低温期の雌花の着果性に優れ安定した収穫が望めて耐病性も強い。果皮は濃緑地に鮮明で太い17~19条の条斑があり見栄えがよく、果肉は鮮紅色で繊維が細く緻密ちみつでシャリ感があって糖度は12度以上と食味はよい。神田

 

③江大(こうだい)…ナント種苗が(あすか×伊吹)に(都系×固定富研)を交配,育成したもので、1990年に命名された。果皮は濃緑で、果肉は濃桃紅色で糖度は高く食味はよい。

 

④味きらら…大和農園が韓国導入(品種不明)に必勝の後代を交配,育成したもので、2001年に命名された。果皮は濃緑で鮮明な縞を持ち、果肉は緻密でシャリ感があり、中心部の糖度は13度前後とこくのある甘さが特長。

 

⑤マイティー21…萩原農場が(富士光の後代×縞皮の固定系)に(日章レッドの後代×固定富研)を交配,育成したもので、1993年に命名された。果肉は鮮明な紅赤色でよくしまりシャリ感があって、スイカ特有の風味がある。着果性に優れ空洞化の発生も少ない。

 

⑥富士光…萩原農場が昭和46年に、富研(大玉の無地皮)に(都系×大和系)を交配,育成され、54年に発表される。果肉は明るい紅赤色で、緻密(ちみつ)でシャリ感があり糖度12~13度と食味がよく日持ちもよい。栽培面では低温でのつる伸びがよく、変形果が少なく収量も安定している。