27.みかん・柑橘

 

 原産地はインドアッサム州の東部,ミャンマー北部,中国雲南省西部に囲まれた比較的狭い地域で、起源は800万年前と推定され、ここから中国に伝わり日本へ、また、一方では中近東,地中海に伝わりアメリカ,南米,アフリカへと世界中に広がっていく中で、豊富な品種が育成されていった。主要品種を次にあげる。

①スイートオレンジ類 Sweet Orange

サルスチアーナ,シャムーティ,ナベリーナ,ナベレート,ネーブルオレンジ,パーソン,パイナップル,ハムリン,バレンシア,ペラ…

②みかん類 Mandarin

アンコール,伊予柑、温州みかん,オーランド,カラ,キノー,クレメヌーレス,クレメンタイン,セミノール,タンカン,地中海マンダリン,フレモント,ポンカン,マーコット,ミネオラ,ヤラハ…

③グレープフルーツ類 Grapefruit

甘夏,スタールビー,ダンカン,トムソン,八朔,フォスター,文旦,マーシュシードレス,レッドブラッシュ…

④レモン,ライム類 Lemon &Lime

ビラフンカ,ユーレカ,ライム,リスボン…

 

温州(うんしゅう) みかん Mandarin orange

 

 2017年、農研機構から「温州みかんの両親は種子親が紀州みかん、花粉親がクネンボと推定」との発表があった。これは206種のSNPマーカーによる詳しいDNA鑑定をした結果わかったことである。これで我が国が原産と確定した。それまでは、中国(浙江せっこう省天台山)から昔、遣唐使(618~907年)が持って帰った柑橘の種子(早橘,慢橘,天台山桔)を鹿児島県の港町、長島に播いたものから突然変異を起こしてできたと考えられていた。これ以前にも、タチバナ,シークワーサーがわが国に野生していたとされる。遺伝子分析から見るとタチバナは、はるか昔の先史時代に中国から自然にもたらされ、シークワーサーはタチバナと中国産マンダリンの交雑から生じたと考えられる。ひな人形の横に置かれている木は、このタチバナであり、昔からよく知られた木であった。 

*クネンボ…インドシナが原産で沖縄を経由して室町時代までには九州に伝わった。そして江戸時代までは、紀州みかんとともに我が国の柑橘の中心となっていた。

 

 鹿児島県で生まれた温州みかんは福岡県に入って産業化し、在来系として固定、種子を持たないことから、突然変異による枝変わりが各地で探索されて広まっていった。

わが国の気候,風土に適し、今日栽培されている柑橘(2021年)の中で収穫量で64.9%,栽培面積で71.4%を占めているが、全国的に栽培されるようになったのは明治以後で、現在までの100年間,柑橘栽培の中心となっている。

中心的な産地は高温多湿で冬期がやや低温なところにあり、理想的には年平均16~17℃、また冬の寒さを示す1月の平均最低気温は1~3℃で、凍結のおこるような低温がなく降水量は4~9月にかけて、1,000~1,400㎜と多いことなどである。このような理想帯としては、愛媛県の中部海岸地方,熊本県の八代・宇土地方,長崎県全般および大分県の南部海岸地方があげられる。貯蔵用みかんの産地としてはやや低温な静岡県や神奈川県の沿岸部がよいとされる。

  温州みかんの栽培面積は、昭和48年の17万3千ha,収穫量は昭和50年の367万tをピークにいずれも減少し、1988年で8万6千ha,220万t、そして2022年で36,200ha,収穫量は682,200tとなっている。最盛期に比べると栽培面積は20.9%、収穫量は18.6%と大幅に減少したままとなっている。生産者の高齢化や跡継ぎの不在、そして消費の方からはおきまりの人口減少やミカン以外の選択肢が広がったこと、また核家族化もそのひとつで1969年には3世代世帯が20.0%(579万世帯)あったのが2013年には6.6%(333万世帯)となって、一家団欒(だんらん)でご飯を食べたり食後に果物を食べることも減ってしまった。2022年の収穫量構成比は、①和歌山22.4%,②愛媛16.0%,③静岡15.1%,④熊本11.0%,⑤長崎5.9%,⑥佐賀5.7%、そして愛知,福岡,広島,三重,神奈川,大阪,香川,大分,鹿児島…と続く。この間の品種の動きを見ると、昭和48(1973)年にはゼロに等しい極早生品種と普通温州の高糖系の青島温州が増加して、早生温州と普通温州の早熟系,中熟系が大幅に減少した。こうした動きは、販売期間の拡大による消費拡大を狙ったもの。極早生温州の糖度は8~10度,早生温州は11度,普通温州の高糖系は12度から上が多い。熟期によって次のように分かれる。品種と普通温州の高糖系の青島温州が増加して、早生温州と普通温州の早熟系,中熟系が大幅に減少した。こうした動きは、販売期間の拡大による消費拡大を狙ったもの。極早生温州の糖度は8~10度,早生温州は11度,普通温州の高糖系は12度から上が多い。熟期によって次のように分かれる。

 

 

 

  2021年の品種別栽培面積構成比は、①宮川早生21.5%,②青島温州12.3%,③興津早生11.9%,④日南1号4.8%,⑤林温州4.3%,⑥南柑20号4.2%,⑦向山温州3.9%,⑧大津4号2.7%,⑨石地2.6%,⑩上野早生2.5%、そして田口早生,ゆら早生,原口早生,させぼ温州,南柑4号,寿太郎温州,杉山温州,豊福早生,尾張系温州,白川温州,宮本早生,岩崎早生,伊木力温州,肥のあかり,十万温州,肥のあけぼの,清水4号,古田温州,崎久保早生,日南1号N,北原早生,菊間中生,小原紅早生,かごしま早生,久能温州,肥後早生,肥のあすか,石川温州,肥のさやか,高林温州,おおいた早生,早味かん,みえ紀南1号,大浦温州,今村温州,日南早生,片山温州,YN26,愛媛中生,丹生系温州,きゅうき,持丸温州(栽培面積50ha以上)…と続く。

選び方と保存  果皮が薄く色は濃くつやがあり偏平で、大きいものよりはMかSの方が味はよい。保存は涼しい所へ。

旬  10~2月。

 

高品質みかん 高糖系

 

 地上部の生育より地下部の生長を抑制して、葉で生産された炭水化物をより多く果実に集積させるもので、糖度は12度以上,酸は0,9度程度を目指す。次のような方法がある。

①透湿防水シートマルチ…熊本県では昭和61年ころから使用、7月下~8月上旬の土壌が乾燥したときにタイベックなどの雨水を遮断して水蒸気を通過させる透湿防水シート(耐水性,透水性,表面の微細な凹凸で反射した光は散乱光となって樹冠内に拡散する,根の呼吸で生じた炭酸ガスを大気中に出す,地温の上昇・下降を緩和する,保温性,害虫忌避性など)で園地を覆い、雨水が浸透しないように回りに排水溝を掘って、根の発根を抑えて高品質をはかる。試験場データーでは、糖度が1~2度の上昇効果が出ている。極早生を早く,色よく,味よく出すことと、早生の出荷の平準化(価格の下支え)をねらっている。近年の被覆面積は減少傾向となっているが、これは資材経費や敷設労力の面と選果場データーでの糖度上昇効果が0.1~0.7度と低いこと、加えて気候の変化に被覆作業がミスマッチとなっている。

②ボックス栽培…コンテナの中で地下部を制限して栽培、味をよくする。収量の確保は、単位面積の栽培数を増やすことで解決する。

 

樹上完熟みかん

 

 温州みかんのすぐれた特性のひとつに年内に完熟する早熟性があり、このため、冬が寒く果実の越冬のできない柑橘産地でも栽培される。そうした中でも、早生温州は樹上におくと糖分を集積する性質があり、無霜地帯ではこれを利用して小玉果に袋をかけ越年させて糖度を高めて販売するもの。通常の収穫時に60~90%,1月中旬から2月に残りを収穫するが、この間に果実中の糖含量,とくに甘味度の高い果糖が増えると共に、酸含量は変化をしないので味ぼけが起こらず食味がよい。鳥害や寒害から保護をするために、防鳥ネットや屋根掛け,袋掛けの必要がある。

 

浮皮(ふひ)現象 ブクミカン

 

 みかんの大きな特長として、皮のむきやすいことがあげられる。ただ、これも著しいと浮皮となり、輸送中の腐敗の原因になる。この浮皮は、果皮と果実の間に空隙(くうげき)ができ、果皮がブクブクになることで、果肉の成熟が止まった後まで果皮の発育や膨張があると生ずる。過熟果,特大果,チッ素肥料の過多,秋の気温の高い時はなりやすい。

 

予措(よそ)

 

 収穫直後や貯蔵中の果実は、水分蒸散が激しく庫内の温度が高くなって浮皮を助長し、やがて果汁が減少して品質が悪くなり腐敗へとつながる。これを防ぐために予措を行なう。方法は、選果の終った果実を貯蔵庫に入れ、ここで戸,窓を開放して通気をはかると、10℃以下,2週間前後で、重量で3~4%減少する。もうひとつは、20℃の高温で行なうもので果皮の赤みが増す。予措も次の2つの目的で行なわれる。

①出荷予措…輸送の耐久性を高め、輸送中や市場での腐敗の発生を防ぎ、果皮色が濃くなるとともに浮皮が減少する。

②貯蔵予措…長期間の貯蔵には十分な予措をして、果皮がわずかにしなびた状態にするのがよい。これにより、果汁の酸の分解・減少が少なく、貯蔵中の品質保持ができる。

 

ベーター・クリプトキサンチンと発がん抑制

 

 人の体は約60兆個の細胞からできていて、細胞の中に核がある。この核の回りにある遺伝子にキズがつくとがん細胞となる。がん細胞の分裂,増殖はベーター・カロテンによって抑制されることが疫学調査からもわかっており、ベーター・カロテンを多く含む緑黄色野菜(にんじん,かぼちゃ,ほうれん草など)が発がん抑制に効果が大きい理由になっている。温州みかんには1個に1~2mgのベーター・クリプトキサンチン(カロテノイドの一種)が含まれているが、他の柑橘には含まれていない。そのうえ、ベーター・カロテンの5倍の効果がある。

 

段ボール箱での輸送

 

 段ボールは1856年にイギリスで、服の「ひだ襟(えり)」にヒントを得て帽子・シルクハットの汗止め用として作られた。1874年には米国で電球やランプなどを運搬による衝撃から守るために使われ、1910年頃から生産量が増えて木箱からの切り替わりが進んだ。わが国では明治42年(1909)に製造が始まったが、広まったのは朝鮮戦争,昭和25~28年(1950~)の際に米国から日本を経由して朝鮮半島へ段ボール箱で多くの物資が送られて、便利さが認識されてからである。この時期は戦後の復興期で木材需要が増えて高騰したことも、安価で大量生産が可能な段ボールの普及に拍車をかけた。ミカンの段ボール箱の輸送試験は昭和31年の静岡から始まって、35年からは全国展開となる。それと並行して、誰でもが見てわかるように品質は秀・優・良、大きさはL・M・Sの表示に統一を決めた。りんご、そしてたまねぎが木箱から段ボールに切り替わったのは、ミカンより遅れて昭和38~40年頃と思われる。

*段ボールの名は、原紙にボール紙(board)を用いていたことと、断面の波型が階段状に見えることによる。

 

みかんの歌

 

 いくつかの童謡,歌謡曲が歌われている。

①「みかんの花咲く丘」昭和21年8月25日、NHKの特別番組「空の劇場」で放送、作詞家加藤省吾は故郷の静岡県のみかん畑を思い浮かべながら書き上げた。これを海沼実は列車のなかで一気に作曲、初夏の素朴な情景とのびやかなリズムが人々の心を魅了して童謡としては空前の大ヒットになった。…みかんの花が 咲いている 思い出の道 丘の道 はるかに見える 青い海 お船が遠く かすんでる… 

 

②「ミカンの実る頃」昭和48年8月25日、藍美代子デビュー、以下にご本人よりのメールを転載します。「初めまして、藍(あい)美代子(みよこ)です」。その日は、キャンペーンで渋谷、新宿、銀座など青いミカンが入った籠(かご)を持ち、路行く人に青いミカンをお配りしたのを覚えています。その時初めて青いミカンを見ました。当時一個¥400円と聞きましたよ!?キャンペーンで全国を回り、愛媛の櫁柑山での撮影では、山一面に青いミカンが実りミカン畑は甘酸っぱいミカンの香りに包まれていました/Miyoko2008.8.27。…青いミカンが実った ふるさとの丘に 今年も穫り入れの歌がまた聞こえる 甘く酸っぱい胸の思いを…

(筆者注)当時は鹿児島、宮崎の宮川早生,興津早生を早もぎした青切りみかんが出回っていた。その後、ハウスミカンが出回り、極早生ミカンが昭和50年代から出回る中で、酸っぱい青切りは消えていった。今は9月から極早生ミカンが出回る。果皮は青いが昔ほどは酸っぱくないー

 

ハウスみかん

 

 愛知県や佐賀県では昭和48年(1973)より温室栽培のハウスミカンの生産が開始された。時はあたかも過剰生産による価格暴落が起きる最中で、皮が薄く甘いハウスみかん,単価の高いハウスみかんは消費者にとっても生産者にとっても人気が高かった。化粧箱に入って、お盆やお中元用の贈答品としても最適であった。早生温州の宮川早生,興津早生などを、ビニールハウスで12月上旬から加温をすると発芽,開花が早くなり、5~6月の出荷が可能となる。加温の時期により収穫期が異なり、1月加温で7月中旬以降から収穫,3月上旬の加温で8月中旬の収穫となる。但し、過度の早出しは着花が悪く(収穫減)、12月下旬以後の加温が望ましい。温度の管理は15~27℃程度が多い。近年の世界的な原油高の影響でハウスの加温用のA重油の高騰,景気の低迷によるギフト需要の低迷,園地の高齢化などによって、2002年の栽培面積は1,224ha、収穫量は57,900t(農林水産省発表・それ以前は不明)から、2021年では栽培面積360ha、収穫量は18,200tと1/3以下までに減少している。これらの要因としてはトルコ産のマーコット,季節が逆のペルー産及びオーストラリア産のマンダリン(露地ミカン)の輸入がある。2021年の収穫量構成比は、①佐賀35.9%,②愛知23.1%,③大分8. 1%,④高知5.7%、そして愛媛,徳島,静岡,長崎,熊本と続く。

 

(1) 極早生温州(ごくわせうんしゅう)

 

 早生温州の出荷が11月に集中して、価格の低迷が続く昭和35年から50年にかけて、より早い9月から10月の出荷を目指して枝変わりの探索が行なわれた。こうして選ばれた数多くのなかから選抜されたのが次の品種である。極早生温州は着色や減酸が早い特長があるが、開花から成熟までの期間が短いのでどうしても糖度が高くなりづらい。そのために糖度、酸度のバランスがとれて食味の優れた期間が短い。それゆえに売る側、食べる側でも注意したいものである。2021年の栽培面積は5,920ha,収穫量は124,200t、収穫量構成比は、①熊本17.7%,②和歌山15.9%,③愛媛15.7%,④佐賀11.4%、そして長崎,三重,福岡,静岡,宮崎,鹿児島,広島,香川,大分…と続く。

 

極早生温州の突然変異

 

 柑橘類では、多数の早熟化した突然変異が発生している。1977~1978年の佐賀と福岡での160万本による早生温州の調査では、35例(枝変わりが30例,樹全体が変異した変異樹が5例)の極早生突然変異が発見された。約47,000本に1例の発生で、高齢樹でとくに多い。下記の極早生温州の栽培面積上位15品種の中で、10品種が枝分かれとなっている。

 

①日南早生…日南1号(1979年に宮崎県日南市の野田明夫氏が、興津早生の木に着色が早く酸が抜けるのも早い実がある枝を発見して1989年に品種登録された)の枝変わりとして8月下旬から収穫可能な超極早生品種として栽培が広がりつつある。果実は黄緑から黄橙色で甘みと酸味があり、さっぱりした味。産地は宮崎,佐賀、熟期は9~10月。

 

②日南1号N…1995年に宮崎県日南市の古澤勝氏の園で日南1号の枝変わりを発見、2008年に品種登録された。9月の極早生みかんは「青切りみかん」とも言われて果皮が青く酢っぱいが、この品種は減酸や着色が早いため作りやすく豊産性、8月下旬から収穫可能な超極早生品種として栽培が広がりつつある。「日南(ひな)の姫」は都城大同青果株式会社の登録商標。産地は宮崎,愛媛、熟期は9月上~中旬。 

 

③崎久保早生…三重県御浜町の崎久保春男氏の園で昭和46年ころ、松山早生の枝変わりとして発見された。果実は偏平で果皮はやや厚いが滑らか。産地は三重、熟期は9月中~下旬で遅くなると浮皮が発生し味も淡泊になる。

 

④おおいた早生…大分県柑橘試験場で、今田早生にハッサクの花粉を交配して得られた珠心胚実生から選抜され、1996年に登録された。樹勢は比較的強く結実は良好で、果実は偏平でやや小さい。産地は大分,三重,宮崎、着色が進む前の9月中旬から収穫ができるが、成熟期は10月中旬。

 

⑤かごしま早生…鹿児島県果樹試験場が昭和62年、徳森早生にアンコールの花粉を交配して育成、2001年に品種登録された。果皮が緑色のうちから果肉は赤く色づき、やや酸味があるが食味良好。産地は鹿児島、熟期は9月下~10月上旬。

 

⑥肥のあかり…熊本県農業研究センター果樹研究所で1991年、日南1号にジョッパオレンジの珠心胚実生を交配して育成、2004年に登録された。9月下旬には全体の4~6割が着色し、糖度は10%以上と高くクエン酸含有量は1%程度と低く、食味が良好。産地は熊本、熟期は9月中~10月上旬。

 

⑦宮本早生…和歌山県下津町の宮本喜次氏の園で昭和35年、宮川早生の枝変わりとして発見された。果実は偏平で玉揃いがよく豊産だが、隔年結果を起こしやすい。産地は鹿児島、酸の減少が早く熟期は9月中~下旬であるが、10月中旬まで食味がよい。

 

⑧日南1号…宮崎県日南市東郷町の野田明夫氏の園で昭和56年、興津おきつ早生の枝変わりとして発見され1988年に登録された。果実は偏平できわめて滑らか、減酸はやや遅いが糖の上昇が早く着色もよい。2021年の栽培面積構成比は極早生温州みかんの中で28.6%を占めてトップとなっている。収穫量構成比は、①愛媛28.0%,②和歌山20.3%,③宮崎15.8%,④三重5.1%,⑤広島4.3%、そして福岡,香川、熊本,静岡と続く。熟期は9月下旬。

 

⑨大浦早生…佐賀県太良町の宮川照吉氏の園で昭和48年ころ、山崎早生の枝変わりとして発見され、55年に登録された。果実は偏平で豊産、浮皮になりづらい。味ボケしづらく、早出しと早生温州の特長をもつ。産地は和歌山,佐賀、熟期は9月下~11月上旬。

 

⑩肥のさやか…昭和61年に熊本県農業研究センター果樹研究所(下益城郡松橋町)で、上野早生に福原オレンジを交配して得られた珠心胚実生の中から育成され、2004年に登録された。果実はやや偏平、甘味はやや低いが酸味も低い。内陸部や標高の高い地域では減酸の遅れから収穫・出荷が遅れる傾向があるが、この品種の着色は9月上旬より始まり10月上旬から出荷できることから産地全体の均質化が図れる。産地は熊本、熟期は10月上旬。

 

⑪上野早生…佐賀県東松浦郡浜玉町の上野寿彦氏の園で昭和45年、宮川早生の枝変わりとして発見された。果実は偏平で、果皮は薄く滑らかで紅が強くきれいである。2021年の栽培面積構成比は極早生温州みかんの中で15.1%を占めて日南1号に次ぐ。収穫量構成比は、①佐賀28.8%,②和歌山25.4%,③長崎11.4%,④愛媛8.7%、そして福岡,香川,広島,熊本と続く。熟期は10月上~中旬。

 

⑫豊福とよふく早生…熊本県農業研究センターで昭和59年、大浦早生にパーソンブラウンの花粉を交配して育成、1995年に登録された。果実は偏円平で果皮は滑らか、糖度は10~11度で、酸味が少なく食味がよい。産地は熊本、熟期は10月上~中旬で遅くなると浮皮が発生しやすい。

 

⑬ゆら早生…和歌山県日高郡由良町の山口寛二氏の園で1985年、宮川早生の枝変わりとして発見され1995年に登録された。果肉色が濃くじょうのう膜が薄くて柔らかく、糖度11~12度と甘味が強く今後が期待される。2021年の栽培面積構成比は極早生温州みかんの中で12.7%を占めて、3番手となっている。産地は和歌山,静岡,佐賀、熟期は10月上~中旬。

 

⑭岩崎早生…長崎県西海町の岩崎伝一氏の園で昭和53年、興津早生の枝変わりとして発見された。果実は偏平で果皮が薄く、滑らかで早くから酸が少ない。産地は長崎,愛媛,香川と続く。熟期は10月上~下旬。

 

⑮高林早生…静岡県浜北市の高林鉄平氏の園で昭和50年、興津早生の枝変わりとして発見され、59年に登録された。果皮は薄く滑らか、果汁が多く糖度11度で酸味は少ない。産地は静岡、9月中旬から着色し始め、熟期は10月下旬。

 

(2) 早生温州(わせうんしゅう)

 

 明治28年ころ大分県青江村で、普通温州の枝変わりとして発見されたのが始めで、その後、つぎつぎと各地で新系統が発見された。普通の温州みかんに比べて着色,成熟が早く、10月上旬から出荷できるのが強みである。ただ、あまり貯蔵がきかず果皮が薄く味が淡泊なのが特長、糖度は10~13度。主力は宮川早生と興津早生である。

 2021年の栽培面積は14,420ha,収穫量は299,700t、収穫量構成比は、①和歌山25.1%,②愛媛22.0%,③熊本18.9%,④佐賀11.9%,⑤長崎9.6%,⑥静岡8.1%,⑦愛知5.1%、そして三重,福岡,広島,鹿児島,宮崎,大分,香川,大阪,高知,徳島神奈川…と続く。

 

①肥(ひ)のあけぼの…熊本県農業研究センターで昭和58年、楠本早生に川野なつだいだいの花粉を交配して育成、1995年に登録された。果実は偏平で糖度は11度以上で濃厚な甘さがある。果皮は赤みが強くきれいである。産地は熊本、熟期は10月中旬で、遅くなると浮皮が発生しやすい。

 

②興津(おきつ)早生(興津2号)…農林水産省果樹試験場興津支場で昭和15年、宮川早生にカラタチの花粉を交配して得た種子を育成した実生系である。現在、早生温州の代表種として各県で奨励されている宮川早生に変わるべき品種で、今後の主要系統になるであろう。果実は偏平で110g前後、果面は滑らかで美しい。果汁は酸,糖分ともに多く味は濃厚で風味がよい。果実の着色は宮川早生よりも約一週間早く、果面全体に色付く。2021年の栽培面積構成比は早生温州みかんの中で29.5%を占めて宮川早生に次ぐ。収穫量構成比は、①熊本21.8%,②和歌山18.4%,③静岡11.2%,④広島11.1%,⑤愛媛7.3%、そして鹿児島,大阪,高知,三重,香川,宮崎,徳島,大分,長崎と続く、熟期は10月中旬、完熟品は11月である。  

 

③宮川早生…福岡県柳川市の宮川謙吉氏の園で明治42年、在来系温州の枝変わりとして発見され、昭和初期より全国的に広まった。早生温州の代表格で各地で奨励され、今後も伸びていくと思われる。果実は150~200gと大きく、豊産性でかなり結果しても小玉ができにくい。果皮は若木時代には厚いが、結果が多くなるにつれて薄くなり、裂果や日焼けは少ない方である。果汁は酸,糖分ともに多く、早いうちは酸っぱいが9月下旬ころから着色し始め、熟期の10月中~下旬ころにはとくに風味がよくなる。完熟品は11月である。2021年の栽培面積構成比は早生温州みかんの中で53.2%を占めてトップとなっている。収穫量構成比は、①和歌山35.2%,②愛媛22.8%,③愛知6.8%,④静岡4.7%,⑤香川3.9%,⑥大阪3.7%,⑦熊本3.2%,⑧鹿児島3.1%、そして三重,佐賀,福岡,長崎,広島,徳島,宮崎,大分…と続く。

 

 ④北原早生…福岡県みやま市で原口早生の枝変わりとして2001年に発見、2009年に品種登録された。果実はきれいな濃橙色をして果面もなめらかで見栄えがよい。果皮がむきやすく糖度は12度程度と食味もよい。福岡県ではシートマルチ栽培を園地登録の条件として、品質の安定確保を図ることで産地の活性化に繋がっている。産地は福岡、熟期は10月中~11月上旬。

 

⑤肥後早生…宮川早生にパーソンブラウンを交配して育成された品種、果実は皮が薄く、減酸もやや早く糖度が高いことから、食味は大変優れている。また、浮き皮になりにくいので完熟栽培に向く。産地は熊本、熟期は10月中~11月下旬。

 

⑥肥のあすか…熊本農業研究センター果樹研究所が昭和56年、肥後早生にミネオラの花粉を交配して採取した珠心胚を分離培養した実生を選抜した。興津早生に比べて着色が1週間早く、果皮色が濃くきれいである。糖度も11度以上と良食味である。産地は熊本、熟期は11月上旬。

 

⑦原口早生…長崎県西彼杵郡西海町の原口茂氏の園で昭和42年、宮川早生の枝変わりとして発見された。果実は偏平で果肉が柔らかく、熟度の進行が早いことから食味が非常によい。産地は長崎,福岡,熊本、熟期は10月下~11月上旬で、完熟栽培やビニールマルチ栽培に向く。

 

⑧田口早生…和歌山県有田郡吉備町の田口耕作氏の園で興津早生の枝変わりとして発見され、1995年に登録された。果皮は赤みが強くきれいで糖度は12度以上と甘く酸味は少ない。産地は和歌山,熊本,長崎,愛媛、熟期は11月上旬。

 

⑨小原紅早生…香川県坂出市青海町の小原幸晴氏の園で、昭和48年に宮川早生の枝変わりとして発見され1993年に登録された。「さぬき紅」のブランド名を持つ。果皮が濃い紅色の特徴があり、他の品種と明確に区別できる。8月下旬に透湿性のマルチシートで地面を覆い、土壌中の水分をコントロールすることで糖度を高め、また越冬みかんの場合はひとつひとつの実に袋をかけて樹の上でじっくりと熟成、完熟に近づく1月中旬ごろから袋に入った状態で出荷される。産地は香川、熟期は11月中~下旬。

 

(3) 普通温州(ふつううんしゅう)

 

 2021年の栽培面積は16,300ha,収穫量は306,900t、収穫量構成比は、①静岡22.8%,②和歌山18.6%,③愛媛16.7%,④熊本9.4%,⑤長崎6.5%、そして佐賀,神奈川,広島,山口,愛知,徳島,福岡,大分,香川,三重,大阪…と続く。

①菊間中生…愛媛県菊間町の山崎遥氏が南柑20号から選抜したもの。特長は南柑20号に類似するが、熟期が10日あまり早い。産地は愛媛、熟期は10月下旬。

 

②南柑20号…愛媛県宇和島市の今城辰男氏の園で、大正15年に発見された。昭和27年ころから増殖されている。果実は110~150gで大果でも味は落ちず緻密で、果皮は鮮紅色で美しく玉揃いがよい。果汁は微酸で甘味が強く、年内出荷用みかんとしてはすぐれた風味と外観をもつ。2021年の栽培面積構成比は普通温州みかんの中で9.7%を占めて、3番手となっている。収穫量構成比は愛媛が79.2%、そして和歌山,広島,高知と続く。熟期は11月上~中旬。

 

①    向山温州…和歌山県伊都郡の向山博一氏の園で、昭和23年に発見された。果皮の紅が濃く着色が早い,酸は少なく甘い,玉揃いがよく長期の貯蔵にも耐えるなどのため、現在早熟系では各地で栽培されている。2021年の栽培面積構成比は普通温州みかんの中で9.3%を占めて、4番手となっている。産地は和歌山、熟期は11月上~中旬。

 

④久能温州…農林水産省果樹試験場興津支場で昭和21年、長橋温州にジョッパオレンジの花粉を交配して得た種子を育成した実生系で、41年に登録された。果実は大果で玉揃いがよく偏平、果汁は酸が少なく糖分が多いので食味もよい。早・中熟系の欠点である樹勢が弱くて収量の少ないこと、果汁の風味が淡泊なことが補われており、年内から正月出荷用として各県で奨励されている。産地は和歌山,大分,愛媛,香川、熟期は11月上~中旬。

 

⑤愛媛中生…昭和48年に愛媛県立果樹試験場で、南柑20号にパーソンブラウンを交配して得られた珠心胚実生をは種して育成され,1994年に登録された。果実は濃橙色で果面が滑らか、糖度が南柑20号に比べてやや高く減酸が早いことから食味がよい。産地は愛媛、熟期は11月上~中旬。

 

⑥大津4号…神奈川県湯河原町の大津祐男氏が昭和39年、十万温州の実生の中から育成した。果実は偏平で、果汁は糖分が多いわりに酸が少なく、しかも減少が遅いので春になってもボケず、いつも安定した味で食べられる。但し、果皮の色が淡い欠点がある。2021年の栽培面積構成比は普通温州みかんの中で6.4%を占めて、5番手となっている。収穫量構成比は、①佐賀18.1%,②山口12.2%,③長崎12.1%,④大分10.4%、そして神奈川,愛媛,和歌山,広島,香川と続く。熟期は11月中~下旬。

 

⑦杉山温州…静岡県静岡市の杉山甚作氏の園で、尾張系温州の枝変わりとして発見され昭和15年に命名された、中生種の代表品種である。果実は偏平で120g前後、果皮は滑らかで外観が美しい。果肉は緻密で果汁は酸が少なく風味がよい。産地は広島,静岡,大阪、熟期は11月中~下旬、出荷は2月末まで。

 

⑧白川(しらかわ)温州…熊本県果樹試験場で昭和49年、青島温州にヤラハタンゼロの花粉を交配して育成したもので、昭和63年に登録された。青島温州のコクと風味を受けつぎ、果実は偏平で外観は美しく、果汁は酸,糖分ともに多く味は濃厚で、適地に作られたみかんの品質は最上である。産地は熊本、熟期は11月中~下旬、年内出荷用である。 

 

⑨南柑4号…愛媛県北宇和郡立間村の薬師寺惣市氏の園で、池田系温州の枝変わりとして発見された。これは大正13年から村松春太郎氏が優良系統の探索を行った中で見いだされた。果実は偏平で玉揃いがよく、果皮は滑らか。産地は愛媛,香川,山口、熟期は11月中~下旬。

 

⑩石地(いしじ)…広島県安芸郡倉橋町西宇土の石地富司清氏の園で昭和41年ころに購入した杉山温州の枝変わりとして発見され、2000年に登録された。浮皮の発生がほとんどなく樹上に成らせておくと食味がよくなるので収穫労力の分散が出来る。産地は広島,愛媛,和歌山,佐賀,香川、熟期は11月下旬。

 

⑪林温州…和歌山県有田郡の林文吾氏の園で大正14年、尾張系温州の枝変わりとして発見された。果実は偏平で100g前後で玉揃いがよく、果皮は滑らかで色が濃く外観が美しい。果汁は酸,糖分ともに多く、味は濃厚で風味がよい。また、樹勢がおう盛で豊産で、隔年結果が少なく貯蔵性もよい。2021年の栽培面積構成比は普通温州みかんの中で10.1%を占めて、青島温州に次いでいる。産地は和歌山、熟期は11月下~12月上旬。

 

⑫尾張系温州…鹿児島で生まれたみかんは福岡県に入って在来系として固定され、各地に広まった。 これが長崎県に入って伊木力系が生まれ、さらに愛知県に入って尾張系となった。果実は大果で偏平、果皮は薄く滑らかで外観が美しい、果肉は風味がよい。産地は愛媛,和歌山,岐阜。

 

⑬伊木力温州…鹿児島で生まれたみかんは福岡県に入って在来系として固定され、各地に広まった。 これが長崎県に入って伊木力系が生まれた。果実は大果、果皮は濃色で厚い、果肉はやや淡泊で風味はよい。産地は長崎。

 

⑭させぼ温州…長崎県佐世保市の尾崎次夫氏の園で昭和50年、宮川早生の枝変わりとして発見された。果皮は鮮紅色で美しく、浮皮になりづらい。マルチ栽培で高糖度となり、長崎から「出島の華(はな)」(糖度14度以上)のブランド名にて1999年より出荷され高評価を受けている。産地は長崎,熊本,愛媛、熟期は11月下~12月上旬。

 

⑮古田温州…徳島県勝浦郡勝浦町の古田源一氏の園で、昭和34,35年頃に杉山温州の枝変りとして発見され、1981年に登録された。果実は偏平で大玉、糖,酸ともに高く味が濃厚な貯蔵用の品種である。産地は徳島、熟期は11月下~12月上旬。

 

⑯青島4号(清水4号)…静岡県柑橘試験場が昭和33年から40年にかけて育成した珠心胚実生で、昭和44年に選抜からはずれた62個体を清水市の杉山晴信氏が分譲を受け、このうちの1個体を昭和57年に選抜,命名した。果実は偏平で玉揃いがよく、果皮の着色,酸の減少は青島温州よりやや早い。産地は佐賀,長崎,神奈川、熟期は12月上旬。

 

⑰寿太郎温州…静岡県沼津市西浦の山田寿太郎氏の園で昭和50年、青島温州の枝変わりとして発見され、59年に登録された。果実は青島よりやや小玉で若干腰高で130g前後、締まりがよく浮皮になりづらく外観は美しい。果汁は酸,糖分ともに多く、味は濃厚で貯蔵性に富み、2~3月出荷の適品種。産地は静岡、熟期は12月上旬。

 

⑱青島温州…静岡県静岡市の青島平十氏の園で昭和16年ころ、尾張系温州の枝変わりとして発見され、昭和26年に優良系統として注目される。果実は偏平で130g前後、締まりがよく浮皮になりづらく外観は美しい。果汁は酸,糖分ともに多く、味は濃厚で貯蔵性に富む。果肉の成熟は早く、貯蔵中に果皮の着色が濃くなる特性を持っているので、完全着色以前の収穫も可能である。2021年の栽培面積構成比は普通温州みかんの中で28.9%を占めて、トップである。収穫量構成比は、①静岡45.3%,②熊本15.4%,③香川6.5%,④長崎6.3%,⑤山口5.5%,⑥福岡3.2%、そして佐賀,大分,愛知,三重,和歌山,徳島,広島,大阪と続く。熟期は12月上~中旬。

 

⑲石川温州…静岡県庵原郡由比町の石川廣一氏が尾張温州の枝変わりを育成。果実は140g前後の大果で、腰高,果皮はやや厚いがじょうのう膜が薄く、肉質は柔軟・多汁である。糖・クエン酸ともに高いことから風味濃厚で、3月頃の食味は非常に優れている。樹勢は旺盛で 結果期に達するのが遅いことが指摘されている。産地は静岡、熟期は12月上~中旬。

 

⑳十万温州…高知県香美郡の十万可章氏の園で、尾張系温州の枝変わりとして発見され、昭和28年に登録された。果実は偏平で120g前後、玉揃い,締まりがよく外観は美しい。果汁は酸,糖分ともに多く、味は濃厚で3~4月までの長期貯蔵も可能。産地は徳島,鹿児島、熟期は12月中~下旬。

 

(4) 紀州みかん

 

 わが国へは約700年前に熊本県に渡来し、遺伝子分析から見ると中国産マンダリンと同じなので、これの偶発実生かスイートオレンジとの交雑と思われる。紀州の和歌山県有田地方で特産品として栽培され、紀国屋文左衛門が嵐をついて江戸へ運んだのはこの紀州みかんで、明治時代までは柑橘といえばこの小みかんであった。

果実は30g前後と小さく種子が多く、果皮は芳香があり薄い。果肉は柔軟多汁で酸味が少なく甘味が強い。正月のお供えに使う葉つきみかんや、果皮を七味とうがらしの原料とする。熟期は12月上~下旬、2021年の栽培面積は65ha,収穫量は533t、産地は、鹿児島,和歌山,熊本…と続く。