28. メロン Melon

 

 原産地は、アフリカ,中近東,中央アジア(アフガニスタン,パキスタン,イラン,トルコ,ソビエト南部,中国)とされるウリ科の一年草。歴史は古く古代エジプト時代にすでに栽培され、ヨーロッパに伝わり西洋系となる。一方ではインドヘ伝わり東洋系となり、わが国ヘも弥生時代にマクワウリとして渡来した。「万葉集」に山上憶良(やまのうえのおくら)が、「瓜食(は)めば子ども思ほゆ、栗食(は)めば、ましてしのばゆ…」と歌ったのもこのマクワウリである。

 

 温室メロンは、明治9年に福羽逸人博士が新宿御苑で栽培したのが始まりで、大正14年のアールスフェボリット種の導入ごろから一般でも栽培されるようになった。しかし主流はマクワウリで、これが昭和37年のプリンスメロンの発表まで続き、さらにこのプリンスの時代も長く、アンデス,アムスと入れ替わったのが昭和62年頃からである。近年は、夕張メロン,クインシーに代表される赤肉系のメロンが増え、同時に高級感のあるアールス系のメロンも増えつつある。

メロンの甘味成分はブドウ糖や果糖,ショ糖など、一方、酸味の方は、クエン酸やリンゴ酸,酒石酸などの有機酸です。ミネラルとしてカリウムが含まれ、高血圧の原因となるナトリウムの排泄を促す作用がある。

 

 メロンの栽培面積は2022年で5,790haと1991年の18,100haに比べて32.0%と1/3以下に減少している。これは消費者から見ると他の果物との競合や食べ頃がわかりづらく、品質のばらつき・当たり外れがある。生産者からは高齢化や価格低迷による野菜への転作があげられる。収穫量は142,400t、収穫量構成比は、①茨城23.7%,②熊本17.1%,③北海道14.0%,④愛知6.9%,⑤山形6.7%,⑥青森5.6%,⑦千葉5.3%、そして静岡,新潟,秋田,長崎…と続く。2023年の品種別入荷量構成比(東京都中央卸売市場)は、①アールス23.5%,②アンデス15.2%,③タカミ13.2%,④クインシー12.3%,⑤北海道産赤肉メロン(夕張,ルピアレッドその他)9.7%,⑥レノン4.6%,⑦アムス1.4%,⑧その他19.2%となっている。

 

選び方と保存  全体に弾力があり花落ち部(お尻の部分)が柔らかく香りのする物、ネット型のメロンでは網目が細かくたくさんあるものがよい。メロンをおいしく食べるには、食べる前の1~2時間位を冷やして食べるのが一番で、長い時間冷蔵庫に入れると熟度が止まり、俗(ぞく)に“風邪をひいた”状態となりまずくなる。保存は涼しい所へ。

旬  5~8月。

 

メロンとネット

 

 ネットは、メロン内部の肥大が大きくなり、表面が耐えられずにひび割れて、割れ目から果汁が染み出してコルク化して固まったもの。大体、交配後15日位で出始め、はじめに縦,次に横にひびが入り約1週間でネットの形成が終わる。ひび割れは、水やりを多くすると大きくなる。ちなみにメロンの栽培日数は、苗を植えてから3カ月余り、最後は何度も玉ふきをすることにより美しい果面に仕上がる。ネットがきめ細かく浮き上がる様に発達したメロンは、手入れがよいことから品質もよく、甘味ものる。

 

苦いメロン(バラ色カビ病)

 

 Trichothecium Roseum という糸状菌が果肉に侵入して起こるもので、しびれるような苦みがある。菌は果面の細かな亀裂から侵入して局部的に腐らせるもので、初期の段階では果皮の一部が水浸状にくぼむ程度、表皮の薄いアムスやタカミに発病が多く、スイカ,桃,リンゴにも発生する。対策としては未分解たい肥の投入は避け、収穫2週間前に殺菌剤を散布、収穫後の残さは処分すること。

 

メロンパン

 

 パン生地の上に甘いビスケット生地をのせて焼くのが特徴で、当初は洋食店などで使われるライスを成型するのに用いる食型で成型して焼き上げていたため、表面には数本の溝が付き紡錘形をしていた。現在は紡錘形のタイプと円形のタイプとそれ以外の形のタイプに分かれる。関西ではサンライズという。

名前の由来は、①表面に付いた数本の溝の形がマクワウリ(当時はメロンとして売られていた事実がある)に、似ていることからメロンパンと呼ばれた。②パン生地の上にかける「メレンゲ」がなまった。③表皮のひび割れの模様がメロンに似ていた、など。生い立ちは、①明治末頃に帝国ホテルに在籍したイワン・サゴヤンという料理人が作り、町のパン職人が庶民のおやつ用としてアレンジした。②明治末ごろ、先発の新宿中村屋と銀座木村屋に上野,神田の後進組も加わった新商品開発競争の中で産まれた、などの説がある。

 

(1) アールス・フェボリット Earl's Favourite

 

 日本のマスクメロン(温室栽培,ネットタイプ)のほとんどはこれで、大正14年にイギリスのカーター商会から輸入したのが始まり。通称はアールスといい、今では周年栽培され季節にあわせて春系,夏系,秋系,冬系があり、さらに細かく分化されている。アールスはつるが丈夫で病害虫に強く結実も良好、また甘味が強く日持ちがよいことから人気を呼び、一躍温室メロンの主役にのしあがった。果形は正円または長円で、果肉は淡い緑色、果色は銀ねず色の網目でおおわれている。芸術品といわれるほど、作る人の丹精を要求する神経の鋭敏な果物でもある。年間を通じて贈答用に引合いが多く、1980年代には飛ぶように売れたが、バブル崩壊後はギフト需要の落ち込みで生産量も価格も低迷したままである。2022年の栽培面積は596ha,収穫量は16,400t、収穫量構成比は、①静岡34.9%,②愛知23.9%,③茨城19.5%、そして高,,千葉,福井…と続く。


 

マスクメロン Musk melon

 

 マスクメロンの栽培には地温20~25℃、気温は夜間18℃以上,日中でも28~32℃ぐらいの高温が必要で、1本から1個の実しかとらない。こうした栽培でなければ香りが尊(とうと)ばれる良質の果実はえられず、温室果実の代表的な作物である。マスク=仏語ムスクとは麝香(じゃこう)の意味で、よい香りを持つものにこの名を付けることがありマスクメロンやタチジャコウソウ(タイム)などがそうである。

 

ジャコウジカ

 

 麝香(じゃこう)とは雄のジャコウジカなどの生殖腺からの分泌液を乾燥させた香料であり、漢方薬である。麝香の採取のためジャコウジカは絶滅の危機に瀕し、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約・1975年に発効、我が国は1980年に締約国となった)により商業取引は原則禁止された。漢方では興奮作用や強心作用の効果があるとされ、宇津救命丸,救心などに現在も使用されているが、これは,「ワシントン条約批准以前からある備蓄原料を使用」とのメーカー回答でした。

 

バブル崩壊とメロン

 

 日本経済は1973年12月から続いた安定成長期がバブル景気(1986年12~1991年2月)の好況を最後に終わった。バブル崩壊(1991年3~1993年10月)は景気後退期で、平成不況や複合不況とも呼ばれる。そしてそのまま失われた20年と呼ばれる低成長期に突入、それによって世界的には経済のグローバル化、新興国の台頭などにより我が国はかつての経済的な優位性を失った。国内的には消費や雇用に悪影響を及ぼしデフレーションになった。2012年12月アベノミクスとともに始まったいまの景気回復は6年2か月(2019.1.29)となり、「戦後最長になった可能性が高い」と発表した。だが、今回の景気回復は経済成長率が実質で1.2%と全国民が実感できるレベルにはほど遠く、景気回復の実感が「ない」と多くの人が答えている。そして2019年12月以降の新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患(COVID-19)が中国の湖北省東部の武漢市から流行し、2022年5月11日時点で全世界で5億1.873万人以上の感染者と625万人以上の死者が出ている。

 

   そうした中で、年間を通じて贈答用に引合いが多かったアールスメロンやマスカット・オブ・アレキサンドリア,ハウスみかんなどが、バブル崩壊後はギフト需要の落ち込みで生産量も価格も低迷したままである。果物に限らず野菜でも、高級料亭など業務需要で使われていたウド,葉生姜,わさび,ゆりねなどが同様に需要が落ち込んでいる。

 

 

(2) クインシー

 

   横浜植木株式会社が、ボレロ×アールス夏系7号の後代固定系にスーパラチブを交配、これに新豊玉の固定系×ふかみどりの固定系を掛け合わせて1989年に命名発表した。果肉は明るいオレンジ色で、果皮のグリーンとのコントラストが美しく緻密で、糖度は16度以上で安定して食味がよい。日持ちがよく発酵,過熟の心配がない。消費の多様化の中で赤肉メロンが全国的に注目され産地が拡大している。

 

(3) アンデス

 

   サカタのタネが昭和52年に、(コサック×リオゴールド)×(アールスフェボリット×ハネデュー)

として育成した。農家が「安心して」作れて消費者も「安心して」買えるということから、「安心ですメロン」を略して「アンデス」と名付けられた。果皮はアールスより濃い灰緑色で熟すると黄緑色になり、糖度13~18度と甘く食味もよく、当初はコサックに置き代わって全国的に栽培され、今ではプリンスを抜いてトップバッターとなっている。

 

(4) タカミ 貴味

 

   日本園芸生産研究所が、アムス×(アールス×ロッキーフォード)×台湾系品種の組み合わせとして1990年に育成した品種。果実は豊円形で果皮は濃緑色、ネットは薄い、果肉は黄緑色、糖度は16度と高く食べ頃が長い特徴がある。出回りは5月下~8月上旬。

 

(5) レノン

 

   タキイ種苗が(パンナの母系×アメリカのキャンタロープ)×(ティアラ×パンナ)の交配として作出、2004年に命名、発表された。赤肉メロンは増加傾向にある中で、低温でも肥大がよく皮ぎわまで赤く色付き果肉が厚い。日持ちもよく、市場性に優れる。産地は茨城、栽培面積が拡大したのは近年で、東京都中央卸売市場のデーターが出てきたのは2022年からです。

 

(6) プリンス

 

 坂田種苗が、日本在来のマクワウリとシャランテ系(ヨーロッパ型のウインターメロン)を交配して生まれた品種で、昭和37年に登場した。従来のマクワウリに比べ、甘味と芳香,外観とすべての点について優れているため市場に高く評価され、全国的に栽培が普及、大衆メロンとしての確乎たる地位を築いた。果肉は強い芳香があり、オレンジ色で果皮の近くは緑色,果皮は灰緑白色。成熟すると糖度は平均14度、高いものは17~18度にも達する。

 

(7) オトメ Otome

 

 タキイ種苗がボーナスメロン×アールスメロンの交配として作出、1995年から千葉県旭村で試作を行い、1999年に大島種苗店が発売することになって、OOSHIMA TAKII ORIGINAL MELONの頭文字をとって命名された。初出荷は2000年4月から。果実は球形でネットが密にきれいに発生するので外観がきれいで、果肉はホワイトグリーン、糖度は15度以上ですっきりとした上品な甘さで安定している。

 

 

 

(8) アムス

 

 日本園芸生産研究所が、アールス,ロッキーフォードにオーゲン(オランダから導入)を交配して昭和49年に育成、オランダの首都のアムステルダムにちなんでアムスと名付けた。果皮は緑色で縦縞が入り、外観の見栄えはよくないが、果肉は白緑色で肉厚,多汁で食味がよい。

 

 

(9) 夕張(ゆうばり)

 

 北海道農業試験場が、アールスとアメリカのキャンタロープ・スパイシー(ネット露地型)を交配して、昭和15年に北海道キング系メロン(札幌キングともいう)を育成した。実際の栽培は、気候,風土の合った夕張地方で昭和34年ごろから初められ、夕張メロンの名前が一般的になった。果肉は赤肉(サーモンオレンジ)で、格調高い香りと口に入れたときのなめらかさが特長,食べ頃は表皮が黄色く色付き始めたころで、収穫後2~4日くらいと日持ちが悪い。うどんこ病耐病性,つる割れ病抵抗性のいずれも欠如している。夕張農協で夕張メロンの商標登録をとったことにより他地域ではこの名前が使えない。出回りは6~7月。

夕張メロン/栽培と夕張農協での選果風景

 

北海道のメロン

 

 メロンの栽培面積は2022年で5,790haと1991年の18,100haに比べて32.0%と1/3以下に減少している。 これは消費者から見ると他の果物との競合や食べ頃がわかりづらく、品質のばらつき・当たり外れがある。生産者からは高齢化や価格低迷による野菜への転作があげられる。その中で北海道は茨城,熊本に次ぐ3番目の位置づけとなっている(2020年度までは茨城に次ぐ栽培面積であった)。

 

  抜群の知名度を誇る夕張メロンをはじめとして北海道では昔から赤肉メロンが栽培されてきた。格調高い香りと口に入れたときのなめらかさが特徴の夕張メロン、たっぷりの果汁で肉質は細かく日持ちのよいルピアレッド、ルピアレッドに近く果肉が厚く香りよく糖度も高いテイアラ,レッド113などが中心品種となるが、大玉比率が高いことから1玉単価も高く、道内での観光消費や直売,ギフト向け販売が主体である。このほかにマスクメロンを思わせる青肉のG-O8(暑寒メロンなど)がキングメルティーの後継品種として栽培されている。

 

 

 

(10) ルピアレッド

 

  みかど育種農場が、IK(アイケイ)(夕張(ゆうばり)メロンの系統)×アールスにアンデスを交配して1990年に育成した品種で、うどんこ病耐病性,つるわれ病抵抗性がある。日持ちのよさはアンデスに由来し、赤肉はIK,きれいなネットはアールスによるもの。食べ頃は収穫後3~7日目位で表皮が変化しないのでみた目ではわかりづらいが、ツルが枯れて全体が弾力を帯びたころ。日持ちのよいことから北海道では主力品種として栽培されている。出回りは6~8月。


                      《 北海道・ようてい農協メロン選果場 》

 

(11) キングメルティ

 

 大学農園がロッキーフォードにアールス夏系を交配,育成したもので、昭和48年に命名される。果肉は淡緑色で柔軟多汁,食べ頃は表皮が黄色く色づき始めたころ、産地は北海道、出回りは7~8月。日持ちが悪く発酵しやすいことから改良品種のG-O8(大学農園)が主力となっているが、これも葉が白くなりやすく光合成が出来なくなって枯れてしまううどんこ病に弱い。出回りは9~10月。



(12) その他

 

①キンショウ…奈良県農業試験場が昭和42年、日本在来のマクワウリとスペイン系テンドラルアマリーロ(ヨーロッパ型のウインターメロン)とを交配させてできた品種。奈良の古寺のつり鐘にちなんで、金鐘(きんしょう)と名付けられた。黄色の美しい果皮が特長で味は淡泊、栽培が容易で日持ちもよい。産地は茨城,神奈川,熊本,千葉、出回りは5~6月。

 

 

エリザベス…みかど育種農場が、ハネデュー,黄まくわ,東洋系まくわ,ロッキーフォードを交配させてできた品種で、生産が始まったのは昭和44年からである。果皮は黄色で果肉は白、肉質が厚く香りがよいのと糖分が高いのが特長で、真円に近い形をしている。

 

 

 

③パパイヤ…愛三種苗が、南ヨーロッパ系メロンとスペイン系メロンを交配して昭和55年に発表したもので、果皮がパパイヤに似て黄色に緑斑が入っている。果肉は白色で食味は良好、栽培しやすく日持ちもよい。

 

 

 

④しらゆき…大和農園が、ニューメロン×アールス×ハネデューに、さらにハネデューを交配した

 

もので、昭和46年に発表された。果皮は乳白色で美しい外観で、1617度と高い糖度,日持ちのよさが特長である。

 

 

 

⑤アイボリー…日本園芸生産研究所が、ハネデュー×フレームに、さらに中国系ハネデューを交配したもので昭和46年に育成。果皮は名前のとおり象牙色をしている。

 

 

 

⑥コサック…日本園芸生産研究所が、ソビエト系夏メロン,アールス,ロッキーフォードの交配種で、昭和45年に発表。果皮は網目があり青黒く見栄えはあまりよくない、しかし果肉は緻密で味がよく、昭和50年代の生産量はプリンスに次ぐものであった。

 

⑦まくわうり…中国,朝鮮を経由してわが国へ渡来、弥生時代の遺跡から種が出土している。マクワウリの名前は、美濃国真桑村(今の岐阜県本巣郡真正町)で良質なものがとれたので「真桑(まくわ)の瓜」とつけられた(本朝食鑑・元禄5年)。長い間愛好され、その人気は昭和37年のプリンスメロンの発表まで続く、現在も北海道では改良種の北海甘露(かんろ)が栽培されている。

 

⑧ティアラ…タキイ種苗が{(キャンタロープ×夏系アールス)後代の赤肉系統×春系アールス}×(アールス夏系×アールスセイヌ秋冬系)として作出、2001年に発表をした。赤肉のアールスメロンで、果実は球形,ネットは太く盛り上がりバランスよく発生し、品質が安定している。低温肥大性に優れ耐病性があることから、本州では秋冬系であるが北海道で夏場のメロンとして増産されている。出回りは7~8月。