14. 中・晩柑

 

 温州みかん以外の柑橘を中・晩柑と呼んでおり、年内から翌春以降までを熟期とする多くの品種を含んでいる。これらのほとんどは、遺伝子分析から見るとぶんたんとマンダリンとの雑種と考えられ、伊予柑にも何代か以前にぶんたんが交雑していると思われる。ゆずは独立の遺伝子で、すだち,かぼすなどにはゆずの遺伝子が見いだされる。これらも次のように分かれる。

①早生柑橘…温州みかん(極早生温州,早生温州,普通温州)

②中生柑橘…伊予柑,ポンカン,八朔,文旦,ネーブル,きんかん

③晩生柑橘…デコポン(不知火),甘夏,清見,タンカン,はるみ,河内晩柑,肥の豊,セトカ,日向夏,紅まどんな(愛媛果試第28号),甘平,セミノール  

④香酸柑橘…ゆず,かぼす,レモン,すだち,だいだい,シークワーサー

  中・晩柑の2021年の栽培面積は、19,574ha,収穫量は273,365tです。品種別栽培面積構成比は、①しらぬい・不知火(デコポン)12.4%,②ユズ11.3%,③伊予柑8.7%,④八朔7.4%,⑤ポンカン7.4%,⑥甘夏柑7.1%,⑦タンカン4.0%,⑧清見3.8%,⑨レモン3.8%,⑩カボス2.8%,⑪河内晩柑2.5%,⑫肥の豊2.3%,⑬ブンタン2.3%、そしてハルミ,シークワーサー,セトカ,スダチ,甘平,ネーブルオレンジ,日向夏,紅まどんな(愛媛果試第28号),キンカン,ハルカ,ハレヒメ,カラ,オオタチバナ,セミノール,ナツミ,バンペイユ,ダイダイ,紀州ミカン,レイコウ,セトミ,スイートスプリング,田熊スダチ…と続く。5年前の2016年と比べたときに栽培面積は91.7%と減少、増加しているのは,レモン,河内晩柑,肥の豊,シークワーサー,せとか,甘平,紅まどんな,レイコウ,田熊スダチ,津之輝,ヘイベイズ,タロッコなどである。

これからの中・晩柑に求められる要件としては、①食べやすさ…皮がむきやすく果肉を包むじょうのう膜ごと食べられることと、②食味のよいこと…糖度が高く酸が適度で肉質は柔軟多汁で完熟栽培であること。

 これからの中・晩柑に求められる要件としては、①食べやすさ…皮がむきやすく果肉を包むじょうのう膜ごと食べられることと、②食味のよいこと…糖度が高く酸が適度で肉質は柔軟多汁で完熟栽培であること。

 

タンゴールとタンゼロ

 

 ①タンゴール(Tangor)とは、みかん類(Tangerine)とオレンジ類(Orange)の交雑によって育成された雑種で、伊予柑,タンカン,マーコットが属する。②タンゼロ(Tangelo)とは、みかん類と文旦類(Pummelo)との交雑によって育成された雑種で、セミノール,オーランド,ミネオラ,ヤラハなどが属する。③タンゼリン・タンゼロ(Tangerine-tangelo)とは、タンゼロにもう一度みかん類を交配して育成した2代目雑種のことで、ロビンソン,リー,ノバ,フェアチャイルドなどが属する。

 

(1) シークーサー

 

 沖縄が原産のミカン科、和名はヒラミレモンで古くから沖縄,奄美大島,台湾に自生する。遺伝子分析の結果からは、タチバナと中国産マンダリンの交雑から生まれたとされる。シーは酸,クーサーは食べさせるの意味がある。果実は直径3~4㎝の橙黄色をして、果肉は柔らかく多汁だが酸味が強く生食もできるが、夏場に未熟果をスダチやカボスと同じように果汁を絞って、焼き魚やフライ,ドレッシング,ポン酢としたり果実飲料(昭和40年代より始まり収穫量の拡大につながる)とする。特有の香りとさわやかさが特長である。

 

 ミカン類の害虫であるミカンコミバエのために生果での県外出荷はできなかったが、1985年にミカンコミバエの根絶が確認されて今は可能である。2002年に日本ガン治療学会でシークーサーに含まれるノビレチン(柑橘特有のフラボノイドの一種)がガン細胞の増殖や血圧上昇の抑制をすると発表したことから注目されている。とくにシークーサーにはほかの柑橘に比べて2~12倍も多く含まれている。生産には隔年結果が出やすく、豊作と不作の差が鮮明に現れる。

2021年の栽培面積は424ha,収穫量は3,880t、産地は沖縄である。

仲本シードレス…沖縄県名護市の仲本氏の園で、昭和35年頃に勝山クガニー系統の突然変異でできた種なしシークーサーが発見され、2009年に品種登録された。果実に種がなく、成熟が早く、優れた芳香は沖縄料理や西洋料理などの付け合わせ、そしてカクテル素材などに11月下旬から利用できる。

 

選び方と保存  果皮が橙黄色、保存は涼しい所へ、絞って保存も可能。

旬  夏~秋。

 

*名前の表記について…日本果汁協会ではシークーサーと表記。日本食品標準成分表の1991年ではシイクワシャー,2015年ではシークーサーと表記。日本農林規格,食品表示法,特産果樹生産動態等調査(農林水産省)ではシイクワシャー,沖縄県中央卸売市場の発行物ではシークァーサーと表記されている。 

*名前の由来について…クーサーは食べさせるの意味の他に漬けるの意味があるとも言われ、芭蕉布(ばしようふ・イトバショウの繊維を使って織られた布で、沖縄県・奄美群島の特産品)を織り上げた際に、未熟なシークヮーサーの果汁に漬けて、酸で柔らかくしていた。

 

(2) すだち  酸橘

 

 ゆずの偶発実生で、近年の遺伝子解析により母系はブンタン類の遺伝子を受け継いでいることがわかった。古くから徳島県で栽培され、商業栽培が始まったのは昭和40年代に入ってから。今でも徳島県で9割強の収穫量がある。果実は濃い緑色で、直径4㎝くらいで丸くゆずより小ぶりであるが、果汁がよくでてその酸味がさわやかで香りが柔らかい。周年出荷されるが8~10月が多く、ちょうど松茸の季節で味を引立てるため需要も多く、ほかにめん類の薬味や魚に添えたり、レモンの代わりに用いる。まつたけ料理にはゆずも用いられるが、果汁はこのスダチの方がよく出ることから、「柚子(ゆず)より酸橘(すだち)」(氏(うじ)より育ち)といわれるゆえんである。

2021年の栽培面積は388ha,収穫量は4,104t、収穫量構成比は、徳島98.9%、そして高知,愛媛…と続く。

選び方と保存  果皮が濃い緑色ではりがあってみずみずしいもの。保存は冷蔵庫へ、絞って保存も可能。

旬  8~10月。

 

(3) かぼす   香母酢

 

 大分県で古くから栽培され、9割の収穫量を持っている。果実は50~100gで球形、果皮はあらく緑色、果肉は柔軟多汁で酸味が強く香気がある。鍋物やフグ料理などの、日本料理の調味料としてよく合う。果実は3月下旬からハウス物、7月中旬から露地物、10月中旬から貯蔵物と周年出回る。

2021年の栽培面積は548ha,収穫量は5,977t、収穫量構成比は大分98.7%、そして福岡,宮崎…と続く。

祖母の香(そぼのかおり)…大分県緒方町の後藤正彦氏が昭和50年に、無核カボスとして発見、59年に祖母山にちなんで命名した。

 

選び方と保存  果皮は緑色、保存は涼しい所へ。

旬  8~11月。

 

 

(4) ゆず   柚子

 

 中国の長江上流が原産で、わが国には奈良時代に書かれた「続日本紀」797年、もしくはそれ以前に伝わったと言われ各地で栽培されている。柑橘の中では耐寒性が強く東北地方まで分布している。果実はでこぼこで果皮に芳香があり、皮を薄く切って吸い物に、また刻みおろしやすりおろして香味に使う。果肉は酸味が強くて食べられないが、果汁は食酢として鍋物に使う。3月からハウス物,8月からは露地物,10月下~3月まで成熟果の黄玉と周年出回る。青ゆずとして果皮を利用するときは、7月下~8月中旬が最盛期となる。

2021年の栽培面積は2,218ha,収穫量は22,918t、収穫量構成比は、①高知51.3%,②徳島12.2%,③愛媛11.7%、そして鹿児島,宮崎,大分,和歌山,熊本,山口,埼玉,兵庫,島根…と続く。

多田錦…徳島県名西郡神山町の多田謙一氏が昭和32年頃、島根県津和野町の寺にあった種子の少ないゆずの実生を育成した無核ユズで、昭和52年に登録された。果実は90~130gで、果汁が多く香りも高い。

 

選び方と保存  黄色の果皮ではりがあるもの、保存は涼しい所へ、皮だけを千切りにして小分けをして冷凍保存が便利である。

旬  11~12月。

香酸(こうさん)カンキツ

 

 酸味が強く香りのよいカンキツの総称で、カンキツ類,レモン類,ライム類,ダイダイ類がある。地域特産果樹として各地域を中心に古い食文化の伝統をにない、ユズ,スダチ,カボス,レモン,シークワー­サー,ユコウ,スダイダイ,ジャバラ,ヘイベイズ,キズ,ジャバラ,ライムなどがあげられる。果汁,果皮を利用して食欲増進や料理のアクセントとしての役目を持っているが、それらのほとんどが県内消費で終わっており、需要拡大が課題としてあげられる。ここにきて、村おこしの素材としてジュースや各種の加工製品の販売も広がっている。

 

ゆずのジャム

 

 ビタミンCがたっぷりで爽やか、風味がよく、パンにつけるのはもちろんのこと、風邪を引いたときなどお湯に溶かして飲むとよい。

材料 柚子1Kg,砂糖500g(グラニュー糖がよい) ,ホーローかステンレスの大きめな鍋。 

①半分に切ってスプーンを使って皮と果肉に分ける。②皮は細く刻み、軽く湯がいて水気を切る作業を3~4回繰り返す、これで苦みは無くなる。時間のあるときはときどき水を替えながら、たっぷりの水につけて一晩置いてもよい。③果汁は絞って、果肉(タネと白いわた)は荒く切りゆでてザルで漉し、煮汁を取っておく。これで煮汁の中にペクチンが抽出されてジャムに加えることによって固まりやすくなる。④ゆずの皮,果汁に、煮汁をひたひたになる程度に入れて煮詰める。はじめから砂糖を入れると皮が柔らかくならないので2~3回に分けていれる。⑤アクを取りながら焦がさないように煮詰め、とろっと重たく感じてきたら、火を止めて出来上がり。(冷めると少し硬くなる)⑥保存するビンとフタは、沸騰させた中に1分以上入れてから自然乾燥。ジャムが熱いうちにビンに入れ、すぐにフタをして、荒熱が取れるまで逆さまに置いておく。

 

 

(5) だいだい  

 

 ヒマラヤ地方が原産で、代々(だいだい)とも書き回青橙(かいせいとう)ともいう。果実は150~200gで果皮は濃橙色、豊産性で作りやすい。ふつう、みかん類の未熟果は緑色だが、成熟するにつれて葉緑素が失われて固有の色を出してくる。しかし、種類により樹上で一度着色したものの果皮に葉緑素が再生して緑化することがあり、これを回青現象という。だいだいがこの回青現象を起こし、初冬に黄変した果実を樹上に放っておくと翌年ふたたび緑色となり、「代々」同じことを繰り返して大きく成るので「相変わらず」として喜び、縁起物としてお正月のしめ飾りに使われる。果汁は風味がよいことからポン酢の材料として使われ、皮はママレードの原料や七味唐辛子や薬用となる。家庭でも果汁を絞ってしょうゆと混ぜることで簡単に自家製のポン酢を作ることができる。

2021年の栽培面積は66ha,収穫量は741t、収穫量構成比は、①静岡30.4%,②和歌山20.1%,③広島20.0%、そして高知,三重,愛媛,佐賀…と続く。

 

選び方と保存  果皮が濃橙色、持って重たいもの。保存は涼しい所へ。

旬  10~1月。

 

(6) きんかん   金柑

 

 中国が原産で和名を姫橘(ひめたちばな)といい、柑橘の中ではもっとも小さい。わが国へは遣唐使や仏僧によって入ったと見られ、庭訓往来(ていきんおうらい)(室町初期)に記されている。文政9年(1826年)に中国・寧波(にんぽう)の商船が台風にあい、静岡県の清水港に寄港した際にもたらしたのが寧波(ニンポウ・ネイハ)きんかんで、別名,明和(めいわ)きんかんともいわれ代表的な品種である。ほかに、長実(ながみ)きんかんがある。種が多く食べにくいといった欠点を補う新しい品種として、ぷちまるが1999年に登録された。

 

 果実は球,だ円形で12~13gあり、「まんじゅうもろたら皮あげよ、きんかんもろたら実をあげよ」と子供達がいって遊ぶきんかんは、果肉は酸味が強いが果皮は甘く芳香があるので皮ごと食べる。果肉、果皮とも各種の無機質やビタミンを含み、とくに果皮にCが多く、100g中200㎎といちごの約3倍も含まれている。風邪によく効くといわれ、生食のほか甘露煮,砂糖漬け,ジャム,ママレード,果実酒などに利用される。

2021年の栽培面積は178ha,収穫量は3,579t、収穫量構成比は、①宮崎71.5%,②鹿児島22.8%、そして熊本,佐賀,和歌山,静岡…と続く。

選び方と保存  果皮が橙黄色ではりのあるもの、保存は涼しい所へ。

旬  12~3月。

完熟きんかんと宮崎

 

 宮崎県では、1981年の大寒波で露地栽培のきんかんは大打撃を受け、これがハウス栽培を始めるきっかけとなった。開花結実後、210日を目標に樹上完熟させることで生のまま皮ごと美味しく食べられる。その後1987年に完熟きんかんとして東京市場への出荷を開始すると共に、品質基準の統一を図り、宮崎ブランドの先駆けとなる。2010年の出荷より糖度18度以上・直径3.2cm以上(2Lサイズ)を「たまたまエクセレント」、糖度16度以上・直径2.4cm以上(Mサイズ)を「たまたま」と名称を変更してさらなる飛躍を図っている。出回りは2月上~3月中旬まで。

 

ぷちまる

 

 農林水産省興津支場がタネがなくて食べやすいキンカンの育成をめざして、昭和62年に2倍体のナガミキンカンに4倍体のニンポウキンカンを交配、1999年に登録された。名前の由来は、小粒で丸く愛らしいことからきている。果実は長球形で平均11gだが、沖縄県などの暖地や施設栽培では20g程度に肥大する。果皮は濃橙色で滑らか、甘味が強く苦味がなく食味はよい。種はほとんど無いが、しいなが1~2粒ある。栽培においては、着果が不安定なことからなかなか産地化が進んでいない。成熟期は1月。

 

きんかんの甘露煮

 

 風邪をひいたときにコップに甘露煮を数個入れ、お湯を注いで飲むとのどがスッキリして、咳(せき)が和らぐ、好みでショウガのすりおろしを少し入れると体が温まり風邪の予防にもなる。またデザートとしてアイスクリームに添えたり、ケーキのトッピングにもおいしい。材料としてキンカン500g,グラニュー糖250g,白ワイン250cc。キンカンを水で洗い、白ワイン,グラニュー糖を入れ中火にして沸騰する直前にごく弱火にして25~30分程コトコトと煮る。これで火を止め、熱湯消毒したガラス密閉容器などに移して冷蔵庫で保存する。丁寧にするなら、味がしみ込むように、縦に浅く数ヶ所切り目を入れて鍋につかる程度の水を入れ中火,弱火にして10分位の下ゆでをして冷水にさらす、くわえて種を切れ目から竹串などで取り出すとよい。

 

 

(7) はれひめ

 

 農水省果樹試験場興津支場で1990年にE-647(清見×オセオラ)に宮川早生を交配して育成、2001年に登録された。果実は平均180g位、果皮は橙色でやや厚いが柔らかくむきやすい。糖度は10度内外で比較的低いが、減酸が早くオレンジ様の風味があり、じょうのう膜が薄く種子が少なく食味は良好である。

2021年の栽培面積は127ha,収穫量は1,468t、収穫量構成比は愛媛80.4%、そして広島,愛知,和歌山,徳島…と続く。熟期は12月上旬で年内販売が可能

 

(8) 紅まどんな

 

 愛媛県立果樹試験場で1990年に南香(三保早生×クレメンタイン)に天草{(清見×興津早生)×ページ}を交配して育成、2005年に登録された早生のタンゴール。愛媛果試第28号。果実は250gと大きく伊予柑とほぼ同じだがやや腰高ぎみ、果皮は濃橙色で滑らかで薄く、じょうのう(袋)も薄い。果肉はゼリーのように柔らかく果汁が豊富、糖度は12~13度と高く、期待の品種である。果皮が薄いことから皮はむきづらいので、果物ナイフでオレンジのように櫛形にカットしてフレッシュな香りと共に食べるのがよい。風による葉の擦れと、雨による実割れを起こさないようにハウス栽培される。愛媛県独自の品種として管理され、糖度,酸が規定の基準に達したものを「紅まどんな」、基準に満たないものは「愛果(あいか)28」として販売される。

2021年の栽培面積は299ha,収穫量は4,266t、産地は愛媛。

選び方と保存  濃橙色の果皮で光沢があるもの。保存は涼しい所へ。

旬  12月上~1月中旬なのでお歳暮などの贈答品としても最適。

 

(9) 文旦(ぶんたん)  Pommelo

 

 インドのアッサム地方原産のみかん科の果樹で、熱帯から暖帯の南部に分布し東洋の特産である。わが国では、ザボン,ボンタン,ウチムラサキとも呼ぶ。その種類も産地により、高知・土佐ぶんたん,水晶ぶんたん,鹿児島・阿久根ぶんたん,熊本・晩白柚,長崎・平戸ぶんたんといろいろ。果実がきわめて大きく珍しさと独特の風味が珍重されて、各地で特産品として贈答用,みやげ物,ママレードなどに利用されている。

2021年の栽培面積は1,134ha,収穫量は22,946t、収穫量構成比は、①愛媛39.8%,②高知37.7%,③熊本19.1%、そして鹿児島,和歌山,宮崎,大分…と続く。

*農林水産省のHPより特産果樹生産動態等調査/2021年産のオオタチバナ+河内晩柑+バンペイユ+文旦を合計とした。

選び方と保存  果皮にはりがあって重たいもの、保存は涼しい所へ。

旬  12~4月。

①バンペイユ・晩白柚…マレー半島が原産でぶんたんの仲間。大正9年に島田弥市氏によってベトナムから台湾に導入、わが国へは昭和5年に鹿児島へ伝えられた。果実は2㎏前後の大果で果皮は淡黄白色、果肉は淡い黄緑色で柔軟多汁、芳香があって食味がよく独特の風味を持っている。熟期は2~3月であるが収穫は12~1月で、出荷は2~4月。2021年の栽培面積は77ha,収穫量は843t、収穫量構成比は、熊本96.7%、そして鹿児島,大分と続く。

 

②阿久根文旦…中国の朱印船が難破し、その時に船長の謝文旦が通訳に贈った果実の枝変わりといわれる。本田文旦が正式名称だが、産地の鹿児島県阿久根市にちなんで、この名の方が知られている。果実は800g~1㎏で果皮は黄色,果肉は淡紅色、文旦漬けの原料となる。

 

③オオタチバナ(大橘)…鹿児島で古くから栽培されている文旦の一種で、果重は600gとバンペイユほどの大きさはないがずっしりと重く、独特の甘い香りがして濃厚でみずみずしく、厚い外皮を剥いて、中袋から果肉を取り出して食べる。これから分化したのが土佐ぶんたんである。2021年の栽培面積は117ha,収穫量は1,885t、産地は熊本83.3%、そして鹿児島。

 

④土佐文旦…鹿児島県清水町の法元氏の園でオオタチバナと同一品種あるいは同一グループの文旦として発見され、昭和4年に高知県農事試験場が法元文旦のラベルで苗木をつくり植えたものが原木、土佐市,南国市,須崎市で栽培されている。果実は350~400gで偏平、果皮は淡黄色で滑らか。12月中~下旬に収穫して、酸が抜ける3~4月に出荷される。

*農林水産省のHPより特産果樹生産動態等調査/2021年産を見ると、文旦として高知県の栽培面積は424ha、収穫量は8,455tとあるので、これが土佐文旦と思われる。

 

⑤平戸文旦…ジャカルタから1845年に渡来し、気候のあった長崎県平戸市で特産品として栽培されるようになったもの。果実は1~1,4㎏で偏球形をしており、果皮は黄色で滑らか。果肉は柔軟多汁で風味がよい。12月に収穫して、3~4月に出荷される。

 

⑥水晶文旦…高知県室戸市吉良川町の戸梶清氏が昭和27年ころ、土佐文旦×不明として育成された。果実は400g前後で果皮は黄白色からやや橙色、光沢があり滑らか。果肉は柔軟多汁、やや苦味がある。

 

⑦河内晩柑(かわちばんかん)…熊本県河内町の西村徳三郎氏の裏庭で、大正年間に文旦の偶発実生として発見された。ジューシイオレンジの別名がある。果実は200~400g前後で果皮は黄色で滑らか、果肉は柔軟多汁で特有の風味がある。糖度はそれほど高くないが、糖酸のバランスがよく評判がよい。愛媛県の南宇和郡御荘町では実生みしょう柑かんとして販売していたが、2004年,平成の合併で愛南町となり、2007年3月からは愛南ゴールドとして販売している。2021年の栽培面積は488ha,収穫量は11,332t、収穫量構成比は、①愛媛78.7%,②熊本17.6%、そして高知,鹿児島,和歌山…と続く。

 

(10) 伊予柑

 

 現在、主力となって出回っているのは、宮内伊予柑と呼ばれる伊予柑の枝変わりである。これは愛媛県松山市の宮内義正氏が昭和26年に発見、41年に登録された。早生伊予柑とも呼ばれ、昭和51年ころより出荷が本格化、今では伊予柑といえばこれを指すようになった。

 

 果実は普通伊予柑よりやや大きく、果皮が薄く種子の数が少ないので食べやすく、早くから風味がよい。結果年令が早く豊産なことから採算がよく愛媛を中心に増殖されたが、1988年をピークに減少傾向となっている。収穫は12月上旬にほとんど収穫され、年末から3月にかけて出荷される。

2021年の栽培面積は1,7091ha,収穫量は23,576t、収穫量構成比は愛媛91.7%、そして佐賀,和歌山,静岡,山口,鹿児島,広島,大分,熊本…と続く。

選び方と保存  赤橙色の果皮で光沢があるもの。保存は涼しい所へ。

旬  1~3月。

①普通伊予柑…山口県阿武郡東分村(現在の田万川町)の中村正治氏が明治19年に、みかん類とオレンジ類の自然雑種(タンゴール)として発見した。明治中期から気候のあった愛媛県で特産品として栽培されるようになり、名前も当初の穴門(あなど)みかんから、愛媛の旧国名をつけて、伊予柑と改名した。果実は250g前後で、赤味を帯びた濃いだいだい色で光沢があり美しい、果皮は厚いがもろくむきやすい。果汁は多く甘酸の調和がとれ香気が高く大変風味がよい。熟期は12~1月で、貯蔵されて4月まで出回る。

 

②大谷伊予柑…愛媛県北宇和郡吉田町の大谷政幸氏の園で昭和47年に、枝変わりとして発見され、55年に登録された。果皮が非常に滑らかで今までのイメージを一変させ増殖されたが、現在は樹勢が弱く収量が少ないことから漸減している。果肉は糖分が高く、かためのため食べやすい。

 

 

(11) 肥の豊(ひのゆたか)

 

 熊本県農業研究センター果樹研究所で、1989年に不知火(デコポン)にマーコットを交配して育成、2003年に登録された。不知火の欠点が改善されて樹勢が強く栽培しやすい、減酸が早く早熟性で食味のよい品種となった。果皮はむきやすく果汁は多い,糖度も高く貯蔵性があり、早生デコポンとして売り出しをしている。

2021年の栽培面積は459ha,収穫量は7,330t、産地は熊本。

選び方と保存  もぎたてよりも少ししなびた方が甘さが増しておいしい、保存は涼しい所へ。

旬  1月下~2月上旬。

 

 

(12) ポンカン

 

 インド原産で、中国南部および台湾における主要柑橘である。わが国へは台湾を経て明治29年、田村利親氏によって鹿児島へ苗木が送られた。果実は200~250g前後と大きく果頂部がへこんでいるのが特長で、果皮,果肉とも濃い橙色をして柔軟多汁である。そして、酸は少なく甘味に富み香りが高い。今津,盛田,太田,吉田などの優良系統が選抜され、栽培には平均20℃くらいの無霜地帯がよい。

2021年の栽培面積は1,453ha,収穫量は19,092t、収穫量構成比は、①愛媛40.2%,②鹿児島13.4%,③高知12.3%、そして,熊本,和歌山,大分,宮崎,静岡,広島,愛知,長崎,佐賀,三重,山口…と続く。台湾からも輸入されている。

 

選び方と保存  橙色の果皮ではりがあるもの、保存は涼しい所へ。

旬  1~2月。

 

(13) 甘夏

 

 大分県津久見市の川野豊氏の園で昭和の始めに、夏みかんの枝変わりとして発見され、昭和25年に川野夏橙(かわのなつだいだい)として登録された。

 

 樹や花などはふつうの夏みかんと同じだが、糖度は9~10度,酸度1.5~1.8度と夏みかんよりは甘く果汁も豊富である。収穫は2月上~中旬であるが、寒害のおそれのある地域では12月下~1月に行ない、そして温度3~5℃,湿度90~95%で貯蔵して5月いっぱい出荷する。かつてはフロリダ産のグレープフルーツ、今はデコポンを初めとした多くの晩柑類に押されて、年々消費は減少している。2021年の栽培面積は1,394ha,収穫量は29,399t、収穫量構成比は、①鹿児島37.5%,②熊本21.3%,③愛媛18.2%、そして和歌山,三重,広島,静岡,大分,福岡,山口,愛知…と続く。

 

選び方と保存 果皮にはりがあってみずみずしいもの、保存は涼しい所へ。

旬 3~5月。

新甘夏

 

 熊本県芦北郡田浦町の山崎寅次氏の園で昭和37年に、甘夏の枝変わりとして発見された。生産地によって、サンフルーツ,ニューセブン,田浦オレンジとして出荷される。果実は300~400g前後、果皮はグレープフルーツに似てなめらか、酸味が少なく食味がよい。産地は愛媛,三重,広島。ふつうは2月に収穫して、3~4月に出荷する。

選び方と保存 果皮にはりがあってみずみずしいもの、保存は涼しい所へ。

旬 3~4月。

 

 

(14) しらぬい (不知火)  デコポン  

 

 果樹試験場口之津(くちのつ)支場が1972年、清見にポンカンを交配して育成した品種で、正式名称は不知火(しらぬひ) である。果実は200~280g,果皮は橙黄色で果皮は薄くむきやすい。ポンカン香があり果肉は橙色でじょうのう膜が薄く袋のまま食べられ、糖度14~16度と食味がきわめてよい。果実の成り口にデコが現われやすく、果皮色が淡い,果形が不揃い,果肉があらいといったことから選抜もれとなった。ただ、香り,食味のよいことから熊本県内で広がり、熊本果実連が登録商標,デコポンとして産地化させた。このデコは昼と夜の気温差が大きいハウス物はできやすく、露地物はデコがでづらい。本格的な市場出荷は1991年より始まり、1998年からは他産地でもこの「デコポン」の名前が使えるようになって(糖度13度以上、酸度1%以下を条件とし、それ以下は不知火(しらぬい)にて出荷)知名度が急速に高まるととともに、栽培面積も増加している。露地栽培では果実を樹上で越年させるために果皮障害や腐敗の発生が出るので、各産地とも施設栽培(無加温ハウス)を推進している。収穫適期は1月、酸味が強いので冷暗所で酸味が抜けてから出荷される。

2021年の栽培面積2,412ha,収穫量は36,597t、収穫量構成比は、①熊本29.0%,②愛媛20.8%,③和歌山15.5%,④佐賀8.5%、そして広島,鹿児島,長崎,大分,宮崎,愛知,三重,香川,福岡,静岡,徳島,大阪,高知…と続く。

選び方と保存  もぎたてよりも少ししなびた方が甘さが増しておいしい、保存は涼しい所へ。

旬  2~4月。

*デコポン®の商標は、熊本県果実農業協同組合連合会(JA熊本果実連)が所有し、青果については、日本園芸農業協同組合連合会傘下の農業団体(JA)及び柑橘生産のある農業団体(JA)に限り許諾したもので、その会員農業団体以外の商品には、デコポン®の名称使用は出来ません。こうしたこともあり、生産量が増えるとともに、不知火での出荷・販売が増えている。

 

 

(15) 八朔(はっさく)

 

 広島県因島市の恵日山浄土寺の境内で万延元年(1860年)ころ、ぶんたんと他の柑橘との雑種(タンゼロ)として生まれ、旧暦の八月朔日(ついたち)になると食べられるといわれ、八朔の名がついた。昭和に入って各地で栽培されるようになった。果実は350g前後、果汁はやや淡泊であるが糖分と酸の調和がとれ風味がよいので、肉質はややかたいが評判はよい。欠点として、貯蔵中のヤケ(虎斑(こはん)症)発生とトリステザウイルスに弱いことである。熟期は2~3月だが、寒害のおそれのある地域では年内に収穫して貯蔵される。甘夏,八朔の消費が低下しているが、これは皮が厚く、苦味がありさらに内側の皮(じょうのう)をむくわずらわしさが嫌われている。広島では果皮が紅色でジューシーな果肉の「紅八朔」、和歌山では2月上旬まで樹上で実らせた「木成り八朔」,無霜地帯で3月まで樹上で実らせた「さつき八朔」は味が抜群である。

2021年の栽培面積は1,454ha,収穫量は24,485t、収穫量構成比は、①和歌山72.2%,②広島17.9%、そして徳島,愛媛,静岡,香川,熊本,大分,大阪,奈良,福岡…と続く。

  八朔の枝変わりとして昭和26年に農間紅(のうまべに)八朔が発見された。果実は果皮が濃色で、果汁分,糖分ともに多く食味がよい。

 

選び方と保存  果皮が黄橙色、やけのないもの。保存は涼しい所へ。

旬  1~4月。

 

(16) はるみ

 

 農林水産省果樹試験場興津(おきつ)支場で清見にポンカンF2432を交配して育成、1996年に登録された。デコポンの兄弟だが、デコポンよりも果皮のキメが細かくつるっとしてデコが小さい。果実は250~300g、皮は簡単にむけて、じょうのうは薄くやわらかくそのまま食べられる。糖度は11~13度で食味はよい。ハウス栽培することによって、露地栽培で発生する果皮障害,寒害,隔年結果などが防止されるとともに大玉果の増加、果皮がなめらかになって果汁の減酸が早まるなどの利点が多い。熟期は12~1月。

 

2021年の栽培面積は446ha,収穫量は5,103t、収穫量構成比は、①広島25.4%,②愛媛21.6%,③和歌山19.0%、そして静岡,愛知,大分,香川,宮崎,福岡,佐賀…と続く。

選び方と保存 果皮にはりがあってみずみずしいもの、保存は涼しい所へ。

旬 2月。

 

(17) せとか   瀬戸香

 

 農林水産省果樹試験場口之津(くちのつ)支場で1984年に清見(宮川早生×トロビタオレンジ)×アンコールにマーコットを交配して育成、1998年に登録された。名前は育成地の長崎県・口之津から望む早崎瀬戸と瀬戸内地方での栽培が期待されること、そしてこの品種がオレンジ,アンコール,マーコットが混合したよい香りを持つことから付けた。

 

 果実は250g前後と大きく腰高の偏円形をしている。果皮は橙色から濃橙色でなめらかで美しく、皮は清見よりむきやすい。果肉は柔軟多汁,糖度13度で食味はよく、種がなく温州みかんのように袋ごと食べられる。2021年の栽培面積は394ha,収穫量は5,700t、収穫量構成比は愛媛67.7%、そして和歌山,佐賀,広島,長崎,三重,愛知,香川…と続く。

 

選び方と保存  果皮にはりがあってみずみずしいもの、保存は涼しい所へ。

旬  2~3月。

 

(18) 甘平 かんぺい

 

 愛媛県立果樹試験場で1991年に、西之香に不知火(しらぬい)(デコポン)の花粉を交配して2007年に品種登録をされて、甘く,形が平らなことから名付けられた。果実は大きく250gほどあり皮がむきやすく、果肉のじょうのう(袋)も薄い。その上、糖度が13~14度と高く,酸味が少ないので濃厚な味である。栽培上の欠点として、皮が薄いことから割れてしまう裂果の問題がある。愛媛県では糖度13度以上,酸度1.2%未満,外観の美しさなどの定められた基準を満たす最高品質の果実に対して、2016年より「愛媛Queenスプラッシュ」の商標使用を開始した。

2021年の栽培面積は355ha,収穫量は2,490t、産地は愛媛。

選び方と保存  濃橙色の果皮で光沢があるもの。保存は涼しい所へ。

旬  2~3月上旬。

 

(19) ネーブルオレンジ Navel orange

 

 わが国へは、明治22年(1889年)玉利喜造氏によってワシントンネーブルが導入されたが、気候が合わず結実しづらい。国内で生産されるオレンジの代表種は白柳ネーブルとワシントンネーブルで、さらに昭和40年以降、森田,大三島,村上,吉田などの結実性のよい品種が続出している。果実は200~250gで、果頂部はやや飛び出して特有のへそがある。果皮は薄く種がなく、果肉は柔軟多汁で、果汁の糖分含量は高い。12月に収穫され、貯蔵されて品質がよくなってから出荷される。

ネーブルオレンジの2021年の栽培面積が324ha,収穫量は3,315t、収穫量構成比は、①広島52.0%,②和歌山21.3%、そして熊本,愛媛,静岡,大分…と続く。この他に、バレンシアオレンジの2021年の栽培面積が13ha,収穫量は321t、産地は和歌山です。

選び方と保存  果皮にはりがあって重たいもの、保存は涼しい所へ。

旬  1~3月。

*ネーブルとはへその意味で、心皮の形成が2重,3重になってへそのように見えることから名付けられた。

 

 

(20) はるか

 

 福岡県の農家で昭和55年、日向夏(ひゅうがなつ)の自然実生として発見、1996年に登録された。果皮は日向夏と同じレモン色、酸抜けがよいのが特徴で、ほとんど酸っぱくない。2021年の栽培面積は127ha,収穫量は2,040t、収穫量構成比は、①愛媛39.2%,②広島34.8%,③長崎6.9%、そして和歌山,高知,熊本…と続く。熟期は2~4月。

 

 

 

 

(21) 清見  (きよみ)

 

 農林水産省果樹試験場興津支場で昭和24年に、宮川早生にトロビタオレンジを交配して育成、54年に登録された。育成地の近くに清見寺(せいけんじ)という寺があり、その前面の海岸は清見潟(きよみがた)と呼ばれる名勝でこの名前を付けた。みかんとオレンジの雑種、タンゴールで両者の性質を兼ね備える。果実は200g前後で偏球形、果皮は黄橙色でやや滑らか、果肉は柔軟多汁でオレンジの香りがあり風味がよい。無核で糖度は11~12度、欠点として皮がむけづらく外観がよくない、隔年結果や玉揃いの不良がある。熟期は2月下~3月中~下旬、樹上で越冬させて3月に収穫した完熟果は、食味良好で好評である。しかし越冬中の果皮障害や鳥害を避けるために、ネット,袋かけ,ハウス栽培が行なわれて労力や施設費を多く要している。2021年の栽培面積は741ha,収穫量は11,282t、収穫量構成比は、①愛媛45.7%,②和歌山39.2%、そして佐賀,広島,大分,熊本,静岡,香川…と続く。

 

選び方と保存  果皮にはりがあってみずみずしいもの、やけに注意。保存は涼しい所へ。

旬  3~4月。

 

(22) タンカン  桶柑

 

 中国広東省で自然発生したタンゴール(ポンカン×スイートオレンジ)で、行商人たちが短い桶(おけ)に入れて大陸全土に売り歩いたところから、短桶(たんかん)と呼ばれたもの。わが国へは1896年(明治29年)に台湾から鹿児島県に導入されたが、栽培が始まったのは昭和4年以降である。果皮は黄橙色で果肉は濃橙色で酸が少なく甘味に富み、風味は抜群。皮がむきやすく袋ごと食べられることから安定した需要がある。欠点として外観が悪く小玉が多く、隔年結果しやすいことがある。中国と台湾が主産地、わが国の適地は鹿児島県南部以南と沖縄県で、2021年の栽培面積は788ha,収穫量は3,304t、収穫量構成比は、①鹿児島84.2%,②沖縄15.2%、そして宮崎と続く。

 

選び方と保存  果皮が黄橙色、やけのないもの。保存は涼しい所へ。

旬  2~3月。

 

 

(23) セミノール Seminole

 

 アメリカ・フロリダで1911年に、ダンカングレープフルーツとダンシータンゼリンの交配によって育成された。わが国へは昭和34年に三重県の桂農園に導入され、46年ころより急速な産地形成,量産化がはかられたが現在は減少傾向。果実は150~200g、果皮は赤橙色で美しく滑らかで締まっている。果肉は濃橙色で果汁が多くさわやか、特有の香りがある。熟期は3月下~4月上旬だが、酸味が強いので減酸するまで貯蔵して5月から出荷される。5月以降の出荷の柑橘を欠くわが国では、各地で栽培されているが、アメリカでは酸が強く種子が多いために経済品種とはなっていない。2021年の栽培面積は115ha,収穫量は2,518t、収穫量構成比は、①和歌山53.7%,②大分24.2%,③三重18.2%、そして愛知,愛媛…と続く。

 

選び方と保存  果皮が赤橙色でやけのないもの、保存は涼しい所へ。

旬  4~5月。

 

(24) カラ

 

 カリフォルニア大学のフロスト博士が、1915年に尾張系温州にキングマンダリンを交配し育成した品種で、1935年に命名、発表された。わが国へは昭和30年(1955)に田中長三郎によって種子で導入され、その後、農水省、愛媛果樹試験場などに穂木でも導入された。当初、酸が高いので放っておかれたが、5月ごろヒヨドリが群がっているのをみて味が格別によいので商品化を試みた。果肉は濃橙色で多汁で甘みが強く、ほどよい酸味もあり濃厚な味わい。皮は手でむくことができ袋ごと食べられる、2021年の栽培面積は122ha,収穫量は3,301t、収穫量構成比は、①愛媛68.5%,②三重15.1%、そして和歌山と続く。熟期は4月下~5月下旬。

 

(25) 日向夏(ひゅうがなつ)

 

 江戸時代の文政年間(1820年ころ)に、宮崎市赤江町の真方安太郎氏の庭で発生した偶発実生で、特性からゆずの血が入っていると思われる。明治20年に田村利親氏によって命名された。宮崎では日向夏,高知では小夏,愛媛・静岡ではニューサマーオレンジとも呼ばれている。

果実は200~250g前後で球形、果皮は滑らかで淡黄色で光沢がある。果汁は多く果肉が柔らかく、ゆずに似た芳香で酸も適当で甘味に富み、風味がよい。果皮に苦味成分が含まれていないので、色のついた皮の部分をナイフでむいて、皮の内側の白い部分(アルベド)を付けたまま果肉を切って食べるのが、よりおいしい食べ方である。欠点として、年によりす上がり,酸味の過多があり生産が安定しない。2021年の栽培面積は317ha,収穫量は6,189t、収穫量構成比は、①宮崎58.0%,②高知35.8%、そして静岡,愛媛,福岡…と続く。

選び方と保存  果皮は滑らかで淡黄色で光沢があるもの、保存は涼しい所へ。

旬  4~6月。


 

(26) ナツミ   南津海

 

 山口県大島郡橘町の山本弘三氏が昭和52年、カラマンダリン(尾張温州みかん×キングマンダリン)×吉浦ぽんかんの交配により育成。最初は冬に試食したが「甘いけれどすごく酸っぱくて食べられなかった」、ところが4月の中ばを過ぎた頃にカラスの集団に食べられてしまった。翌年に試食をしたところ、5月の連休明けが一番おいしいことから、夏(初夏)に食べられるミカンということで命名された。皮は簡単に手でむけて袋ごと食べられ、甘みが強くてほどよい酸味があり濃厚、柔軟多汁で香りもよい。2021年の栽培面積は99ha,収穫量は1,450t、収穫量構成比は、①愛媛26.9%,②和歌山26.7%、そして愛知,佐賀,広島,福岡,山口…と続く。熟期は4月下~5月上旬で出荷は5月中~6月中旬。

 

 (27) その他  これまでの品種

 

①仏手柑(ぶっしゅかん)…インドが原産のミカン科、ジャワ島やインドシナでは古くから作られていた。形が仏(ほとけ)の千手観音(せんじゅかんのん)に似ている所から名前がついた。別名ブシュカン。わが国へは中国から琉球を経由して江戸時代に渡来し、温暖な鹿児島県などの一部地域でわずかに栽培されている。果実は鮮黄色で肉厚で芳香があり、先端が分かれて人の手指のような形をしている。大きいものでは500g程度になる。果肉はほとんどなく、形を生かして盆栽や生け花,正月の床の間飾りに、そして果実酒に使われる。2021年の栽培面積は14ha,収穫量は36t、産地は高知、出回りは12月。

②三宝柑…和歌山県が原産地で、徳川時代の御三家,紀州の城主に「三宝」(箱型の台)にのせて献上したことから、この名がついた。果実は200~250gで、成り口の部分が高く盛り上がった独特の形をしている。果皮は鮮黄色で果肉は種が多いが、微酸で風味があり品質はよい。出回りは3~4月、2021年の栽培面積は20ha,収穫量は457t、現在は和歌山県の特産品的存在である。

  

③鳴門柑…江戸時代の宝暦年間に淡路の藩主、蜂須賀候の家臣の陶山与一右衛門長之という人が、唐みかんの偶発実生から作り上げたといわれる。果実は250~300g前後、果肉は黄橙色で柔軟多汁、糖,酸とも多く特有の芳香を持っている。兵庫県淡路島の特産で、2021年の栽培面積は8ha,収穫量は88t、兵庫県淡路島の特産で熟期は4~6月。

  

④夏みかん・夏柑…山口県長門市青海島の大日比海岸に流れついた果実を、西本於長という女の人が1722年(江戸中期)にひろって、種をまき育てたもの。正式には夏橙(なつだいだい)と呼び、文旦の血をひく自然雑種と考えられている。萩市に伝わったのは19世紀の始めであるが、栽培が盛んになったのは明治維新で困窮した士族の救済策として奨励されてからである。その後、全国的に広がり初夏の果物として、ほかの果物がないときでもあり喜ばれたが、近年は嗜好の変化から需要は激減している。出回りは5~7月。


                                     萩の夏みかん

(28) その他   新しい品種

 

①天草(あまくさ)…農林水産省果樹試験場口之津(くちのつ)支場で昭和57年に、{清見(宮川早生×トロビタオレンジ)×興津(おきつ)早生}に外観がよく高糖度のページ(ミネオラ×クレメンタイン)を交配して育成、1993年に品種登録された。名前は育成地の長崎県・口之津から望む熊本県・天草を品種名とした。果実は200g前後、果皮は濃いだいだい色で薄く滑らか、果肉は柔軟多汁で酸が少なく糖度11~13度と食味がよい。2021年の栽培面積は33ha,収穫量は411t、収穫量構成比は愛媛46.7%、そして沖縄,大分,佐賀…と続く。熟期は12月下~1月上旬。

 

②スイートスプリング…農林水産省果樹試験場興津支場で昭和22年に上田温州に八朔の花粉を交配して育成、56年に品種登録された。果実は250g前後と八朔よりやや小さい程度,糖度は11~13度、八朔に似て果皮が荒く外観はよくないが、減酸が早く糖度も比較的高い為に食味がよい。2021年の栽培面積は48ha,収穫量は525t、①熊本26.2%,②宮崎19.7%、そして香川,鹿児島,長崎…と続く。熟期は1~2月。

  

③津之輝(ツノカガヤキ)…農林水産省果樹試験場口之津(くちのつ)支場で1981年に、No.14(清見オレンジ×興津早生みかん)にアンコール交配して育成したタンゴールで、2009年に品種登録された。果実は濃い橙色でややデコボコしているがむき易く、じょうのう膜は薄くほとんど種子がない。平均250gの大果で果汁が多く糖度は13度前後と甘さと適度な酸味があって食味良好。2021年の栽培面積は41ha,収穫量は365t、産地は長崎,佐賀,宮崎、熟期は無加温および少加温での施設栽培では12月上中旬、露地栽培では1月中旬~2月。

 

④麗紅(れいこう)…農林水産省果樹試験場口之津(くちのつ)支場で1984年に清見(宮川早生×トロビタオレンジ)×アンコールにマーコットを交配して育成、2005年に登録された。同じ交配組み合わせに「せとか」がある。果実は250g前後と大きい、果皮は橙色から濃橙色でなめらかで美しく、皮は清見よりむきやすい。果肉は柔軟多汁,糖度13度で食味はよく、種がなく温州みかんのように袋ごと食べられる。佐賀県のJAからつでは「はまさき」のブランド名で、糖度,酸度,外観の優れたものを出荷しています。2021年の栽培面積は53ha,収穫量は1,147t、産地は佐賀,宮崎,愛知…と続く。熟期は2~3月。

 

⑤せとみ…山口県大島柑きつ試験場で昭和56年に、清見(宮川早生×トロビタオレンジ)に吉浦ポンカンを交配して育成、2004年に登録された山口県オリジナル品種。果実は180~220gで果皮は濃橙、糖度も高いが酸度も適度にあってコクがあり、中袋はみかんと同様やわらかく種もないので袋ごと食べられ、プチプチしたイクラのような独特の食感がする。その中で、糖度13.5度以上,酸度1.35%以下のせとみは新しい柑橘に託す夢と頬が落ちるほどのおいしさという意味を込めて「ゆめほっぺ」の商品名で2010年から販売され、2021年の栽培面積は50a,収穫量は348t、産地は山口。2月上~中旬に収穫して貯蔵することで酸が減り味がまろやかに、着色もよくなる。出回りは3月中旬~4月。

 

⑧タロッコ(Tarocco)…イタリア原産(スペインのサンギネロの変異種)のブラッドオレンジの1品種で、果肉が濃い赤色なことからブラッド(blood=血)と呼ばれるようになったもの。この色はアントシアニンによるもので、抗酸化効果(活性酸素の生成を抑制する働き)がある。タロッコとはイタリア語でコマのことで、果実の軸の周辺が少し盛り上がっていることに由来する。モロは果肉の紅色がとくに濃くて実つきがよい。愛媛県に1970年前後に持ち込まれたが、寒さに弱いという弱点があり当初は産地化せずに終わった。近年地球温暖化の影響もあり栽培されるようになった。果実は200g前後,甘みが強くほどよい酸味もあって濃厚な味が特徴、ジュースの美味しさには定評があり、世界的にも人気があるオレンジです。2021年の栽培面積は30ha,収穫量は284t、産地は愛媛、熟期は3月~5月。

  

くだものを食べる

  

 ゆったりとした時間の中で焼きたてのパンを食べながら、デザートに旬のおいしいくだものを一緒に食べる。そして、帰りにはその焼きたてのパンとともに美味しかったくだものを買って帰ることができる。こんな食べ方、売り方も一つの提案かと思います。ここでは少しですが、野菜も売っていました。



                                                2009年 山口県周南市 tresにて