52. ゴボウ 牛蒡

 

   ヨーロッパ,シベリア,中国北部が原産のキク科の多年草で欧米ではこれを食べる習慣がなく、栽培用の品種としてはわが国で改良されて作物化された。中国から1000年以上も前に薬草として入り、平安初期の「本草和名」(918年)に名があり、すでに食用に供されていたといわれ、12世紀の平安末期には日常の重用な野菜となっていた。第2次世界大戦中に、米国人の捕虜にごぼうを食べさせたところ、「木の根を食べさせるとは虐待だ」と、敗戦後の軍事裁判で有罪となったと言う話があるが、ほとんどが伝聞で確たる証拠がありません。

 

   ごぼうはカルシウムと繊維質が多く、その繊維質は腸の活動を助けて便秘に効果がある。皮肌にもっとも香味を持っているので、なるべく土ごぼうを買い、土を洗いおとし肌をいためないようにタワシで水洗いをするか、包丁の背でこそげとるようにすると風味が逃げない。独特の香味と歯ごたえは日本人の好みにあっていて、ささがきごぼうのみそ汁やきんぴら,煮しめ,かき揚げ,豚汁,みそ漬け,精進料理などに料理される。とくに肉や魚の生ぐさみを消し、油を使うと味,香りがさらに生きてくる。また、葉ごぼうは若い根と葉柄を水にさらし、ゆでてから煮出し汁で調理する。

 

   ごぼうを切ってしばらく置くと、その切り口が黒く褐変してくるが、これはごぼうに含まれるポリフェノール化合物が空気にふれ、酸化するためである。これを防ぐには、切ったと同時に酢水につけるとよい。酢のもつアルカリにおされて酸化が防げる。                

   生育適温は20~25℃で暑さには強いが、もっとも連作を嫌う。種子は好光性といって、発芽の際に光を好むので種子をまくときには一昼夜明るい場所で水に浸してからまくと一斉に発芽をする。食用とする根の大きさや太さは土質によって大きく異なり、砂土,火山灰土では肌が滑らかで、ヒゲ根が少なく形がよく堀取りも楽だが、肉質は固く香りが少ない。一方、粘土質の重たい土では根が太くヒゲ根も多くて外観的には劣るが、肉質は柔らかく香りが高く、アクの少ない良質のものができる。これは土中の水分や肥料分の移動が少ないことによる。

 

   代表種は、東京都北区滝野川周辺で栽培される滝野川ごぼう、この系統の柳川理想,山田早生,渡辺早生, 新田(しんでん),常磐(ときわ)など。ほかに直径10㎝と太くて短く中心部分が空洞になった大浦ごぼう=千葉県成田山新勝寺の精進料理の素材として有名、京都の堀川ごぼう=滝野川系を特殊な栽培方法で育てたものなどがある。また葉ごぼう用の品種もある。国内収穫量は昭和38年を境に漸減傾向、輸入物も、2006年の残留農薬への規制・ポジティブリスト制度、2007年の12月下旬の中国製冷凍ギョーザの中毒事件などから微減,そして微増となっている。2021年の収穫量は132,800t、構成比は、①青森38.6%,②茨城10.2%,③北海道9.3%、そして宮崎,群馬,鹿児島,千葉,熊本…と続く。

  

選び方と保存  ひげ根がなくまっすぐ長く伸びたもの,葉のつけ根近く にヒビ割れしたものス入りがある。保存は土付きは土の中だと長期保存 が可能、洗ったものはポリ袋に入れて冷蔵庫へ、ささがきにしてゆでて 冷凍も可能。

旬  9~12月。

 

きんぴらごぼう

 

   平安時代中期-坂田金時は子供のころ「金太郎」と呼ばれ、赤い腹掛けをして大きなマサカリを肩に足柄山でクマを相手に相撲を取ったりして遊んでいた。やがて成長して源頼光(984~1021年)の家来となり大江山の鬼退治をしてその名前を天下にとどろかせた。のちの江戸・元禄時代に人気浄瑠璃の主人公に坂田金時の息子という設定で「坂田金平(きんぴら)」が登場した。やがて金平は、粗野ながら強いものを表す言葉として一人歩きを始め、この頃のヒットした料理法がきんぴらごぼうで硬くて辛いことから名付けられたものであろう。

 

ささがき 笹掻き

 

 切った形が笹の葉に似ているので名付けられ、主にごぼうを切るときに用いられる。ごぼうの皮をたわしできれいに洗い、包丁の背中を使って厚い皮の部分をおおまかにそぎ落とす。そして、太い部分に包丁の刃先を使って縦に浅く切り込みを数本入れ、ごぼうの先をまな板につけ、回しながら薄くそぐようにして切っていく。そうすることで、アク抜きや味付けが容易になりまた、調理時間の短縮にもつながる。水にさらす時間はおよそ2・3分程度で十分です。 

  

 ささがきを上手につくるコツは、自由に厚みや切り幅を調整できるように、ごぼうに当てる包丁の角度を加減することで、炊き込みご飯などにはごぼうに対して包丁を立てれば厚く削ることができ、また、きんぴら,天ぷら,鍋物などには、包丁を寝かせて削ってゆくと薄く繊細なささがきができる。

 

水にさらさない新常識

 

 冬はキンピラ,豚汁,煮物とごぼうがおいしい季節。皮をむいたり、水にさらすのが面倒という人も多いが、この処理なしで調理した方が香りがよく,おいしく,栄養価も高くなる。ごぼうを水にさらしたときに出てくる茶褐色の成分には、ポリフェノールのクロロゲン酸が含まれ、抗酸化力が強く、血液をサラサラにして生活習慣病を予防する。そして、水溶性食物繊維のイヌリンは皮や皮の近くに多い。またごぼうの皮には、旨味成分のグルタミン酸も多い。こうしたことからゴボウを調理するときは「泥だけを洗い落とし皮はむかない」か、「包丁の背やアルミホイルを丸めたもので、表面をごく薄くこそげ取る」程度にとどめ、すぐ調理するとおいしい。変色を防ぐことを優先したい場合でも数分、酢水に漬けるか、水にさらすだけでよいでしょう。

 

ぶた汁ととん汁

 

   豚肉を具材として使用する特徴から、明治時代以降に発達した料理とみられ1917年(大正6年)の読売新聞「筍の豚汁」に「ぶたじる」と読みがなが振られていた。「とん汁」というのは、昭和初年,東京のとんかつ屋で言い始めたようである。NHKの調査では、「とん汁」と呼ぶ人は東日本に多く、「ぶた汁」と呼ぶ人は西日本や北海道に多い。全国平均では「とん汁」が54%、「ぶた汁」が46%でした。材料にはごぼう,大根,人参,長葱,こんにゃく,豚肉で、地域によってはさつまいも,じゃがいも,玉葱,豆腐や油揚げが入る。おいしい作り方は

1.野菜を水から煮る。2.野菜に少し火が通ったところでみそを加える。3.野菜が柔らかくなったところで、豚肉を加える。4.長ねぎを加えて出来上がり。

 

*豚肉は沸騰前の95度の熱湯で15秒間だけ湯通しをすることで、内部から表面に浮かんできた余分なタンパク質やアブラを落としアクを防ぐと共に肉の表面を熱で固めることで、うまみや香りのもととなるアブラを肉内部に封じ込める。

 

食物繊維とごぼう

 

   飽食(ほうしょく)時代の今日、低カロリーで体内の掃除役をする食物繊維を多く含むごぼうは、健康野菜として注目されている。昔から「3日通じがなかったらごぼうを食べろ」といわれる様に、便秘改善の野菜の筆頭に上げられてきた。

 

   ごぼうに多い食物繊維はイヌリンという炭水化物で、人間の消化酵素では消化できず老廃物と一緒になり、適当な柔らかさと大きさをもった便を作る。それによって腸管を刺激し、腸の運動を活発にして便通を容易にし、腸の掃除役を果たす。最近、食物繊維が大腸ガンを予防するといわれるのも、腸内の老廃物,発ガン物質などが食物繊維に付着して排泄されるためである。また、食物繊維は腸内に適度なかさばりを与え、ほどよい水と空気を取り入れる働きがあり、健康維持に欠かせない有用細菌(ビタミンB2,B6,B12,葉酸,パントテン酸,ニコチン酸などのビタミンを育成する)の働きを活性化させ、腸内の絶妙な菌のバランスを整えるうえでも、大きな役割を果たす。そのほかにも、動脈硬化や高血圧の原因となって心臓疾患を引き起こすことで知られるコレステロールを低下させる作用がある。

 

   日本人の食物繊維の摂取量は平均1日/17gで、1gの食物繊維は10倍以上の水を吸収し、多いものは250倍にも膨れ上がる。これは17gをとったら便の量は170g以上になることを指す。

 

第6の栄養素 食物繊維

 

 1970年代にイギリス人医師のバーキット氏が「食物繊維の摂取量が少ないと大腸ガン発生のリスクが高くなる」という仮説を出したことにより、世界中で研究が行われるようになった。そして1990年代に入って、かつては「食べ物のかす」として何も効果がないといわれていた「食物繊維=人の小腸内で消化、吸収されにくく消化管を介して健康の維持に役立つ生理作用を発現する食物成分」が注目を集め、「第6の栄養素」と呼ばれてその重要性が広く知られるようになった。しかし食物繊維の摂取量は年々低下しており、生活習慣病など様々な病気の増加が心配されている。ちなみに炭水化物,脂肪,タンパク質が3大栄養素と呼ばれ、これにビタミン,ミネラルを加えて5大栄養素となる。これらは体の素材やエネルギー源になったり、生命活動の機能を支えたりするもので、生きていくのに欠かせない栄養素である。

 

第7の栄養素 ファイトケミカル Pphyto chemical

 

 2000年代に入って「ファイトケミカル」が「第7の栄養素」として注目されている。「ファイト」とはギリシャ語で植物を指す、植物が光を浴びながら生長する際、紫外線によって多量に発生する活性酸素から身を守るために生合成される。植物の色素・香り・辛味・苦味の成分で、およそ1万種類くらいあるといわれる。代表的なものは、緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンなどのカロテン類,淡色野菜のイオウ化合物類,赤ワインで有名なポリフェノール,スイカやトマトの赤色成分であるリコピン,ブルーベリーやむらさき芋のアントシアニン,かんきつ類の苦味や香りの成分のテルペン類,大豆のイソフラボン,ゴマのリグナン,そばのルチン,コーヒーのクロロゲン酸,タマネギのケルセチン,お茶のカテキンやタンニンなどで、これらは、抗酸化作用や免疫力を高める作用が認められ、多くの病気を予防することがわかってきた。5大栄養素は不足すると1週間とか1カ月という単位で、体に何らかの影響が出てくるが、ファイトケミカルは少々の期間、摂取しなくても大きな差し障りはないが、適量を摂取している人と、そうでない人では、10年,20年単位でみると、糖尿病やガン,動脈硬化などの生活習慣病といった病気へのなりやすさというものになって現れてくる。

 

活性酸素

 

   活性酸素は体内でエネルギーを作ったり、侵入してくる菌や異物を溶かしたりと有益に働くが、過剰に発生したときには身体にすさまじい害を及ぼす。活性酸素は電子がひとつ足りない状態なので不安定で、近くにある物質から電子を奪い取って安定しようとする。電子を奪われた物質はいわゆる「酸化」された状態となる。とくに細胞膜などが酸化されて死んでしまう。また活性酸素によって遺伝情報を担うDNAが傷ついてがんの発生要因ともなり、動脈硬化(心臓病や脳梗塞などの循環器系疾患の引き金)の原因も作る。

 

 植物にとっても活性酸素は有害であり、日光に含まれる紫外線は活性酸素を大量に発生させる。そこで植物は自信が強い抗酸化作用を持つポリフェノールを作ることにより、活性酸素から身を守っている。人はこの植物が作ったポリフェノールを食物として利用することで、抗酸化作用を利用している。

 

腸年齢

 

   人の腸の中には、500種類以上,100兆個もの細菌が棲(す)みついている。生まれたばかりの赤ちゃんは、腸内をきれいに保つビフィズス菌などの「善玉菌」でいっぱいであるが、年齢とともに病気の原因になる「悪玉菌」のウェルシュ菌,大腸菌などが増えてくる。とくに55~60歳の老年期からは悪玉菌が増え、結果として便秘がちとなり、腸内が腐敗してがんや生活習慣病などの発生原因となる。腸年齢とはこうした腸内細菌のバランスであるが、最近は若い人の食生活の乱れ、脂肪分の多い肉類をよく食べ野菜を食べないことによって悪玉菌が増え、老人化している。

 

 腸年齢の若返りには、食物繊維を豊富に含んだ芋類,豆類,穀類,海藻,きのこ類などの食品をとることとビフィズス菌入りのヨーグルトを毎日食べて善玉菌を増やすことが必要である。また、ごぼうやアスパラガス,玉葱などに多く含まれているオリゴ糖は、胃や小腸で消化されずに大腸まで届いてビフィズス菌のエサとなるので効果がある。

 

ヤマゴボウ

 

   わが国原産の野生のキク科のモリアザミを栽培化したもので、北海道から九州と広い地域で栽培されゴボウアザミ,キクゴボウ,モリアザミともいわれる。根は長さ20~30㎝,直径1~1,5㎝で特有の風味と歯ざわりを賞味し、みそ漬け,しょうゆ漬けとされて各地で特産品として売られている。2016年の収穫量は168t、構成比は、北海道68.5%、そして福岡,長野,青森…と続く。

 

マジックテープ(面ファスナー)

 

   スイスのジョルジュ・デ・メストラル (George de Mestral) が1941年にアルプスを登山したとき、自分の服や愛犬に野生ゴボウの実がくっつくのを見て研究をはじめ、1951年に特許出願し、1955年に認定された。フック状に起毛された側とループ状に密集して起毛された側が対になり、それぞれの面を合わせることで接着させることができる。正式名称は面ファスナーでマジックテープは株式会社クラレの商標、1960年から製造・販売している。1964年に開通した新幹線のヘッドレスカバーに使われたことを契機に、飛躍的に市場が拡大した。アメリカではベルクロテープで登録商標されている。