107. トマト Tomato

 

   南アメリカアンデス山脈のペルー,エクアドル,ボリビア地方が原産のナス科の野菜。最初に栽培を始めたのはメキシコの原住民で「トマトゥル=膨らむ果実」と呼ばれた。本来は「ホオズキ」を指し、煮込んで料理に使っていたが、形がよく似たトマトも同じ名前で呼ばれるようになった。1492年のコロンブスによる新大陸発見により大勢のスペイン人が押し寄せ、その戦利品のひとつとしてヨーロッパにトマトを持ち帰った。当初は有毒植物であると信じられていたが16世紀のイタリアは飢餓(きが)に苦しんでおり、トマトを食べざるをえなかった。その後品種改良が行われるようになり、観賞用から野菜へと変身するとともにヨーロッパへと広まり18世紀末には多彩なトマト料理が生まれた。一方北アメリカではしばらくは食用としては認知されなかったが、1820年、ニュージャージー州の裁判所の前でロバート・ギボン・ジョンソンは、トマトを食べて人々に毒がないことを証明したと言われるが、詳しい資料は残っていない。しかし、19世紀にはアメリカで生食用の栽培が大々的に行なわれている。

 

   わが国ヘは「大和本草」(1709年)に、唐がき,珊瑚茄子(さんごなす)として記載され、その後、明治初年に北欧系品種が再導入され赤なすと呼ばれていた。しかし日本人になじめず、昭和になって北アメリカ系のポンテローザというトマト臭の弱い桃色系品種の導入によって、やっと消費が一般化し、栽培も急速に広まった。原産地の気候から強光,低夜温の条件が好都合で、昼間25℃前後,夜間は15℃前後の日較差がよく、さらに夜間は12℃位まで低下すると果実はより充実した発育をとげる。光線には敏感で、日照が不足すると茎葉が徒長し、開花数が少なく落花が多くなる。

消費の大半は青果向けで、春から夏にかけての需要が多い。「トマトが赤くなると医者が青くなる」と言われるほどすぐれた健康野菜で、ビタミンAとCが豊富、とくにCは還元型が多く熱に強く加工してもなくならない性質を持っている。また、食物繊維のペクチンは血中コレステロールの低下作用が大きく、酸味はクエン酸で脂肪を分解する性質があり、カリウムはカルシウムや塩分の取りすぎを防ぎ高血圧を予防する。こうしたことから、揚げ物,肉類の付け合わせやサラダに、果実の赤色は料理に美観をそえ食欲を増進する。そのほか、ケチャップ,ソース,ジュースなどの加工原料としての用途も広い。

   2022年の栽培面積は11,200ha,収穫量は707,900t、収穫量構成比は、①熊本18.4%,②北海道8.9%,③愛知6.7%,④茨城6.5%,⑤栃木4.5%、そして千葉,岐阜,福島,群馬,福岡,宮崎,青森…と続く。(ミニトマトも含んでいる)

選び方と保存    色づきが均等で丸いもの、いびつなものは中が空洞になりやすい。ヘタは緑色ではりのあるのが新鮮、ヒビ割れがあるのは味がよくない。保存は青みがあれば常温で、食べる前に冷すのがよい。完熟品はポリ袋に入れて冷蔵庫へ、皮を湯むきして冷凍も可能。

旬    5~9月。

 

ファーストトマト

 

 昭和初期に神戸市東灘区の温室で北アメリカ系のビーフハート群のトライアンフが栽培されていたが、これが原種と思われる。トマトの中でも高級品で主に業務用に使われる温室促成栽培用品種。先がとがって、ゼリー状の種子の部分が小さく肉質が締まって調理しやすいが、耐病性がない,変形果ができやすいといった欠点もある。愛知,静岡が主産地で、卸値は他の品種より高いが高温栽培を要するので生産コストも高い。出回りは12~3月。

 

完熟トマト・桃太郎

 

 昭和59年にタキイ種苗から「桃太郎」という品種が登場して、味がよく熟してからの日持ちがよいことから完熟トマトとして主力栽培されている。育種素材としてフロリダ大学で育種された機械収穫用の果皮の硬いトマト・フロリダMH-1+ファーストトマト+ミニトマト+サターンなどが上げられる。欠点としては、収量が少なく病虫害ヘの抵抗力があまり強くないことがある。いろいろな栽培形態にあわせて改良され、桃太郎のほかにCF桃太郎ファイト,桃太郎セレクト,CFハウス桃太郎,桃太郎ワンダー,CF桃太郎J(ジェイ),桃太郎ギフト,桃太郎8(エイト),桃太郎サニー,桃太郎T93,CF桃太郎はるか,CF桃太郎ヨーク,桃太郎ヨーク,桃太郎ファイト,ハウス桃太郎,ホーム桃太郎,桃太郎グランデ,桃太郎あきな,桃太郎ゴールド,ホーム桃太郎,ホーム桃太郎EX,桃太郎コルト,桃太郎なつみ,桃太郎さくら,桃太郎アーク,桃太郎ピース,桃太郎ネクストなどが作られている。

 

りんか409・サカタのタネ

 

 サカタのタネが2007年に発表した品種で、2002年の麗夏(れいか)に続くものである。これは、(ごほうび母系×マイロック母系)×{(ルネッサンス×桃太郎8)×ごほうび父系}の組み合わせで、夏秋栽培とそれに続く抑制栽培は収穫期間が長く高温期に重なるが、そうした中でも、低段から各花房の着果率が高く多収で、裂果や空洞果が出にくく秀品率が高い。果実は豊円腰高で果色,色まわりよく、平均220~240gほどのボリュームがありずっしりと重い。しっかりとした肉質で日持ちのよい品種でありながら、高糖度でコクのある食味に優れたトマトでもある。

 

*ごほうび…サカタのタネが{(ろくさんまる×オランダ系品種)×(アメリカのスライス用品種×メリーロード)}×(サンロード×RedCenter)として、2000年に発表した品種。

 

トマトの多様化

 

 消費の多様化の中で従来の大玉系,ミニトマト系に加えて、①中玉(ミディ)トマト。②調理用トマト。③房採(ふさど)りトマトが市場に出回っている。①中玉トマトは生産面からは栽培が容易で多収であり、消費面からは適度な甘味と香りが受けている。品種としてシンディースイート,シンディーオレンジ,フルティカ,ルイ60,ルイ40,越(こし)のルビー,レッドオーレ,華(はな)エース,ラウンドレッド,プラムレッド,ミディレッドなどがあり、オランダなどから輸入されているつる付きトマト(品種はテンプテーション,カンパリ,アランカ)もこの仲間。②調理用トマトはイタリア料理パン食の普及とともにブーム。

 

 従来の生食用トマトでは水分が多く香りが少ないことから、専用種 が開発されている。それと共に米国(現地でビーフトマトと呼ばれる大玉でゼリー部が少なく果実が硬いトマトで、ハンバーガーなどの業務用に向く)などからの輸入トマトが増加している。③房採りとまとは1果重35~80gで1果房8~10個前後で収穫するもので、品種はテンプテーション、カンパリ、アランカなど。(*注 代理店変更の為、今まで親しまれてきた、ヘーシング、ファンゴッホ、レンブレントは国際名称に統一する理由などから2004年にそれぞれ、テンプテーション,カンパリ,アランカとなりました。)


                      アイコ        ミニトマトとマイクロトマト

 

シンディースイート

 

 サカタのタネが2004年に発表した中玉品種で、これは{(キャロル10父系×ごほうび母系)×(国内の中玉品種×L.peruvianum)} ×(国内の中玉品種×ヨーロッパの中玉品種)の組み合わせ。果実は1個35~40gとミニトマトよりも一回り大きく、一房に10~15個の実をつける。果色が鮮やか、果肉が厚く充実しているため果実は割れにくく日持ちがよい。高糖度で酸味とのバランスがよく、食味もよい。

 

*キャロル10…サカタのタネが (ちびまるこ×オランダ系品種)×{(ハッピーロード×Oregon Spring)×キャロル7}として、2000年に発表した品種。

*ごほうび…サカタのタネが{(ろくさんまる×オランダ系品種)×(アメリカのスライス用品種×メリーロード)}×(サンロード×RedCenter)として、2000年に発表した品種。

 

フルティカ

 

 タキイ種苗が2005年に発表した中玉品種で、これはルイ60×{(ヨーロッパの高糖度野生種 L.peruvianum×桃太郎)×ルイ40}の組み合わせ。果実は1個40~50gとミニトマトよりも一回り大きく、1房に8~12個の実をつける。果色は濃赤色で、果肉は滑らかで弾力性があり、果皮は薄くて口に残りにくくゼリーの飛び出しが少ない。糖度は7~8度だが酸味が少なく、糖度以上に甘さを強く感じ食感がよい。

 

グリーンゼブラ・青トマト

 

 平均果重100~150gとやや小ぶりの実を付け、成熟すると果皮は黄色で黄緑,緑の縞模様・ゼブラが入る。少し早め、果皮が緑色のときは濃い緑と淡い緑の独特の縞模様で、果肉はエメラルドグリーン,昔のトマトらしい酸味と独特な食感を持ち合わせ、スライスしてサラダにすると色が映える。

 

 

塩トマト

 

 熊本県八代・不知火地区などの海岸沿岸部は、海だった場所を埋め立てた干拓地のため土壌の塩分濃度が高くミネラルを多く含んでいる。このため水分を十分に吸い上げられず大きくはなれないが,その分旨みが濃縮されて甘く、風味が豊かなトマトになった。品種は普通のトマトと同じ「桃太郎」だが、皮が硬く肉厚となり日持ちがするのも特徴。1995年頃から、徐々に人気が高まり市場に出回り始めた。収穫時期は12~4月、3月がピークである。 


                   熊本・八代の塩トマト

 

フルーツトマト(小玉高糖度トマト)

 

 乾燥した原産地に近い自然環境で栽培するもので、水や肥料、農薬を最小限に抑える。こうして一般のトマトの糖度は4~6度くらいに対して、8~10度以上とまるで果物のような高糖度トマトが生まれる。深い赤紅色を帯び、手にした際のずっしりとした存在感が特徴で、果肉は心室が多く栄養とおいしさがぎっしりと詰まっている。欠点として果実が小さく収量の少ないことがあげられる。1990年代に入ってフルーツトマトの名前が使われるようになり、グルメブームと相まって一般に広まった。次に平均的なトマトの糖度を記すが、上限は作り方によって差がり、あとは酸味との調和がとれていることです。調和がとれていれば、多少糖度は低くても、食味はよい。①普通大玉トマト…4~6度,②フルーツ(高糖度)トマト…8~10度,③ミディトマト…6~10度,④ミニトマト…6~10度。

 

リコピン

 

 トマトの赤い色素はこのリコピンとβ(ベータ)-(ー)カロテンによるもので、人間は体内で合成できないことからトマトや柿、グミなどの食べ物から摂取している。リコピンには体内でガンや血管・心臓病,肝臓病,老人性痴呆症など、生活習慣病の原因となる活性酸素が増えるのを押さえ、体内組織が酸化する障害から守る働き,抗酸化作用があり、しかもその能力はβ-カロテンの2倍ともいわれている。そして加熱調理をすることによってリコピンの体内吸収率が高まり、さらに吸収効果がよいのはオリーブオイルである。生食が中心のわが国に対して、ギリシャやイタリアのトマト消費量の多い国で加熱調理が一般的なのも理にかなっている。

 

コンパニオンプランツ

 

 いっしょに栽培すると植物どうしがお互いの生長を助ける植物のことで、共栄作物とも言う。効果としては、病害虫を防ぐ,生長を促進する,収穫量が増える,風味や芳香をよくする,害虫を忌避(きひ)する,バンカープランツ(天敵温存植物)といった様々な働きをする。反対に互いに生育が悪くなる植物の組み合わせもある。近年野菜の減農薬栽培として注目されているが、農薬のように劇的に効果があるわけでもなく、気の長い病虫害防除法である。 写真はミニトマトとネギの例である。

 

コンパニオンプランツの例

*草丈の高いトウモロコシやヒマワリなどを、飛来害虫を防ぐ障壁として利用する。

*栽培作物のすぐ側にそれより草丈の高い植物を植えると、害虫はそちらに寄生する。

*オレガノ…カマキリ,テントウムシなどを誘引して、モンシロチョウやアブラムシを防除。タマネギやアブラナ科の生育を促進させ、風味がよくなる。   

*カモミール…アブラムシを誘引して天敵を増やし、ダイコン,ニンジン,ブロッコリーを守る。 イネの害虫であるウンカやカメムシを遠ざける。カブ,キャベツ,ハクサイなど、アブラナ科の野菜全般と相性がよく、生育を助けて食味をよくする。

*キャラウェイ…クサカゲロウ,クモ,ゴミムシ,テントウムシ,ヒメハナカメムシなどの害虫の天敵を増やす。

*コリアンダー…アブラムシ,コナガを防ぐ。キャベツ,トマト,レタスなどに効果がある。

*セージ…モンシロチョウが卵を産み付けるのを防ぎ、風味がよくなる。また、飛来害虫を寄せ付けない。効果があるのはキャベツ,トマト,ニンジン,ローズマリー,イチゴで、相性が悪いのはキュウリ。

*センテッドゼラニウム…ハエや蚊などの飛来害虫を寄せ付けない。効果があるのはアスパラ,キャベツ,トウモロコシ,リンゴ。

*タイム…飛来害虫を寄せ付けない。天敵(ハチ)を呼び寄せ、モンシロチョウを防除。効果があるのはキャベツ,イチゴなど野菜全般。

*チャイブ…アブラムシを防ぐ。効果があるのはトマト,キュウリ,カボチャ,メロン,スイカ,レタス,エンドウ,ニンジン,モモ,ブドウ,リンゴ,バラ。

*ディル…アブラムシの天敵(ハナアブ、クサカゲロウなど)を呼び寄せ、アブラムシの害から守る。効果があるのはキャベツなどのアブラナ科の植物,トウモロコシ,キュウリで、ニンジン,フェンネルとの混植は、種子の形成を妨げる。

*ナスタチウム…アブラムシ,オンシツコナジラミやカメムシを防ぐ。効果があるのはトマト,バラ,ラズベリー,リンゴ,ブロッコリー,マメ類,キャベツ,ラディッシュなど。

*ニンニク…アブラムシなどの防除。強い香りが病原菌を殺菌し寄せ付けない。効果があるのは植物全般,トマト,ラズベリー,バラ、豆科の野菜,イチゴ類とは相性が悪い。

*ネギ・ニラ類…トマトと混植すると、害虫を遠ざけ、青枯病,萎凋病,かいよう病,立枯病などの病気・連作障害を抑え、互いに生育を助け合う。ほかにレタス,キュウリ,スイカなどに効果がある。

*バジル…コナジラミ,ハエ,蚊,アブラムシから守り、生育を促進させ風味がよくなる。効果があるのはトマト,アンズ,モモ。

*パセリ…生育を助け風味がよくなる。効果があるのはトマト,アスパラガス,ニンジンなど

*ボリジ…ミツバチなどの天敵を呼び寄せ害虫被害を減らしたり、受粉を助ける。効果があるのはホウレンソウ,レタス,トマト。  

*マメ科植物(全般) … アブラムシを自分に誘引し、他の植物を守る。

*マリーゴールド…根からの分泌液で土中のセンチュウ葉の臭気に防虫効果があり、トマトなどにつくコナジラミにも有効。フレンチマリーゴールドを枯れる前に緑肥として、土にすき込む。効果があるのはアブラナ科,ウリ科の野菜,根菜類,トマト,バラ。

*ミント…殺菌効果があり香りを害虫が嫌う、センチュウを遠ざける。効果があるのはキャベツやラディッシュなどアブラナ科の植物,トマトなど野菜全般。

 

バンカープランツ (天敵温存植物)

 

 害虫には必ず天敵が存在する、この天敵に好適な住みかや十分な花粉や蜜,餌を提供する植物をバンカープランツという。バンカープランツに害虫が付くと、それを捕食する天敵がやってきて繁殖し、その結果、栽培作物を守るといった自然界の食物連鎖を利用する。