111. ナガイモ 長芋

 

 東南アジア原産のヤマノイモ科の雌雄異株のつる植物。中国,朝鮮半島を経て17世紀ごろに日本に渡来したといわれ、生育が早く病虫害にも強いので各地で栽培されている。

貯蔵性が強く、年内掘り(秋掘り)は翌春まで、春掘りは9~10月まで貯蔵しながら周年出荷される。あまり若いうちに収穫すると、ポリフェノール・オキシダーゼの酸化作用で、すりおろした時に黒褐色に変色する。すりおろした時の濃さは、ヤマトイモがもっとも濃くながいもは薄い。皮をむく時に手がかゆくなるのは多量に含まれているシュウ酸カルシウムの針状結晶が細胞内から飛び出して皮膚を刺激するためで、塩,酢,重そうなどを手につけるとおさまる。

 

 いもや穀類に含まれるβ(ベーター)でん粉はそのままでは消化吸収しにくく、加熱をしてはじめて消化しやすいα(アルファ)でん粉に変わる。ながいもにはでん粉分解酵素のジアスターゼやアミラーゼを含んでいるので、生で食べても消化がよい。すりおろして細胞を細かくするほどに酵素の働きが高まるが、熱には弱いのでとろろ汁に加えるダシ汁は熱すぎないこと。とろろを始めとして、サクサクとした歯ざわりを生かした酢の物,浅漬け,煮物などのほか、加工用にかまぼこ,はんぺんなどの練り製品に加えて、粘りとやわらかさを保つのに用いられ、和菓子のかるかんの原料にもなる。近年、滋養,強壮いわゆるスタミナ野菜として伸びている。種類は次の通り。

2022年の収穫量は139,400t、構成比は、①北海道55.4%,②青森32.5%、そして長野,岩手,茨城,鳥取…と続く。

 

選び方と保存  ちょっと太めで、肌は淡黄色で小さな根やひだが少なくきれいなもの。保存は新聞紙で包むかポリ袋に入れて冷暗所へ、すりおろして冷凍してもねばりは変わらない。

旬  6~12月。

長いもジュース

 

 台湾で人気の長いもジュースで、ミキサーで繊維が切られるためか、粘りけがなく優しい甘みで、サラッと飲める。滋養強壮や夏バテ回復によい。北海道のJA帯広かわにしでは、「十勝川西長いも」を1998年から台湾に輸出しており、薬膳ブームの中で人気が高まっている。新しい食べ方で、消費を増やそう!

 

 材料(2人分)長いも100~150g,牛乳300cc,砂糖大さじ2,氷適量。作り方は、長いもは皮をむき、適当な大きさに切ってミキサーにかけるだけと簡単に出来上がる。お好みで砂糖の増減,蜂蜜,ジャムやレモン汁,バニラエッセンスを加えてもよいし、リンゴやイチゴなどと一緒にミキサーにかけてもおいしい。

 

三日とろろ

 

 福島県の風習で1月3日の朝、とろろ飯を食べる。正月の酒で疲れた胃をいやす先人の知恵であろう。とろろ芋には消化酵素のアミラーゼがたっぷりと含まれている。栃木県では夜に食べる。三日とろろといえば東京オリンピックで銅メダルをとったマラソンの円谷(つぶらや)幸吉(こうきち)(福島県出身)の遺書がよく知られる。「父上様、母上様、三日とろろ美味(おい)しゅうございました。…幸吉はもうすっかり疲れ切ってしまって走れません。何卒(なにとぞ)お許し下さい。気が休まる事なく御苦労、御心配をお掛け致し申し訳ありません。幸吉は父母上様の側で暮らしとうございました」1968.1.9