119. ニンジン 人参Carrot

 

 中央アジアのアフガニスタン,ヒンズークシ山脈の山麓(さんろく)が原産の、セリ科の1,2年草で、12~13世紀に原産地から地中海を経てヨーロッパヘ伝わり欧州系の品種ができ、一方では、インド及び中国に伝わって東洋系の品種が広く分布している。ニンジンの名は薬用の高麗(こうらい)ニンジンがウコギ科の特長として、根が枝分かれして入り組んで人間の身体とよく似ていることに由来する。そしてこの高麗ニンジンが早くに中国や朝鮮からわが国に伝えられ、この後に入ってきた今の人参が高麗ニンジンによく似ていることから同じ名前となってしまったもの。

 

 わが国ヘは江戸時代初期の「多識篇」(1631年)に初めてその名があらわれており、中国から東洋系品種が伝わった。江戸中期には各地に広く分布し、正月のなますによく用いられる長にんじんの滝野川,大阪の金時(京人参),九州の博多人参などが知られている。その後、明治初年にヨーロッパで発達した短根種の三寸人参(原種はイギリスのショートホーン Short horn),五寸人参が導入された。これら欧州系品種は気候や土壌に広く適応し、生育が早く、さらに収穫期間が長いので今では栽培の中心となっている。品種は黒田五寸系統の向陽2号が中心で、ほかに夏蒔(なつまき)鮮紅(せんこう)五寸,陽明五寸などがある。近年はサラダや付け合わせにミニキャロット、またはベビーキャロットといわれる10~50gくらいの小型の人参や、レストラン向けにナンテス型(冷涼な気候のヨーロッパでは多い)と言われる太さが同じで花形に抜いてもムダのないもの、くさみがなく食べやすい黄色の人参(協和種苗の金美(きんび))も栽培されている。根が育たないうちに早どりしたものは、「葉にんじん」として柔らかい葉をお浸しや和え物に使う。                            

 

 生育適温は15~20℃で、酸性土と高温乾燥を嫌い冷涼な気候を好み、適温のときには根の形が整形で根色ももっとも鮮明になる。栄養的にはカロテンが大量に含まれ、このカロテンは皮近くに多いので、皮は薄くむくか、みずみずしいものは皮のまま用いるとよい。煮物や揚げ物,きんぴら,炊き込みごはんや五目ずし、バター炒めをして肉料理の付け合わせ,生でサラダなどにする。葉も若いうちは食用となり、汁の実やつくだ煮,から揚げ,パセリの代用とする。

 2022年の栽培面積は16,500ha,収穫量は582,100t、収穫量構成比は、①北海道28.9%,②千葉19.0%,③徳島8.3%、そして青森,長崎,茨城,熊本,鹿児島,愛知,埼玉,宮崎…と続く。

選び方と保存 鮮やかな赤色で茎の切り口が小さく、肌の滑らかなもの。首のところが緑色になっているのは土の上にでていて日焼けしたもので味が落ちる。保存はポリ袋に入れて冷暗所へ、小さく切ってゆでてから冷凍も可能。

旬 9~12月と新物が出回る4~5月。

 

ミニキャロット

 

 ベビーキャロットともいい、密植栽培をして根の大きさが10~50g,長さ10㎝位の小型で収穫をするもの。ヨーロッパではフォーシング型と呼ばれ、甘味があり皮ごとステックサラダにしてセロリなどとかじったり、料理の付け合わせやシチュー,バター炒め,煮物とする。品種は、リトルフィンガー,バニーバイト,アムステルダムフォーシング,金港三寸など。ほかにもゴルフボール大の丸型のにんじん,メヌエット,ハートボール,パリジェンヌなどもある。 

 

金時ニンジン (京人参)

 

東洋系の代表品種で長さ30cmぐらい、鮮紅色で肉質が柔らかく甘味が強い。赤色はトマトと同じリコピンによるものでカロテンは含まれないことから、人参臭が無い。料理には煮くずれしづらく和風の煮物,ナマスによくあうことから、関西地方でのおせち料理には欠かせない存在で、年末になると出回る。

カロテンとにんじん

 

 野菜,果物の色素はカロテノイドといわれ、この中にカロテン,リコピン,キサントフィル,ルテインなどがある。作用として抗酸化,免疫賦活(めんえきふかつ),抗発ガンなどが確認されている。このカロテノイドの中でビタミンA効力を有するものをプロビタミンAと名付けており、カロテン(β(ベーター)の効力が高い)に代表される。

 

 人参にはこのカロテンの多いことが特長で、人参の中から最初に取り出された。従って、カロテンの名前は人参の学名carotaに由来している。このカロテンは、脂肪に溶け込んだ形で体内に吸収され、小腸壁や肝臓で分解されビタミンAが作られるので、油を使って料理すると吸収率が高まりにんじんの場合で50~70%である、また、油が野菜の表面を覆うので、熱や空気からビタミンCを守る。ちなみに、煮物で30%,生食の場合は10%の吸収率である。カロテンはにんじんの皮の下の組織に多く含まれているので、洗うだけか、皮は薄くむくとよい。(五訂日本食品成分表・2000年よりドイツ語のカロチン,カロチノイドから英語読みのカロテン,カロテノイドへ変更となる)

 

カロテンとビタミンA

 

 カロテンが体の中でビタミンAに変わるのは、含有量の3分の1といわれている。このビタミンAは、のどや鼻の粘膜を保護したり再生する働きを持ち、目の病気である夜盲症(いわゆるとり目)を防いだり、目の疲労,視力の低下,老眼などに効果がある。さらによいことは、水溶性のビタミンと違って肝臓に蓄えられることである。

 

アスコルビナーゼとにんじん

 

 にんじんには特殊成分としてアスコルビナーゼ(ビタミンC破壊酵素)を含むので、料理に際しては注意を要する。大根おろし単独では30分後にビタミンCが約20%減少するが、にんじんのすりおろしと一緒にすると90%も減少するといわれる。これを防ぐためには酢やレモンを数滴たらして酸化しにくくする、そして熱を加えることによっても酸化しにくくなる。正月に作る大根とにんじんの千切りなますはお互いの栄養を補い、アスコルビナーゼのマイナス面を酢で取り除いたもので先人の知恵であろう。また、市販の野菜ジュースはにんじんをゆでてからすりつぶして酸化を防いでいる。

 

マリーゴールドとにんじん

 

 9月に黄色とオレンジの花を咲かせるマリーゴールドの根には、にんじん,大根などの根に入り黒い斑点や奇形を生じさせる病害虫,キタネグサレセンチュウを駆除するα(アルフアー)ターチェニルという物質を含んでいる。これを利用して北海道渡島管内七飯町では、1993年よりマリーゴールド(アフリカントール)を植えている。農薬を減らして低農薬で販売できるとともに、花を土中にすき込んで肥料も半減できる。

 

*2019年、中部大学・応用生物学部・環境生物科学科の長谷川浩一准教授らのグループがマリーゴールドにセンチュウを駆除するのが、分泌される化学物質αターチェニルの酸化作用であると細胞・遺伝子レベルで突き止めた。

 

タネと光

 

 タネはたいてい土の中で発芽するので光が不必要と考えやすいが、大部分がなんらかの影響を受けるといわれる。タネが発芽するときに光を必要とする(好光性)ものは、あまり深く土をかぶせると光がタネに当たらないので発芽しない。こうした野菜にはごぼう,シソ,春菊,セロリ,にんじん,みつば,レタスなどがある。またこれとは逆に光が当たると発芽しない(嫌光性)ものは南瓜,大根,唐辛子,トマト,ナス,スイカなどで土をやや厚めにかぶせる必要がある。

 

高麗人参 (コウライニンジン)

 

 中国東北部,朝鮮半島北部が原産地のウコギ科の多年草、別名薬用人参,朝鮮人参,御種(おたね)人参とも呼ばれる。韓国が

KOREA と称されるのも高麗人参からきている。根が枝分かれして入り組んで人間の形をしている。江戸時代には親の病気を直すために、娘が遊郭に身を売ってこの薬を買い、親に飲ませたという話があるほど、高い薬であった。収穫は4~6年根がよいとされ、これは含有するジンセノサイドRb1(鎮静効果)とジンセノサイドRg1(疲労回復効果)のバランスがとれていることによる。成分はサポニン配糖体のジンセノサイドや各種ビタミン,脂肪油,コリンなどで、食欲不振,冷え性,低血圧症,貧血症,生理不順,疲労回復によいとされる。薬効成分の似ている植物に同じウコギ科のエゾウコギがある。

 

エゾウコギ

 

 アジア北東部(旧ソ連ではシベリア,アムール川流域,サハリン一帯、中国では黒龍江省,河北省,山西省)や北海道東部だけに自生する落葉低木で高さ2~3m、ロシアではエレウテロコック,米国ではシベリアン人参,中国では刺五(シゴ)加(カ)、わが国では北海道に自生する事からエゾウコギと名づけられた。エゾウコギの幹や枝には沢山のとげがついていることから、明治時代に北海道を開拓した農民からは嫌われた。ロシア(旧ソ連)では早くから研究が開始され、1986年ソ連科学アカデミーのブレフマン博士がその有用性について発表、宇宙飛行士に根から抽出されるエキスを飲ませていたこと、1980年のモスクワオリンピックで活躍した旧ソ連の選手が飲用して大活躍したことから世界的に注目を集めた。エゾウコギの有効成分は、根や茎に含まれる配糖体(ブドウ糖などの糖類と水酸基を持つ有機化合物が結合したもの)エレウテロサイドで、血中コレステロールをコントロールしたり、血圧を下げる,自律神経のバランスを調整する,抗酸化作用や疲労回復作用強精,学習能力向上,脂質代謝改善などがある。