120. ニンニク 葫 大蒜 Garlic

 

 中央アジアが原産で、ユリ科の多年草。古代エジプトでも栽培され、ピラミッドの建設(紀元前2700年ころ)にたずさわった労働者に、「大根,玉葱,にんにく」を支給したとの記録がある。わが国でも「古事記」(712年),「日本書紀」(720年)にも名があり、すでに1000年以上の栽培歴がある。ただ我が国の淡泊な食生活に臭いの強烈なものは合わずに薬用として一部で食べられていただけで、普及は戦中,戦後である。古名を大蒜(おおひる)といい、漢字では葫とかく。

 

 冷涼な気候を好み、適温は15~20℃と暑さに弱く、25℃以上になると葉が枯れ休眠する。にんにくは、花が咲くが実はつかず種子ができないので、球のりん片を分けてふやす。品種には福地ホワイトに代表される六片種の寒地系と暖地系(隠岐(おき)早生,香川六片,上海早生など)があり、寒地系は関東以南で栽培しても球が大きくならない。暖地系はりん片の数が多いといった特長がある。円高と輸送技術の発達によって輸入量が増えて、2003年では27,639tと全体の中では輸入が62%を占めていたが、2006年の残留農薬への規制,ポジティブリスト制度、2007年の12月下旬の中国製冷凍ギョーザの中毒事件を契機として減少,停滞している。

 

 食用にする部分はたまねぎと同じにりん茎といって、葉の基部がうろこ状にふくらんで出来たものである。にんにく特有の臭気を持つ刺激成分はアリインで、切ったりすりつぶして細胞が破壊されると、その中の酵素アリイナーゼが活発に働き、アリシン(硫化アリル)を生成し臭いをだす。過熱して酵素をこわしておくと辛味も臭気も少なくなって食べやすい。このアリシンは強い殺菌作用がある。また、アルカリ条件の試験管内ではビタミンB1と結合するが、そんな料理はないので、B1の多い食品と一緒に食べると効果的といった記載は間違いである。これと並ぶ成分にスコルジニンがあり、新陳代謝を盛んにする強力な作用があって体内に入ってきた栄養物をエネルギーにしたり、抗疲労作用や精子の増殖を促す作用、あるいは心臓の働きを活発にする作用があるといわれる。食後の不快臭はアリルメチルスルフィドで、肝臓でたくさん作られる他、口の粘膜,腸や皮膚など全身で発生し約16時間は継続する。食べるときにはこの時間を考えておく必要がある。

 

 近年、中華料理や西洋料理の普及とともに、肉や油の料理に肉類の臭いをやわらげたり、香気を引立てるかくし味として使われている。

2022年の収穫量は20,400t、構成比は、①青森66.2%、そして北海道,香川,岩手,鹿児島,福島,秋田,長野…と続く。

選び方と保存 粒が大きくさわって固いもの。保存は網袋に入れて風通しのよい所へ、冷凍するなら皮をむいて丸ごとか、すりおろして入れる。

旬  11~12月と新物が出回る5~7月。

 

福地ホワイト

 

 青森県で、古くから栽培されていた在来種の中から選抜されたもので、産地の福地村の名と、りん片が純白なことから名前が付けられた寒地系の品種。りん片が6個と少なく、従って個々のりん片は大きいため調理しやすく、市場の評価は高い。ただし、生産の面からはりん片が大きく6個しかないことは、毎年同面積を栽培するとしても生産球の6分の1が種子用になるので、種苗費が高くなるといったマイナス面になる。

 

黒にんにく

 

 生のニンニクは臭いや刺激が強烈ですが、ニンニクを熟成させると酵素の働きで色が真っ黒になり、臭いの原因となる揮発性のイオウ化合物が減るため、くさい臭いは弱まり食べた後に不快臭がない。また食感はプルーンのようなドライフルーツに近い。加えて、ポリフェノール類の含量が増えると共に、S-アリルシステイン・水溶性含硫アミノ酸という健康維持に役立つ成分が新たに生成している。黒にんにくは皮をむいて、そのまま食べてもよいし、煮物,炒め物などいつも通りに使える。

 

 作り方 1.炊飯器を使う…焦げないように竹ざるなどに載せて、丸ごと皮付きのまま炊飯器に入れる。「保温」ボタンを押し10日~2週間くらい放置をする、その後、常温で10日間ほど熟成させて出来上がり。2.もっと簡単に作るなら、丸ごと皮付きのままアルミホイルで三重にくるみ、魚焼き用の網に載せてコンロで強火で約15分焼く。裏面も15分焼いて、そのまま余熱でしばらく蒸らして出来上がり。

 

 

輸入量の多い野菜

 

 2013年の生鮮野菜の輸入量は全体で81.2万t、多い順に、①玉葱30.2万t,②南瓜10.5万t,③にんじん8.3万t,④ながねぎ5.5万t,⑤ごぼう4.1万t,⑥ブロッコリー3.6万t,⑦パプリカ3.4万t,⑧きゃべつ3.1万t,⑨しょうが1.9万t,⑩にんにく1.9万tその他となっている。これが2023年では全体で63.5万t、多い順に、①玉葱24.1万tこの10年間の動きは↘,②にんじん8.9万t↗,③ねぎ5.7万t↗,④南瓜5.5万t↓,⑤ごぼう4.0万t↘,⑥じゃがいも3.9万t↑,⑦パプリカ2.5万t↓,⑧にんにく2.4万t↗,⑨しょうが1.3万t↘,⑩キャベツ1.2万t↓となっている。2023年対2013年では78.2%,前年対比では92.2%と減少している。

この推移を見ると、①1997年のアジア通貨危機によりアジア各国、とくに中国では所得のよい野菜の作付面積が拡大し、輸出量が98年から増え続けている。②2002年に中国の冷凍ほうれん草から残留農薬が検出され一時的に減少したが、翌年から増加し、2005年には107万tとなる。③2006年には残留農薬への規制・ポジティブリスト制度の影響から減少に転じ、2007年の12月に発生した中国製冷凍ギョーザの中毒事件以後、大幅な減少となってしまった。④2010年以降、天候不順の影響で国産野菜が品薄になる中、外食産業などでの利用が増えて輸入の中身も変化をしている。⑤2018年をピークとして、その後は毎年減少となっている。人口減少の影響か、国産物重視の傾向か、注視をしたい。 

 

吸血鬼ドラキュラとニンニク

 

   ドラキュラというのは、アイルランド人の作家,ブラム・ストーカー氏が1897年に発表した恐怖小説「吸血鬼ドラキュラ」に出てくる登場人物の名前である。モデルは15世紀のルーマニアのワラキア公ヴラド3世とされているが、実のところは作者がマネジャーをしていた舞台俳優のヘンリーアーヴィング卿と思われる。この本が余りにも有名になったため、ドラキュラと言えば吸血鬼の意味として使われることが多く、ドラキュラの嫌いなものがにんにく,日光,十字架である。これはにんにくが古代エジプトの時代から、殺菌作用と強烈な臭いにより魔除けと悪霊退散の効果があるとされていたからであろう。1920年代に入って舞台劇、1931年に映画が上演されている。

 

にんにくと緑変

 

   ニンニクをすり下ろして保存すると緑色となる、また酢,しょうゆや焼酎に漬けた場合も同様となる事がある。これらの原因には、次のことが推定される。①ニンニクは休眠状態で流通されるが、保管状態が悪い(野積みした場合など)と芽だし寸前の状態になり、内部には葉緑素,クロロフィルが生成され緑変する。②鉄分の多い土地で栽培されたにんにくは、ニンニク臭の元であるアリシンが鉄分と反応して化合物(アルキルサルファイド)に変化するため緑変する。この防止にはニンニクを冷凍し、解凍してから使うと変色成分が破壊され変色しないまま使える。