146. ブロッコリー Broccoli

 

   地中海沿岸原産のアブラナ科の野菜でキャベツなどと同じ原種から分化した。ブロッコリーという名はイタリア語の芽,茎=Broccoからきている。とくにイタリアで発達したのでイタリアンブロッコリーとも呼ばれるが、他の国へ広まったのは18世紀といわれる。欧米でも広く利用されるようになったのはヨーロッパ縦貫の国際列車、ブルートレインの食堂車のメニューに加えられ好評であったことによる。

 

   わが国ヘはカリフラワーなどと同じく明治初年に移入され、芽(め)花椰菜(はなやさい),緑(みどり)花椰菜,木立(こだち)花椰菜とも呼ばれるが、本格的な栽培は戦後,新品種の育成が始まった昭和35年以降である。1982年(昭和57年)以降急速に増加したが、これはその年に四訂日本食品標準成分表が発表され健康に必要な栄養素が豊富なことが広まったこと、前後して緑黄色野菜が注目されだしたときでもあった。また、栽培が容易で水田転作の作物として都合がよく、優良な品種が育成されたことも影響している。取扱い数量では、1986年(東京市場入荷量)からカリフラワーを上回って消費が伸び続けている。輸送技術の発達と円高で輸入も多く、1998年では75,158tと全体の中では輸入が50%を占めていたが、2002年の中国産冷凍ほうれん草の残留農薬、2007年の12月下旬の中国製冷凍ギョーザの中毒事件などにより、輸入野菜全般に対する不信感があって減少する。その後2010年の国内産の不作から微増に転じている。

 

   生育には比較的冷涼な気候が適し適温は昼間で15~25℃,夜間で15~20℃、一方花蕾の発育には5~20℃の低温がよいとされ、関東,関西では秋から冬にかけての栽培が中心となる。栽培はカリフラワーとほぼ同じであるが、ブロッコリーは中心の花蕾(頂花蕾(ちょうからい))を収穫すると、わき芽が発達して側花蕾(そくからい)の収穫と続き、長期間の出荷が可能である。ただし商業生産上は頂花蕾が中心である。栽培条件によって花蕾がアントシアンによって紫色になることがある。品種はおはよう,ピクセル,SK9-009,スターラウンド,サマーポイント,ハイツ,緑帝,緑嶺,直緑二十八号,グリーンベール,グリーンフェイス,グリーンパラソルなど。ほかに花蕾の色が紫色や黄緑色のもあるがゆでるとみな同じ緑色に変わる。ゆでるときは熱湯に茎を入れて、つぼみの部分は蒸すようにする。茎も皮をむいてつぼみと同じに食べる。サラダやシチューの実,鮮かな緑を生かして各種の添え物にする。栄養はビタミンA,Cに富み緑黄色野菜としての人気が高い。ビタミンAは粘膜や皮膚を強化してガン細胞の発生を阻止したり、目の疲労,視力の低下,老眼などに効果がある。ビタミンAは、脂肪に溶け込んだ形で体内に吸収されるので、油で炒めたり肉料理の付け合わせにすると吸収がよい。ビタミンCはシミやソバカスを防ぎ肌を美しくする。ほかに骨粗鬆(こつそしょう)症の予防となるカルシウムの骨への吸着率を高めるビタミンKがある。

   2022年の収穫量は172,900t、構成比は、①北海道16.3%,②埼玉9.0%,③愛知8.7%,④香川7.7%,⑤徳島6.8%,⑥長野6.7%,⑦長崎6.3%、そして熊本,鳥取,群馬,福島…と続く。

選び方と保存   茎がしっかりと太くて切り口がみずみずしく、つぼみが大きく密生して濃い緑色のもの。保存はラップに包んで冷蔵庫へ。冷凍するなら、固めにゆでてポリ袋に入れる。

旬   2~5月、次いで10~12月。

 

 

輸送とムレ

 

 遠隔地の産地や暑い時期には、温度管理上から発泡スチロール容器に入れての輸送が必須となる。そのときに発泡スチロール容器で密封されるため、内部で呼吸ができずに酸欠状態、または炭酸ガス過剰となり硫黄成分が悪臭となって出てくることがある。これの改善には米国からの輸入ブロッコリーが行っているような、ろう引きの段ボールにクラッシャーアイスと一緒に入れての輸送が最善であろう。

 

*硫黄成分…ブロッコリーやキャベツなどアブラナ科野菜に特徴的な臭いはチオシステインという硫黄を含んだ物質による。

 

空洞果とブロッコリー

 

 降雨や気温の変化などの天候の影響でブロッコリーが急激に成長すると、茎の生成が追いつかなくなり、空洞ができる場合があります。これは強い栄養生長で起こるといわれ、つまり急激に高温になったり,乾燥から過湿になったり,窒素肥料のやり過ぎやホウ素欠乏,土壌乾燥や植物体が高温になると発症する。さまざまな環境条件が重なって発生している場合が多く、簡単には特定できない。

 

 

異常花蕾(からい)

 

   生育途中の花蕾を利用することから、温度変化に敏感で花芽の変化が起きやすい。①ブラインド…きわめて低温か高温に合うと、生長点の発育が止まる現象。②バトニング(早期出蕾)…幼苗期を過ぎた頃に低温に会うと発生しやすくなり、小さな花蕾となる。③リーフィー(さし葉)…花芽分化期に高い温度に会うと発生しやすくなり、花蕾の間に葉が発生する。④ヒュージー…花芽分化の後期に高温に会うと、小包葉が発達し鳥の羽毛のようになる。⑤ライシー…花芽分化の後期に低温に会うと、小花蕾の中に小花ができて表面が粟粒状となる。⑥キャッツアイ…花蕾粒の不揃いで、小花蕾の中央の蕾が小さく猫の目状となる。⑦不整形花蕾…花蕾面の蕾の発育が不均一で、花蕾面が凹凸したり着色が不均一になる。

 

市場拡大

 

 国内の作付面積は2022年で17,200haと10年前と比べ126%と増加。発泡スチロールに氷を詰めて遠隔地への輸送が可能になり、販路が拡大したことも背景にある。ブロッコリーの購入量はこの10年で2割増えた3.7→4.5kg(注)、明らかに消費者の食べる頻度が高まった。消費量がここまで伸びた理由は、ビタミンCやベータカロテンなど栄養価が高いことや、電子レンジで加熱して食べられる簡便性など。サラダや炒め物、煮込み料理と調理の幅が広く、どの季節でも食べられる、お弁当の隙間を埋めるにはもってこい,子ども受けも良い。アメリカからの生鮮物の輸入が減少するとともに、中国からの冷凍品の輸入は増えている。

(注)「家計調査結果」(総務省統計局)(https://www.stat.go.jp/data/kakei/5.html)の資料から

 

指定野菜

 

 ブロッコリーは2026年度から「指定野菜」に格上げされる。指定野菜は農水省が、消費量が多く国民の生活に欠かせない重要な野菜として国が位置付け、安定供給を目指す品目。指定野菜となれば、価格下落時の補填(ほてん)率が高まり、経営の安定が見込まれる。1966年度にキャベツ,キュウリ,ダイコン,ハクサイ,トマト,タマネギの6品目が対象となり、その後サトイモ,ナス,ニンジン,ネギ,ピーマン,レタス、ホウレンソウが増え、1974年度にジャガイモが加わり現行の14品目になった。