166. ミョウガ 茗荷

 

 日本を含む東アジアが原産といわれるショウガ科の多年草で、わが国でも歴史は古く、「延喜式」(927年)に漬物としての記載がある。日陰でよく育ち地下茎で増え、この根茎から卵形の短い花穂がでて赤紫色の多数の包片(ほうへん)をつけ、包片の間から淡黄色の花をつける。まだ、この花を出さないうちの花穂を「みょうがの子」、一般にはみょうがといって収穫し食用とする。花が咲いたものは、なかに空洞ができ食味が落ちるが、花を盛りつけに使うこともできる。ここ15年ほどで生産状況は大きく変化をしている。露地栽培が半減をして全体の生産は微減にとどまり、代わりに高知県での施設栽培(ハウス栽培)が増えるとともに出荷のピークが早まっている。昔から、食べすぎると物忘れをすると伝えられ、一部の市場では俗(ぞく)に「バカ」と呼ばれている。

 

 花穂には、こころよい辛味と香りがあって、茎とともに細かく刻んで刺身のツマや汁の実,和え物,冷麦やそうめんに添える。夏場の食欲を増進する効果が大きい。生食のときは、切ってから水に放してアク抜きをする。貯蔵には塩漬けや、梅を漬けたシソの中に漬けておくといつでも食べられる。

2020年の収穫量は5,440t、構成比は、①高知93.4%、そして奈良,秋田,群馬,長野,山形…と続く。

選び方と保存  全体に赤みを帯びて光沢があり、ふっくらとしたもの。保存はポリ袋に入れて冷蔵庫へ。

旬  5~9月。

 

茗荷宿 みょうがやど

 

 上方落語のひとつで、街道すじにある宿屋に一人の金持ちが宿泊した。欲張りな宿屋の夫婦が荷物を忘れていくようにと考え、茗荷を食べると物忘れをするという話を信じて、みょうがづくしの料理,ミョウガの炊き込み御飯,ミョウガの卵とじ,ミョウガ入りみそ汁,ミョウガの漬け物,ミョウガのてんぷらなどを食事に出して食べさせた。さあ、朝になって、この客が荷物を忘れていかなかったかと探しますが、忘れ物はありません。女房「なんだ、茗荷の効き目もなかったね、お前さん」。すると、亭主「いや、よく効いた。宿賃(やどちん)を払うのを忘れていった」

 

周梨槃特(しゅりはんとく)と茗荷(みょうが)

 

 お釈迦さまの弟子に周梨槃特(しゅりはんとく)という人がいた。たいへん物覚えが悪く、自分の名前まで忘れてしまうため、首に名札を掛けていたが、名札を掛けたことさえも忘れてしまう程でした。自分のあまりの愚かさを嘆いた周梨槃特はお釈迦さまに破門を願い出た。しかしお釈迦さまは「自らの愚かさに気付いたのだから、お前はもう愚か者ではない」と諭(さと)され、箒(ほうき)とちり取りを与えて「お前はこれで毎日掃除をしなさい。その時には『塵(ちり)を払え垢(あか)を除け』と唱えよ」と修行を与えた。周梨槃特は、お釈迦様から与えられた二つの文句を暗記するとともに、真に払い除くべきものは、実は自分の心の中の汚れなのだと気付く。そして遂に阿羅漢果(あらかんか) (悟り)を得たのである。

 

 その周梨槃特が亡くなった後、その墓に生えてきた草を「彼は自分の名前を荷なってきた」ということで、名の字にくさかんむりを付け、茗荷(ミョウガ)と名付けた。それから茗荷を食べると物忘れをすると言われるようになった。また、茗荷は音が冥加(みょうが)(神仏の守護)に通じることから、縁起のいい意味にも用いられ特に神社、仏閣の家紋に使われている。    


                      抱き茗荷          花茗荷       お釈迦様

*ここでのお釈迦様の教え

―悟りを開くということは、決して沢山のことを覚えることではない。たとえ、僅かなことでも、それを徹底しさえすればよい―

―自分自身の愚かさを知る者は、むしろ智者なのだ。本当の愚か者は、自分自身の愚かさを自覚できないものだ―

 

天上天下(てんじょうてんが)唯我独尊(ゆいがどくそん)…お釈迦様は生まれて直ぐに七歩歩いて、右手で天を、左手で大地を指さして「天上天下唯我独尊」と言われたと伝えられている。この言葉の意味するところは、天上天下にただ一人の、誰とも代わることのできない人間として、このいのちのままに尊(とうと)いということの発見である。これは、釈尊の教えを聞いた人々が「釈尊は、生涯このことを明らかにせんとして歩まれた方である」という感動を表現したものである。