190. ワサビ 山葵

 

   日本原産のアブラナ科の多年生水性植物で、渓流のある山地に自生したものから改良されて栽培種となり、いまでは台湾,韓国でも栽培されている。ホースラディシュ(西洋わさび)に対して、本わさびとも呼ばれる。

 

   わが国での歴史は古く、「本草和名」(918年)に記録がある。江戸,文政時代には、寿司屋与兵衛がワサビをはさんだ小鰭(こはだ)やえびの握りずしを作り人気を集めた。わさび漬けは、宝暦時代(1751~63年)に田尻屋利平衛が静岡・安倍川上流のわさびの産地に出入りをしているときに商品化をしたもので、葉柄をさっと湯通しして酒粕漬けとした。その後、東海道本線の開通(明治22年)とともに駅のみやげとして、これも人気を集めた。

 

   地下茎が細長く節状になっており、特有の辛味,からし油類(すりおろすと茎葉に含まれているシニグリンという配糖体が、ミロシナーゼという酵素に分解されて生ずる)を持っている。この辛味,アリルイソチオシアネートは、強力な抗菌性と抗カビ性を持っていて、寿司や刺身など生魚のツマとして添えるのは、薬味としてだけでなく、こうした防腐殺菌の効果もかねている。

 

   渓流などの浅瀬やワサビ田で栽培されるのを沢わさび(静岡,長野が産地)、湿気の多い山間畑地で栽培されるものを畑わさび(長野,島根が産地)と呼んでいる。品種には、青茎わさび,赤茎わさび,白わさびがあるが、一番栽培が多いのは青茎わさびで、主に関東以南の渓谷で、四季を通じて12~15℃の適温のわき水と直射日光を嫌うのでヤマハンノキを植えて半日陰を作り栽培される。温度が高いと葉が繁茂して根茎の発育が悪く、辛味も少ない。収穫は年間を通じて随時行なわれるが2年以上を必要とし、伊豆の青茎わさびは品質のよいことで有名である。ほかに、若くつぼみの付かないうちのを葉わさび、白い花を付けたものを花わさびとして利用する。

選び方と保存   太くてみずみずしいもの、辛味は根茎の上部に最も多いので上と下とを交互におろすとよい。保存はポリ袋に入れて冷蔵庫へ、また、そのまま冷凍して使うときに凍ったまま必要な分だけすりおろして使う。

旬   年末需要で12月、次いで4~8月。

 

加工わさび

 

 粉わさびは大正3年(1914年)に、静岡のわさび仲買人の小長屋与七が、お茶からヒントを得て乾燥・臼引(うすび)きという方法を考えたもの。始めは原料が本わさびだったが、コストの面から昭和13年にはホースラディシュ(西洋わさび)となり、とくに戦後急速に消費が伸びた。

 

さらに、昭和45年(1970年)にはチューブ入りのねりわさびが売り出され(エスビー食品)、簡便性が受けた。当初は原料が西洋わさびであったが、バブル景気(1986年12~1991年2月)を背景にグルメブームが起こり本物志向もあって1987年には本わさびと混合であったり、本わさびだけのもある。そして2012年には、かんだときの食感を大事にした刻みわさびのチューブが発売、近年は肉にも会うことをアピールして料理の幅を広げている。これらの容器の材質も金属からラミネートヘ、そして中身の見えるポリエチレンへと変わっている。